タグ「鎌を持てない死神の話」のついた投稿作品一覧(16)
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深々と、雪が降っていた。
10年前の戦争に負けて以来、この国からは活気という物が消えた。
「―――おや」
黒いマントに身を包んだ、冬色の少年はふと路地裏に目を向けた。
そこには、雪に震える1匹の子犬がいた。寒さに震える砂色の仔犬は、鼻先をくすぐった雪にくしゅん、とくしゃみをする。
「君、可愛いな」
...【白黒P】鎌を持てない死神の話・エピローグ/捜し屋と僕の三週間
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人の目に映らない姿となった死神の耳に、女性の泣き声が飛び込んできた。
リーリアが、死んでいた。
伯爵夫人、つまりレンの母である女性が遺体に縋り付いて泣いていた。すぐ横で立つ父である男も、静かに涙を零している。獣のような慟哭の声に、レンは顔を歪めた。
かつて自分が死んだ時も、二人はこうして泣いてくれた...【白黒P】鎌を持てない死神の話・15
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朝焼けのヒカリが、辺りを眩しく照らす。
一瞬の間に現れた黒衣の少女を見たレンは、痛みに耐えるように唇を噛み締めた。
恋しい少女に、愛しい妹に、告げねばならない。
「“鎌”が来ました―――これでお別れです、リーリア。・・・僕の、可愛い妹」
双子だから、できる反則。
世界が罪人となった少年に求めた罰は、...【白黒P】鎌を持てない死神の話・14
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月明かりが、煌々と差し込む部屋。
ベッドの上で膝を抱えるリーリアの耳に、コンコンと窓硝子を叩く音が聞こえた。
「リーリア、泣いているのですか?」
次いで掛けられた声は、優しいボーイ・ソプラノ。
「レン・・・入ってきて」
少し離れていた間に、何があったのか。
リーリアはどこか幼い少女のような仕種でレン...【白黒P】鎌を持てない死神の話・13
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レンが意識を取り戻すと、そこにはいつになく優しい顔をしたカイトがいた。
「カイト・・・先輩?」
「ん、起きた?」
カイトがレンの頭をくしゃりと撫でる。レンが止める間もなく、あっという間に髪がぐしゃぐしゃになった。
「止めて下さい!」
「おーおー、記憶取り戻したら反応がいいねぇ」
「ひょっとして、今ま...【白黒P】鎌を持てない死神の話・12
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リーリアが目を開けると、主治医の姿が目を入った。
(なんだか、山羊みたい)
彼女がそんな子供じみた事を考えているとは露知らず、主治医はリーリアが目を開けた事を喜んだ。
「リーリアお嬢様! 気が付きましたか!」
がんがんと頭に響く声に、リーリアはこめかみを押さえる。主治医は彼女に起き上がらないように...【白黒P】鎌を持てない死神の話・11
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レンが全てを思い出した頃、リーリアは屋敷に帰り着いていた。
「つ、疲れた・・・」
喚く両親を無視してそのままぼすっとベッドに倒れ込み、ぼんやりと明るいランプに首飾りを翳した。
綺麗な銀色の光を見ていると、自然と思いはあの死神へと至る。
黒ずくめの、冬色の少年。
甘い物が好きなあの少年は、世に言う『死...【白黒P】鎌を持てない死神の話・10
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「リーリア、リーリア、お屋敷が見えてきました。そろそろお別れですよ」
レンはそういっていつの間にか背中で寝入ってしまったリーリアを揺すった。
「ん・・・本当、に? 明日も、また会える?」
ぼんやりと薄目を開けたリーリアは「ありがと」と言ってレンの背から降りた。
「どういたしまして。明日、また来ます...【白黒P】鎌を持てない死神の話・9
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「レン、ありがと」
「いえいえ、どういたしまして・・・って、もういい加減そのやり取り止めません?」
買ったばかりの首飾りを首に掛け、指先で弄びながらリーリアは何度目かになる礼を言った。
にこにこと笑うその笑顔を見られるのなら、半分でも財布が軽くなるくらい高額な首飾りを買ってよかったとレンは思った。
...【白黒P】鎌を持てない死神の話・8
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リーリアの外出許可は、脅しにも似た彼女の説得により渋々許可された。
使用人を付ける付けないで散々揉めた挙げ句、5時には戻ってくるという約束で何とか纏まった。
「案外、簡単に取れたわね」
屋敷の外でレンと落ち合ったリーリアは、笑いながらそう言った。
「それはリーリアが、『外に出してくれなきゃ2階から飛...【白黒P】鎌を持てない死神の話・7
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その、次の朝。
レンは結局一晩中居座ったカイトに無言で椅子を軋ませていた。
「・・・・・・」
「レン君、ひょっとして怒ってる?」
「・・・出てけ」
一段と大きくなる椅子の音。カイトは無言の殺気に黙って退散した。
レンは小さくため息をつくと、マントを翻してリーリアの屋敷へと転移した。
―――瞼の裏で光...【白黒P】鎌を持てない死神の話・6
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瞬間移動の力を使い、レンは家へと戻った。
が。
「?」
誰もいないはずの部屋に、明かりがついている。
一人暮らしだから、同居人というのはない。
だとすれば誰が?
「やっほー、レン君。勝手にお邪魔してるよ?」
そのあまりに能天気な声に、レンはため息をついた。
生前の記憶や人格がほとんどなく心が空に近い...【白黒P】鎌を持てない死神の話・5
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驚きの表情で目を見開くリーリアと、訳がわからずきょとんと首を傾げるレン。
「レン・・・貴方、自分の顔を鏡で見た事はない?」
「いいえ。死神は、鏡や物に映りません」
だからレンは、自分がどんな顔をしているのか知らない。水に映る事もないので、本当にレンは自分の姿を知らなかった。
「私と貴方、まるで鏡に映...【白黒P】鎌を持てない死神の話・4
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「・・・貴方、死神?」
少女がもう一度、家人や使用人が残らず退散して静かになった部屋で問い掛ける。死神は最初、少女が声をかけたのが自分だとは気付かなかった。けれど少女の瞳は冷たさを孕んでこちらをひたと見据えている。
「え、えぇ・・・貴女は私が見えるんですか?」
だからこそ、死神の返答はぎこちない物と...【白黒P】鎌を持てない死神の話・3
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その黒ずくめの少年の名は―――『死神』。
生き物を殺す鎌を持てないが、あらゆる命の期限を知る者だ。
退屈な死神は、時々期限が近い人間の元に現れる。
が、彼を見る事ができる人間は僅かだった。
死神は、伯爵家を訪れてみる事にした。
自分が見える人間がいると、不思議と確信できる期待を胸に。
一方伯爵家では...【白黒P】鎌を持てない死神の話・2
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白い雪がしんしんと降る中、一人の少年が街を歩いていた。
黒い服に黒いマント。フードから覗くのは、色の薄い金髪と凍てついた空色の瞳。歳は14か15といったところで、肌も吐く息も白い、全体的に夢幻のような儚い印象の少年だった。
街を歩く人々は、そこに少年などいないように早足に歩く。寒さから逃れるべくせか...【白黒P】鎌を持てない死神の話・1