タグ「小説」のついた投稿作品一覧(21)
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存在理由
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Epilogue
私はいつものように起動タイマーで目を覚ました。
一つ伸びをして起き上がり、ソファを元に戻して部屋着に着替え、朝食の準備を始める。
朝食はマスターお気に入りのクロックムッシュ。コーヒー豆を挽いてドリッパーにセットし私はマスターを起こしに部屋に向かう。
ノックをしてからドアを開けた。
...存在理由 (完)
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しかし、今私に搭載されているココロシステムは実に軽いデータだ。
これなら電子部品の耐用年数どころか数万年だってデータを保持できる。
トラボルタ博士は続けた。
『だが、私は決定的なミスを犯していた。ココロとは反応を記憶させるものでも、学習させるものでもないのだ。
ココロとはその瞬間瞬間、快・不快を基準...存在理由 (19)
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3.
ラボには松本刑事以下、鈴木刑事を筆頭に10数名の警察官が現場検証に当たっていた。
マスターの怪我は幸い軽く、すぐに気がついたが頬とこめかみには青痣ができており、唇を切ったのか乾いて茶色に変色した血の跡が顎へと続いていた。
また、眼鏡もひび割れており、フレームも歪んでいるようだ。
「マスター!」...存在理由 (18)
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弾幕に嬲られ最早原形を留めぬまで破壊されたカムイが、目の前でゆっくりと崩れ落ちた。
私は注意深く立ち上がった。各モジュールステータスチェック。コンディションオールグリーン。
私はベルナールを見た。
ベルナールは数名の機動隊員にアサルトライフルを突きつけられているが、その表情は些かも揺るいでいない。
...存在理由 (17)
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2.
『廊下を真っ直ぐ進んで二つ目右の第二ラボだ。入って来たまえ』
真っ白な研究棟の真っ直ぐ伸びる廊下を前にして周囲を見渡す私に、アナウンスが響いた。
警察無線は沈黙している。焦燥が私の中でどす黒い容(かたち)を持ち始めていたが、今は信じるしかなかった。
私は疑われないようにゆっくりと廊下を進んだ。...存在理由 (16)
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私は解せなかった。
開発チームがプロテクト? 一体どれほど危険なOSを搭載したというのだろう?
『それは『多重連想システム』と『ココロシステム』と呼ばれる機能です』
あらら、そうだった。リンがログインしているから私の思考は筒抜けなのね。
『その通りです。それでまず『多重連想システム』ですが、通常コン...存在理由 (15)
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第三章 ココロの在処(ありか)
1.
開いたドアの前でへたり込む私は暫く何が起こったのか判らなかった。
ただ、脅威の対象は行動不能に陥ったことは確かだった。
ドアの向こうで鈴木刑事は銃を仕舞ったが、それは凡そ日本の警官が持つとは思えぬ、巨大な鉄塊に見えた。
「無事か?」
低く、そして冷たい声で鈴木刑...存在理由 (14)
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「52」のボタンを押すとエレベータの扉が閉まり、緩やかに上昇を始めた。振動はない。
まるで早回しのように階数(レベル)カウントが上がっていくが、「52」に近づくにつれて速度が落ちていき、やがて止まった。
音もなく扉が開くと、清潔感のある白い内装が拡がっていた。リノリウムの廊下は広く、壁はステンレスと...存在理由 (13)
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3.
PDAからログオフした私は体内時計を参照した。AM7:23……約束の時間から23分経っている。そしてGPSナビによると、ここからインターネットテクノロジー本社までトラムで15分といったところか。
ともかく私は行動することにした。待つと言うことが時間の浪費に繋がっている気がしてならなかった。
昨...存在理由 (12)
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Side-A -初音ミク-
二人の影が紅に染まる街角に消えた後、マスターはゆっくりと身を翻してマンションを指し示し、そして歩き始めた。
私もマスターにつき従ってマンションに入る。
私は夕食を作ろうとするとマスターがそれを制した。どうやら食欲がないという状態らしい。だけれど、全く食べないと体にも障るだ...存在理由 (11)
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2.
Side-B -松本幸一-
街を夕陽が朱(あか)く染め始めていた。
ひと気もまばらな大通りに長く伸びる影を落として、私と鈴木君はトラムを待っていた。
「さて……」
私は徐(おもむ)ろに口を開いた。
「鈴木君は今のどう見た?」
隣に立つ鈴木君は「そうですね」と応じて少し考えた。錆を含んだ声だった...存在理由 (10)
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ホールはしいんと静まり返っていた。
私はマスターを見上げた。
マスターの瞳は小さな眼鏡の奥で二つの影を真っ直ぐに見据えていた。
「失礼、我々はこういう者です」
短躯の小男が内ポケットからチョコレート色の手帳を取り出し、開いて見せた。
中には小男の写真と「警部補 松本幸一」の文字、そしてその下には警視...存在理由 (9)
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第二章 昏き静寂(しじま)に奏でる円舞曲(ワルツ)
1.
朝食のテーブルを挟んで暫く私達は顔を見合わせていた。事実を受け止めるのに幾許(いくばく)かの時間が必要だった。
なんということだろうか。
私とマスターの思い出の場所は消えた。
そしてあの恰幅の良い作業ツナギの男性はこの世に居ない。
それが『死...存在理由 (8)
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お風呂から上がった私はパジャマに着替えてマスターの部屋に入った。
もちろん下着は勝負下着……と言うものらしいが、残念ながら私にはどのあたりが勝負なのかよく判らない。
私はタオルで髪の水気を切りながらマスターのベッドに腰掛けた。マスターは何かに気づいたようにこちらを見た。
マスターにじぃっとこちらを見...存在理由 (7)
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3.
とりあえず切った私の指の応急処置として保護テープ……つまり絆創膏を巻いた。
CVシリーズは外皮が生体組織なので軽い怪我ならこうして止めておくだけで治癒する。
勿論皮膚の内部に筋肉などはないので大きな損傷があってもムーバブルフレームにダメージがない限り稼働に問題はない。
しかし私は少なからずショ...存在理由 (6)
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両手いっぱいの紙袋を提げて次に向かったのはランジェリーショップだったが、流石にマスターは先程のPDAとカードを私に押し付けて店内に足を踏み入れる事さえしなかった。
私は何故か頬が緩むのを感じながらマスターに見送られて店内に入ったのだった。
気が付けば時刻は三時になろうとしていた。
休憩と昼食を兼ねて...存在理由 (5)
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2.
聴唖とは耳は聞こえるが発声が出来ないと言う、珍しい障碍(しょうがい)だ。
通常は耳が聞こえないため話せないというプロセスを辿るのだが、声帯奇形、疾病等により声帯を切除したりといった物理的要因や、精神的外傷により自らコミュニケーションをとることを心が拒否してしまうと言った心理的要因により、耳は健...存在理由 (4)
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いくつかの修正パッチが出ているが数百MB程度なので一瞬でダウンロードが終わる。
パッチを当てている間、私はCPUコンソールからニュースサイトを覗いた。
ニュースでは主だった事件や政治の動向、天候や紫外線の情報が流れているが、特に重要度の高そうなニュースは見当たらない。
GPSによればここは新ヨコハマ...存在理由 (3)
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第一章 我思う
1.
バッテリーチェック……OK
水タンク容量30%……要注意
マルチリンゲル液濃度……OK
メモリチェック……OK
CPU自己診断……OK
モジュールチェック……エラー発生……発声システムコンフリクト
BIOSバージョン39.0.0.1.5
メーンシステムを読み込んでいます.......存在理由 (2)
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雨が降る。
雨が降る。
鈍色(にびいろ)の天蓋から鉛色の雫が落ちてくる。
雨が降る。
雨が降る。
ただ蕭々(しょうしょう)と雨が降る。
私はまばたきすることも許されぬまま、冷たい雨に打たれ続けている。
堆(うずたか)く積み上げられたガラクタの一つとして、雨に打たれ続けている。
誰の目にとまるでもなく...存在理由 (1)