ゆきねぎの投稿作品一覧
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「ありがとうでござる」
フレンドから贈られてきたのは、新品のボカロ『初音ミクV4』だった。
「これは困るでござる」
なにせ拙者は、生粋の生身アイドルのファンである。
アニメや漫画などの女の子など、興味が薄い。
実体がないものに、興味など湧こうはずもない。
お金を使うなら、アイドルにと決めて...『マネイ・イート!』(初音ミク)
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それからずんねえさまの料理に舌鼓を打ったあと、私とウナちゃんはぱじゃまになった。
いつもならこの時間は、携帯ゲーム機の時間にしていたが、不思議とやる気にならない。
心地よい疲れが私の体にまわっていた。
そんな折、瞼が閉じかけているところで、カリカリと奇妙な音が聞こえてきた。
ウナちゃんのと...『とうほくびより!』2/2
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「きりたん、ゲームは一日一時間。お外で遊びなさい」
ゲームに夢中になっていると、ずんねえさまがそんなことを言ってきた。
ずんねえさまは大きな胸の前で腕を組んで、口をへの字に曲げている。
「そんなこと言ってもずんねえさま。外は暑いです」
磨りガラス越しから、ミンミン蝉の歌声が聞こえてきた。
日...『とうほくびより!』1/2
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「「ただいまー」」
あ、ハモった。
私は慌てて葵を見る。
葵は素っ気無く別の方向を向いてしまう。
少し嬉しかった。
「なああおいー」
「私、忙しいから」
葵は私の手をかわして、リビングに行く。
また実況動画を見るらしい。
「じゃあ葵、私はいってくるね」...琴葉茜『お姉ちゃん』2/2
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妹と比べられるのが嫌だった。
葵はなんでもそつなくこなした。
料理も手芸も勉強も、なんでもかんでもそつこなくこなしていた。
でも私は、
料理⇒× 手芸⇒× 勉強も駄目だった。
私が何倍も笑われるかわりに、妹は何倍も褒められた。
それに嫌気がさすようになってから、妹とギクシャクするように...琴葉茜『お姉ちゃん』1/2
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「見込み違いでした」
マキはゆかりを正面から見られなくなっていた。
原因は、彼にあった。
あたしのおかげですぐに弾けるようになっていると想っていた。
しかし、彼の挫折は想像以上に深刻だったらしい。
「……あと一ヶ月もない」
なかなか感情を露わにしないカナまでも、感情を出し始めている。
「こ...弦巻マキ『ぎゅんぎゅん慣らし』後編
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――ぎゅん……ぎゅんぎゅん
「はぁー」
いまいちノらないギターの音に、弦巻マキはため息をついた。
「マキさん、どうかしたのですか?」
心配そうにマイクを握った結月ゆかりが顔を見てくる。
ゆかりが端を発したのか、他のjamバンドメンバーも演奏やめて、心配そうにマキを見に来た。
「……しんぱい」...弦巻マキ『ぎゅんぎゅん慣らし』前編
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目の前の一軒家は変哲も無かったのだ。
壊して取り出した材木や壁材も跡形も無くなっていて、工事した後とは思えないような状態だったのだ。
「どういうことなのよ」
これが、先達たちが投げ出した原因なの!?
アタシたちはそれに近づいて触ってみる。
何も変哲も無かった。
「……どうするリンちゃん?」...鏡音リン(大人リン)『鏡音建設・会長鏡音リン自伝『共鳴』』後編
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会長を退任するに当たって、易経新聞社から自伝の依頼が来た。
依頼が来た当初は、アタシに自伝なんて大それたことをと思っていた。
しかし……アタシたちの会社――鏡音建設は半世紀を越えて、今世代交代を行おうとしている。世代交代に伴い、社内の改革も始まっている。
それに助言をしていた時に抱いたのは、...鏡音リン(大人リン)『鏡音建設・会長鏡音リン自伝『共鳴』』前編
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目を開けると真っ白な天井と薬品の匂いがあった。
ここは病室。
「そうか、そういうことか」
しばらく休養して退院する。
逸る気持ちを抑えて、身体をしっかりと治す、
車を飛ばして、丹頂神社へ向かった。
車を脇に止めた。
「ミクさん!」
神社に入って、その名を呼ぶ。
誰も出てこない。...雪ミク2018『恋する雪の少女』後編
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目の前には大きな赤い鳥居があった。
俺はそれをカメラの射程に入れて、シャッターを切った。
――カシャン
すると、静かな空間に、シャッター音が響き渡る。
ここは、北海道の丹頂神社。丹頂の神様が居る神社だ。
俺の名前は、渋谷直行(しぶや なおゆき)。大学生。教授の依頼で、この神社の調査に来た...雪ミク2018『恋する雪の少女』前編
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「すすむー! こっちに投げてみろよ」
「はいよー」
俺の名前は箕田すすむ。高校生だ。
今は放課後。友達と帰り道、暇つぶしにキャッチボールをしていた。
今日の肩は調子が良い。
どれ、ちょっと本気出すか。
「本気出すぜ」
「あ、おい!」
俺は肩を勢いよく振って見せた。
ブンと風を切る音が耳に...GUMI『その手で触らないでよ!』
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夜になるのを待って、わたしたちは祭壇へ向かった。
その道中、さまざまな建物を通り抜けて行ったが、どこも静かなものだった。
いいえ、静かすぎた。
活気がある町は、夜も活気があるはず。
それなのにこの町は、人っ子一人もいない。
いいえ、昆虫や動物も見かけない。
生きているのに、死んでいる。...IA『召喚士イア』(後編)
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「おまえは破門だ!」
「おばあさま! 待ってくださいおばあさま!」
わたしは門を力の限り叩くが、扉の奥にいるおばあさまは返事を返してくれない。
時刻はすでに夜。はやくしないと深夜になってしまう。
「おばあさま! ごめんなさい! 許して! 許して!」
わたしは扉に耳を当てておばあさまを確かめる。...IA『召喚士イア』(前編)
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「キヒヒヒヒヒ」
テンションマックスになったゆかり先輩が、背丈を越える刃渡りを持つ鎌をぶん回していく。
風を切る音が周囲に響いた。
それと同時に、金属と金属がぶつかり合う音が響き渡った。
半狂乱になった罪人が銃を乱射しているのだった。
俺はというと、周りの罪人を狩り終わったところだった。
...結月ゆかり(死神)『因果を狩る者たち』
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夜が深まってから、喫茶店へ入った。
良かった。俺が来ることをわかっていたみたいだ。
俺が喫茶店に入ると、ルカとリン、それと……青年団の服を身にまとった男が居た。
「ヨウイチさん、心配しました」
「今、村中であなたの話題持ちきりよ」
「よくやった」
「あ、彼はこの村の青年団で、反村長派のレンよ」...巫女ミクその4『終りの巫女』後編
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「あっちへ逃げろーーーー」
「早く、逃げなさい!」
メキメキメキ、と地面を突き破り、その音は本殿まで広がっていった。
目の前に起こっていることに、私たちはなすすべもない。
「お父さん! お母さん!」
本殿には、お父さんとお母さんがいるのに!
「待ちなさい。もう無理だ」
私はお父さんとお母さん...巫女ミクその4『終りの巫女』前編
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手と腕に抵抗を感じ始めたのは数ヶ月前からだ。
それから徐々に、両手両腕に重みを感じ始めて、
そして今、初めて得体の知れない恐怖を感じて、両腕と両手が動かなくなってしまった。
ドラムを叩こうとしても、スティックが途中で止まってしまう。
叩こうとしても叩けない。もどかしい感覚。
これが、ライ...カイト その1
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寂れた神社。
有名でもなく歴史もない神社。
そこに神が降りることがある――
「たくみー、進路提出しろー」
「へーい」
「へーいじゃなーい。出せー」
「へいへーい」
俺は教師の言葉をさっと受け流して教室を出た。
教師の進路の質問に答えられないからだ。
俺はこのまま大学行くか? それとも就職...巫女ミク その3
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窓一枚隔てて、僕の世界はここで終わる。
六畳ほどの空間が、僕の世界。
毎日届けてくれるお母さんの料理が、僕の外界との接点だ。
……このままじゃいけないことは分かったいる。
でも、外が怖い。
その恐怖は、得体の知れないモノで出来ていて、僕はその恐怖に打ち勝てないでいた。
僕は窓から離れて...初音ミク その2
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「マスター! マスター元気出して!」
画面越しに、マスターがうなだれているのが見える。
彼の検索を見ると、来週修学旅行みたい。
でも、彼には修学旅行にいい思い出がないらしく……。
どうしても元気付けてあげたい! 一人じゃないことを教えてあげたい!
お願い! 私に力を……。
わたしは透明な...初音ミク その1
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「おなか……減った」
眼前に見えるのは大きな屋敷。
大きな大きな冷蔵庫……じゅるり。
屋敷の片隅で俺は体育座りをする。
「お前が次期当主だぞ。あとは頼んだ」
そう言って父と母は世界一周旅行に行ってしまった。
ここは、除霊を生業とする一族の屋敷。
俺はその十三代目に当たる。
父と母が言う...巫女ミク その2
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世界を呪っていた。
こんなにも駄目な俺は生きている価値なんかない、と。
だから、俺は終わりを迎えても良い場所を探していた。
唯一の居場所から、離れ、死んだ目をして、バイクで各地を放浪する。
山を越え、
谷を越え、
森を越え、
ガス欠になったところで惹かれたのは、さびれた神社だった。
...巫女ミク
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「ニャーニャー」
と悲しげな猫の声が無数にベッドの周りで響き渡る。
それを呆然とした表情を見せながら寝ぼけ眼の少女が訴える。
「なんとかしてください!」
彼女が言うには、最初は猫の祟りだと思ったらしい。
道端に死んでいる猫を埋葬したその日から、猫が悲痛な声でベッドの周りをうろつくのだった。
...退魔師ミク その3
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月曜日。
俺たちは退魔師協会の依頼で郊外の一軒家を訪れていた。
「タクミ、ここでいいの?」
依頼内容は郊外の一軒家にとりついた悪霊を退治すること。
ミクが指差した先には、建てたばかりの新築の一軒家があった。
協会の話では、実は建て直す前のいわくつき物件を強引に建て直してみた結果、こうなった...退魔師ミク その2
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「次の獲物は?」
背中に背負った無数のネギから一本を取り出し、ミクはそれをぶんぶん振り回す。
タクミはそれを横目にしながら、地図を開き、次に狩る妖魔を探していた。
いた! この路地を抜けた先にやつはいる。
「すぐ近くだ。準備は良いか?」
「任せてよ!」
タクミとミクは連携をとりながら、路地を...退魔師ミク
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ミクは机に頬杖をついて、唇と鼻の間に緑の鉛筆を挟みながら、カレンダーを眺めていた。
「暇だ~」
ボーカロイドには、受験も学校もない。だからといって、夜の倉庫で運動会をやるわけではない。マスターが指示してくれるまで、なにもすることが無い。この頃ゲームの仕事場も増えてきたから、だいぶ暇な日が無くなっ...赤い水晶を探して その1