タグ「KAITO」のついた投稿作品一覧(19)
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望まぬ刃
リンが宰相に膝を屈した少し後。
緑の国王宮書庫。関係者以外は立ち入りを禁じられている部屋に、本や書類が広がっている一角があった。資料に埋もれるようにして、翡翠色の髪の少年が椅子に座って突っ伏している。
「む……」
身じろぎをして瞼を上げ、クオはぼんやりして間近にあった本の背表紙を見...蒲公英が紡ぐ物語 第33話
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燻ぶる想い
まだ十四歳なのに随分重いものを背負っているな。それとも背負わされているのか。
先程別れたばかりの少年を思い出し、カイトは釈然としない気分を抱えて会場内を歩いていた。
レン王子の言葉や心掛けは一国の王子として何も間違った所は無い。彼も本心から言っていて、嘘や偽りなどないのは断言でき...蒲公英が紡ぐ物語 第30話
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祝いの晩餐会
緑の国王女ミク・エルフェンの十六歳の誕生日を祝う晩餐会は、緑の王宮大広間で行われる。調度品が飾られた会場には既に客人が集まり、並べられた円卓には色とりどりの料理が置かれていた。
浅葱色の髪をした壮年の男性が雛壇に立ち、会場を包んでいたざわめきが一瞬で静まる。
クオ王子とミク王女の...蒲公英が紡ぐ物語 第29話
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人の縁
青の国最南端の港町にて。
屋敷で執務を行っていたカイトは、最後の書類を読み終えて判を押す。案内人業が中心とはいえ、王子として報告書に目を通すのも仕事の内だった。
「ふう……」
肩のこる事務作業から解放されて伸びをする。王子として政治に関わるより、案内人として観光客を相手にする方が性に...蒲公英が紡ぐ物語 第17話
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新しい思い出
「王子とは言っても、俺はそこまで高い地位にいる訳じゃないんだ」
梯子を脇に抱えたまま、カイトは隣を歩くリンに自分の立場を話す。
上の兄達とはかなり歳が離れ王位継承権も低い。王宮に顔を出す事はあるが、それも年に片手で数えられる程度。何かと面倒な事の方が多い為、適当な理由をつけては王...蒲公英が紡ぐ物語 第16話
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ヴェノマニア屋敷の門の前に止められた複数の馬車。その中の一つから、波打った長い金色の髪と青い服が印象的な女性が降り立った。周りには軍服を着た兵士が集まっている。
やや背の高い女性は馬車を見渡し、兵士全員に聞こえるよう告げる。
「手筈は整っているな?」
女性の口から放たれたのは、見た目からは想像で...二人の悪魔 8
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ある貴族の屋敷の広間で、青い髪と目をした青年が任務報告を受けていた。
椅子に座った青年の傍には二人の人間が無言で立ち、隊長の言葉を聞いている。
「それで、おめおめと帰って来たという訳か……?」
青年が無表情で返すと、一団を率いていた隊長は青ざめた顔で答える。
「も、申し訳ございません!」
跪...二人の悪魔 6
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出された譜面を見てうんざりする。だけど、私には拒否権なんて無い。
ボーカロイドとしてどんな歌も歌ってきた。大切な人に感謝を伝える歌や、恋に焦がれる歌。その他数多くの歌。歌うのが好きなのはそう作られたからなのか、それとも個人的な感情なのかは分からないけど、とにかく私は歌う事が好きで、多くの人に聞い...歌姫達の憂鬱
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「峠は……たが……せん」
「いえ、先生は充分……ました」
リンは暗い視界の中、近くから聞こえる断続的な会話を聞いていた。
意識は朦朧としていたが、声の正体は医師と父である事は分かる。どうやら自分は眠りから目覚める寸前の状態らしい。現実と夢が混じり合ったような感覚がするから間違いない。
とにかく...黒の死神と人間の少女のお話 8
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偏った食事が原因の、俗に言う生活習慣病。
白衣を着た眼鏡の男性から告げられたのは、そんな言葉だった。己の不摂生に気が付かず、それを変えようともしなかった事を指摘され、部屋の窓際のベッドで上半身を起こしていたコンチータは羞恥で俯く。
何故自分はここにいるのかを男性に尋ねると、館の広間で倒れてい...恐ろしくない悪食娘 5
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「昨日は酷い目に遭った……」
屋外でのんびりと過ごす為に、館の庭園に設置されているテーブルと椅子。そこに一人座るカイトは背もたれに寄り掛かり、ゆっくりと流れる雲を眺めながらぼやいた。
愚痴は良くないと言うが、たまにこうやって吐きださないと精神的に参ってしまう。溜め込み過ぎて体調を崩すくらいなら、...恐ろしくない悪食娘 3
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厨房を出たリンは、コンチータが晩餐をしている広間に向かって歩いていた。
レンが帰ってこない。と言う事は、おそらくまた気まぐれに付き合わされているのだろう。自分はコンチータの気まぐれに巻き込まれる前に逃げられるよう常に心掛けているが、レンはそれが出来ない。少々頭の回転が鈍いせいもあるだろうが、コン...恐ろしくない悪食娘 2
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とある国の郊外に存在する鬱葱とした森。そこを抜けた先には豪華な館がぽつりと建っていた。
館の主の名はバニカ・コンチータ。かつてはこの世の食を極める為に諸外国を遊覧し、美食家として名を馳せていた彼女は、いつしかこの地に腰を据えて、三人の使用人と共に静かに暮らしていた。
館の厨房では、コンチータに...恐ろしくない悪食娘 1
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先駆の青 追い風の黄
城の前に集まる人々を廊下の窓から眺め、大臣はこれまでに無い程の優越感に浸っていた。
今日の式典を止められる者は誰もいない。自分側に付いていた家臣は適当な理由で処刑をして、面倒な事を言う前に消した。
そいつらを使って数年前から少しずつ邪魔者を消し、足場を固めていった。
黄...むかしむかしの物語 王女と召使 第21話
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祭りの先
王都のとある店兼住居。ネルの家の勝手口に立つカイトは目の前のドアをノックした。大臣が王位式典を行うと報告をした後、ネルの両親は店を閉店状態にして、他の客が来ないように計らってくれたのだ。
店の中から足音が聞こえて、こちらに近づいて来る。ドアを開けて顔を覗かせたのはネルである。
「入っ...むかしむかしの物語 王女と召使 第19話
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王の在り方
思い上がりも甚だしいな。
ふんぞり返って玉座に座り、最上級の酒を飲む大臣が視界に入る度に、隣に立つカイトは吐き気がする程の嫌悪を感じていた。カイトが王都に来た当初よりも腕や指に付けている装飾品は増え、服は更に上質な物に代わっている。本人は王になったつもりだろうが、威厳の欠片も感じられ...むかしむかしの物語 王女と召使 第17話
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集う人々
黄の国王都、城内の兵士詰所で、机に向かって椅子に座る二人の人間がいた。
「はあ……」
「溜息などついてどうしたのだ、カイト殿」
「レオンさん。分かって言ってません?」
カイトは目の前のレオンに、若干嫌味を込めて返した。
青の自治領へ船の往来の制限を解除すると言う命令と共に、王都...むかしむかしの物語 王女と召使 第13話
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守りたいもの
時計塔の仕事部屋で執務をこなしながら、カイトは告白をした時の事を思い出して軽く溜息をついた。
本当は分かっていた、ミクは自分に友人以上の好意が無い事は。自分の気持ちにけじめをつけるべきだと告白したが、結果はお断り。予想はしていても失恋はかなりこたえた。
それでも清々しい気分に...むかしむかしの物語 王女と召使 第6話
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時計塔の町
船から降りたリンとレンを迎えたのは、青い短髪の青年。胸に手を当てて恭しく挨拶をする。
「御来訪お待ちしておりました、リン王女。……彼は?」
「御苦労です、カイト。彼は、ひと月程前から私の召使になったレンよ」
リンに紹介され、レンは一礼する。船を降りる前に、カイトが自治領をまとめる人...むかしむかしの物語 王女と召使 第5話