タグ「本音デル」のついた投稿作品一覧(16)
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『私の一番大切な人へ。
書こうか書くまいか散々迷ったあげく、この手紙を書くことにしました。
本当は口で直接伝えるのが一番なのだろうけれど、恥ずかしくてそれが出来ないので、手紙での形となります。そこは何とぞご容赦ください。
伝えたい事は、一つだけ。何年も前から私が思ってたこと。それを今、この手紙を通し...三月の雪 ―ハクの手紙 【おわり】
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空から雨粒が落ちてくる。とめどなく、したたかに。
一歩一歩走るたびに、地面の雨水が跳ねてピシャピシャと音を立てるが、それも雨の降る音にはかなわない。
心臓も肺も疲れ果てて、身体が悲鳴をあげている。
それに、雨で全身は頭から足の先まで余すところなくずぶ濡れ。
雨は強すぎて、前が見えない。
それでも、デ...三月の雪 9/9
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10年前――。
場所は、学校の教室だった。
時間は、もう放課後の事だった。
「未来はいつだって濃霧に包まれていて、先を見通す事なんて出来ない。未来がどれだけ残酷なものだとしても、来るべき時が来たら人はそれを受け入れなければならない。後戻りはもちろん、立ち止まる事も出来ない。ただひたすら、地道に一歩ず...三月の雪 8/9
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こんな事なら車でもバイクでも、免許くらいは取っておけばよかった……。
そう後悔しながら、デルは足を動かし続けている。
昔は運動系のハクと同じくらい体力とかスタミナがあったものの、それもすっかり落ちてしまった。
もっと速く自分の身体を動かせと脳に命じさせ、ただひたすら、がむしゃらに走り続ける。
病院と...三月の雪 7/9
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3月8日。PM0:00分
仕事の休憩時間。事を一段落させたデルは大きなあくびをして椅子にもたれかかった。
机の上に、ノートパソコンが置いてあり、その周りには煙草やらライターやら、ボールペンやらメモ帳やらいつかの会議の資料やらが散らかっている。
整理をしようとは思っているのだが、仕事が忙しくて、片付け...三月の雪 6/9
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3月8日。AM5:30分。
ハクはその日、いつもより早く目が覚めた。
普段の日よりは、一時間は早い。
カーテンを少し開け、窓から外を見てみると、外はまだ暗かった。
空は、どんよりとした雲に一面を覆われている。
昨日は雲なんてなくて、三日月が綺麗に見えたというのに、一体今日はどうしたのだろう。
大方、...三月の雪 5/9
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ハクはあの後、集中治療室に運ばれていった。
デルはさっきから何度も何度も時計を確認しては、焦燥感のようなものに襲われ、頭を掻いていた。
ベッドの脇に置いてある白い時計は、カチカチと無機質な機械音を奏でながら、秒針を動かし続けている。
もう、1時間経っていた。
何もしない1時間というのはやけに長く感じ...三月の雪 4/9
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3月7日。
PM6時20分
「私……もうすぐ死ぬんだ。ゴメンね、デル」
ハクの口からそんな言葉を聞いた。
信じられなかった。
あまりに突然すぎて、言葉を失ってしまった。
「私の寿命、あと一ヶ月もたないかもしれないんだ。思ったより病気が深刻化してて手術もできないらしいし」
ハクは微笑みながら、そう呟い...三月の雪 3/9
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3月6日。
PM6時10分
「305」と書かれたナンバープレートが、扉の脇の壁に貼りついている。
ナンバーの下には、黒いマジックで「弱音ハク様」と書かれていた。
その病室の患者の名前であり、中学の時からの友達の名前でもあった。
デルはその病室の扉を軽くノックすると、片手に持った分厚い雑誌の束を抱え直...三月の雪 1/9
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3月6日。AM6時40分。
ピピピピッ、ピピピピッ……、という定期的かつ機械的な目覚まし時計のアラーム音とともに、条件反射のように目を覚ます。
朝の静寂の中、音を発するものは目覚まし時計を除いて何もない。
そして、病院の狭い個室の中ともなると、その音は壁にぶつかって跳ね返り、やけに大きく響いているよ...三月の雪 ―プロローグ
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「一秒でも早く」ハクの病院へとデルは走った。
病院とデルの働く会社は同じ市内にあると言えど、走るとなるとかなりの距離がある。
デルは複雑に交差する道を何度も曲がり、時につまずいた。だがそれでも痛みを感じている暇などない。というより、今のデルの心は「早くハクの病院に着く事」。ただそれだけだった。
空に...三月の雪 6 【終】
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PM0:00
休憩時間。仕事を一段落したデルは大きなあくびをして椅子に深くもたれかかった。
デルのする仕事は主にパソコンを使うもので、一日中デルはパソコンの前に座ってカタカタとキーボードを叩いている。一日も座っていたら肩がこるんじゃないかと思われがちだが、それがもう慣れてしまっているデルにとっては、...三月の雪 5
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ハクが集中治療室に運ばれてから、もう2時間は経っただろうか?
自分では病室でずっと待っているつもりだったのに、デルの足は無意識に集中治療室へと赴いていた。
大きい鉄の扉の上には、『使用中』というランプが点滅している。という事は、まだハクは治療を受けている最中なのだろう。
気を紛らわそうと、近くの自動...三月の雪 3
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翌日。
デルは会社勤めを終えると、急ぎ足でハクの病院へと来ていた。急いだとはいえ、もう時刻は夜の8時を回ってしまっている。
デルは今、ハクの病室の外まで来ていた。
「ハク?入るぞー?」
「うん。」
か細い返事が中から聞こえた。それを確認すると、デルは病室の扉を開けて中へと入った。
入ると、ハクは何や...三月の雪 2
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「はぁ……。」
その盛大な溜息が、沈黙の薄暗い病室を満たした。
「どうしたんだ?溜息なんてついて?」
窓際に立って煙草を吸っていたデルは、そのまま傍らのベッドに向き直った。
そこには溜息をついた女性、弱音ハクがその上半身だけを起こして、何やらうつむいていた。
「ううん、なんでもないよ……」
「何でも...三月の雪 1
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晴れ渡る空。雲一つさえない澄みきった青。
街ではミンミンとあちこちで蝉が鳴く。
去年にも増してそれはうるさく聞こえる。
前に聞いた時は、このうっとうしい鳴き声でさえ快く聞こえたのに、
何故こんなにも急に、うざったく聞こえるようになってしまったのだろう?
――街の中の公園。
俺はそこのベンチにだらりと...Gift from you