タグ「鏡音リン」のついた投稿作品一覧(148)
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終章 雨降って地固まる
「きゅ、休暇取り消し!?」
二日後の夕食後、アズリの泣きそうな悲鳴が部屋に響いた。そのまま蹲って地面に向かって呪いの言葉を吐き出し始めた恋人を見て、極大の疲労感を覚えつつ頭を掻く。
認める。レンが悪い。
他の女性と一週間も現を抜かし、その我慢代として提示していた休暇を...悪ノ召使 番外編(終章
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「はあ、これから仕事か」
身体を伸ばしながら室内への入り口に足を向けた。普段の仕事に加えてアズリの分もある。本気で取り掛かり、ディーの指定した時間までに終わらせなければならない。
「レン」
これが戦争経験のなせる技なのか、完全に気配を絶っていた親友に中庭から出たところで背後から声をかけられ、心臓...悪ノ召使 番外編(18-3
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王女を連れ出して中庭に座らせて、サリーに紅茶を出してもらった。この二日と同じように、彼女が楽しめそうな話題を選んで口に出して行く。
いつかの侍女程ではないがこの王女様の度胸も大したもので、すぐに表面上に平静さを取り戻した。そんな王女を見て、改めて思う。
リンに似ている、と。
レンに会ってから...悪ノ召使 番外編(18-2
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第十八部 傲慢
青の国第三妃の末子としてこの世に生を受けたユリーシャ=ミットフォードは、幼い頃から酷く病弱だったことから外出を極端に制限されてきた。青の国の風習で実の兄姉にもなかなか会えず、人恋しさから周りの人間がどうすれば己に会いに来てくれるかを常に考えるようになった。
ユリーシャはその幼少...悪ノ召使 番外編(18-1
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次の日。
宰相執務室で日常通りの仕事を午後から時間を作るために二倍速で片づけていると、歩哨と聞き覚えのある声の短い口論が聞こえ、それから歩哨の制止の声を遮って乱暴にドアが開けられた。そうして入って来た総務大臣と、その後ろから小柄な身体をただでさえ小さく丸めた恋人が続く。
二人とも両手一杯に書類...悪ノ召使 番外編(17-2
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第十七部 嫉妬
青の国第十七王女、ユリーシャが黄の国に来た次の日の夜。まだ期間にして丸二日も経っていない二も関わらず、アズリの精神状態は最悪を極めていた。
「また、夕飯さぼられた」
寝る仕度を済ませてしまってから、苛々と吐き捨てて自室のベッドに潜り込む。そんなに長い時間付き合わないと言っていた...悪ノ召使 番外編(17-1
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カイル王子が帰国した次の日。イルはレンとセシリアと共に、応接間で賓客を待ちうけていた。相変わらず親友はこの期に及んでも冷静で、他二人の方が緊張しているのは火を見るより明らかだ。
レンが部屋に来る前にカイルにユリーシャ王女の密かな恋心を打ち明けられて、イルはほとほと困り果てた。政治的な理由ではなく...悪ノ召使 番外編(16-2
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第十六部 縁談
青の王子の突然の来訪から六日、帰国前夜にレンは再びイルに王子との晩餐に誘われた。
「カイルがどうしてもって言うんだよ。時間取れないか?」
話があるなら何度も行った会議中にでも言ってくれればいいのに。そんな事を思いながらも、その日は仕事が定時に終わったので親友の部屋に赴いた。夕食...悪ノ召使 番外編(16-1
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遅れに遅れた仕事をようやくこなして、セシリアとカイルとのんびり夕食をとった後のこと。
「マリルもダヴィードも、悪いようにはしないで済むと思う」
広間のソファに隣り合って座りながら、会議の結果を訊ねられたのでこう返すと、元青の王女はとても嬉しそうだった。
「ありがとうございます。彼らには、本当にお...悪ノ召使 番外編(15-2
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第十五部 夜伽話
「なんで僕の寝間着着せてるの?」
サリーにしっかりと世話を頼んだはずで、しかし会議を終えて部屋に戻った時なぜかアズリはレンの寝室で寝ていて、そして科白通りレンの寝間着を着ていた。
「女性の家具の中覗く趣味はありません」
レンのクローゼットを漁る趣味はあるのだろうか。悪戯心たっ...悪ノ召使 番外編(15-1
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なんでこんな事態になっているんだろう。
地下に造られた練兵室。表向きは武術とは無縁の貧弱男である、レンが訓練するときのために作ったもので、位置的にも滅多に人は近づかない。その部屋で繰り広げられている木剣のぶつかり合いを見ながら、レンはこう思わずにはいられなかった。
カイルの知らせから数時間。有...悪ノ召使 番外編(14-2
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第十四部 青の王子
鬼も逃げ出しそうな殺気を放ちながら、嬉々として謁見の間を出て行く親友の背中を見送った。
運の悪い奴だな。その外交官も。
内心で呟く。他国から来る外交官に毒を盛られたことなど、レンは普段きっちり記録しつつも感情的には全く気にしてはいない。
今回あれほど憎悪を漲らせているの...悪ノ召使 番外編(14-1
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今度こそ、レンもイルとセシリアと共に、顔を引き攣らせた。反応する間も無く青の王子は情報を付け加えていく。
「青の国では近年漁獲高が落ち込み、第二の食料生産である牧畜に頼って消費と国益を得ている事は、ご存知だと思います。しかし、家畜の飼料の原料となる穀物は、黄の国からの輸入に頼り切っているのが現状で...悪ノ召使 番外編(13-3
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カイル=ミットフォード、さっきも言った通り青の国第五王子で、さらに第一王位継承者でもある。しかもその地位を受け取ったのは、いや正確に言うと奪い取ったのはつい二カ月前だ。本来第三妃であった母親が、どういう手を使ったのか正妃を引きずり降ろしてその座に就いたのである。
青の国では正妃から産まれた長男が...悪ノ召使 番外編(13-2
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第十三部 来訪
国王陛下暗殺未遂から三週間経ったこの日、アズリ=セフィラドは人生究極の悩みを抱えていた。
「だめ、だよなあ。やっぱり」
今日は珍しく仕事が少なくて、ディーの厚意で午前の業務を早めに切り上げて帰ってきたのだが、当たり前のようにそこに多忙を極める宰相の姿は無かった。溜息をつきつつ、主...悪ノ召使 番外編(13-1
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ふと目が覚めると、レンはモーテルの固い寝台で一人寝かされていた。窓の無い部屋だったので金時計で確認して、取り返しのつかない時間になってしまっていることを確認した。
もう急いでも無駄だったが、それでも人目の少ない早朝に戻るに越した事は無かった。
研究所で着替えて髪の染料を落とすついでに身体も洗い...悪ノ召使 番外編(12-3
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「その前に、もう一つだけ下らない話をさせてください」
実に愉快そうな大臣は、もう少しレンをからかいたいらしい。他の奴らならいざ知らず、彼の要望にはどうにも断り辛い。理由は明白で、レンは心のどこかで彼に許されたいと思っているからだ。
「どうぞ」
「貴方は変わりましたね。イルと会ってから少しずつ、七か...悪ノ召使 番外編(12-2
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第十二部 名前
すぐに蹴りが付くと思われていた暗殺未遂事件。しかしダヴィード護衛官はなかなか動こうとはしなかった。ヴィンセントの部下に見張らせているのだが、国境沿いどころか手紙の一つも受け取らない。
もうマリルを吐かせようと思ったが、ディーが仕事をできないお陰でそれまでとも比較にならない仕事量を...悪ノ召使 番外編(12-1
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安全のため、アズリは食事が終わってもイルの部屋に留まりながらも、ただでさえディーが居なくて滞っている仕事を再会していた。黄緑色の少女はディーのもう一人の助手と共にイルの部屋の前室で、遅れに遅れた計算を何とか間に合わせようと頑張っていた。
いい加減、執務室ってのを作るべきだな。
今までは仕事をで...悪ノ召使 番外編(11-2
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 第十一部 終息
総務大臣、ディー=フィリップが国王陛下暗殺未遂及び宰相暗殺未遂で捕縛。
この衝撃的事実はその日中に王宮中を駆け巡り、数分後に拘束完了を衛兵が報告に来た。イルの部屋でアズリ暴飲暴食を楽しく眺めていたレンと、それを呆気にとられた目で見ていたイルと、化け物のように恐れおの...悪ノ召使 番外編(11-1
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「アズリ、本当に何もされなかった?」
その姿に見入っていると、レンが飄々と近づいてきて抱きしめてくれた。
「はい、大丈夫です」
愛しい人の抱擁に、胸の内に残っているもやもやが払拭されていくようだった。が、その精神状態に合わず、アズリの身体は小刻みに震えている。
違う。
震えているのは、アズリ...悪ノ召使 番外編(10-3
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最愛の恋人に恐怖を抱いたのも一瞬で、その雰囲気はすぐに掻き消された。
「アズリ、大丈夫?」
普段と全く変わらない、優しげな声がかけられた。レンがここに来た時点で、もうアズリにとっては助けられたも同然だ。
「は、はい。無傷です」
でも、お腹減った。と内心で呟く。
「おいおいおい、この状況で呑気な...悪ノ召使 番外編(10-2
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第十部 狂信者と盲信者
イルの部屋を飛び出て廊下を曲がり、体力の浪費を避けるために早歩きに変えた。感付かれると面倒なので親友には何も言わなかったが、どうせ『彼』はまだ動かないだろう。後はディーに任せておけばどうとでもなるはずだ。
自分の部屋に向かう間、静かに冷や汗が服の下で流れていく。
何を...悪ノ召使 番外編(10-1
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運ばれた先で、恐らく椅子に座らされた。運んできた男以外にもまだいるようで、違う声に迎えられて今はほっとかれて近くで会話が聞こえた。
「あの宰相はいつ来るんだ?」
「二時間以内には来るらしいぞ。しっかし、外国人の手を借りるなんて最初は迷ったけど、こんなにうまくいくなんてな」
「全くだ。ヴィンセント様...悪ノ召使 番外編(9-3
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「レンさん、遅いなあ」
サリーの話だと起きていないわけではなく、イルを起こしに行ったまま帰ってこないらしい。もっともこれはそこまで珍しいことではなく、アズリがレンの助手として働き始めるまでは割と良くあったことらしい。
ディーの部下として働き始めてから、せっかく気持ちが通じ合ったレンとの時間がほと...悪ノ召使 番外編(9-2
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第九部 暗殺
手が小さい。身長も低い。手にある長剣が酷く大きく重く感じる。
夢、か?
暗闇の中に浮かぶは、拘束された数名の若い男たち。斜め後ろに控えるは、元貴族の参謀役だ。
ここは王都郊外に設置された、簡易的な処刑場。紅蓮の鉄槌結成当初は、こんなものが必要になるとは思ってもいなかった。しか...悪ノ召使 番外編(9-1
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ほとんどの健全な国民が寝静まった時刻、ほとんどの商店や民家からも光の無い夜道、ディーは街に向かって歩いていた。
全くもって面倒臭い。しかし、それがどうしても必要ならするしかない。これから会い情報を提供し合う相手は、恐ろしい程用心深いのだ。まあ、立場を考えればそうなるのも分からなくはないが。
も...悪ノ召使 番外編(8-2
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第八部 隙
レンは『冷静な狂犬』だ。こう言ったのはディーだった。ヴィンセントという首輪と、イルという鎖が無ければ何をしでかすか分かったものじゃない、テロリストと紙一重の危険人物だ、と。
イルとレンに配偶者ができた今年はどうなるか分からないが、建国記念日は毎年イルの部屋で四人で飲むのが慣例となっ...悪ノ召使 番外編(8-1
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昔々ある所に、たくさんの食べ物を作っている豊かな国がありました。
その国では代々女王様によって治められることが規則で決まっていました。けれどある時、そんな規則を変えるべきだと言う人達が居ました。女王様ではなく、王様が治めることも必要だと考えている人達です。反対に、女王様を望む人達も同じくらい居て...悪ノ召使 番外編(7-3
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戻ってアズリの仕事を手伝って、予定通り午後七時。
「夕食持ってきました」
サリーの号令で、問い質したいのを必死に堪えているアズリを尻目に、レンは己の恐怖を必死に心の隅に追いやっていた。あっという間に夕食も終わり、サリーにはすぐに使用人室に帰ってもらった。
「気になっただろうに、待たせてごめんね。...悪ノ召使 番外編(7-2
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第七部 おとぎ話
「おはようございます!」
そう言って広間の扉が蹴破らん勢いで開けられた時刻は、六時二十九分。感心なことに、昨日あれほど酔っ払ったにも関わらず、黄緑の少女は寝坊はしたものの遅刻はしなかった。
「感心ですね。昨日の状態から、絶対に今日は遅れると思っていましたが」
書類のページをめ...悪ノ召使 番外編(7-1
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「寒いよ。なんでこんな所に」
王宮で一番高い塔の屋上に出てようやく放してやると、言葉通り寒そうに腕を摩っている。今度はそんな親友の首を掴んで前に突き出した。
「投身自殺でもさせようっていうわけ?」
「真下を見るなよ。もっと遠く見ろ」
指差して誘導してやると、渋々ながらもレンの視線もそれに倣った。...悪ノ召使 番外編(6-3
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「あーあ、もうこんな時間か」
自室広間でいまだ片付かない仕事をしながら、赤毛の若き王は懐中時計を見て呟いた。
時刻は日付を超える少し前、レンとその優秀な部下が休みを取るとなると、王宮内の大抵の人間は普段の仕事の質が倍になる。無論のこと、イルも例外ではない。
「もうお休みなられた方がいいのでは?」...悪ノ召使 番外編(6-2
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第六部 肯定者
市場でくまなく店を回り、レンが見守る中必要なものをちょくちょく買って、そして最後本屋での用事を済ませた時には、もう日がとっぷり暮れていた。
「すいません。なんか思ったより時間かかっちゃって。に、荷物も持って貰ってしまって」
召使として厳格に育てられてきたレンだ。主では無いとはい...悪ノ召使 番外編(6-1
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ハウスウォード家に居た時は、イルと一緒に市場に行った時もあった。先祖の血筋の劣等感からか、養父母は『平民』のための場所に近づくことを禁止していたが、イルにそんな理不尽な規則を守る気は無かった。
「へえ、思ったより大規模ですね」
到着して、思わず呟く。十年近い時を経て、レンの記憶にある市場とは規模...悪ノ召使 番外編(5-3