ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、
なんとコラボで書けることになった。「野良犬疾走日和」をモチーフにしていますが、
ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてP本人とはまったく関係ございません。
パラレル設定・カイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手はかの心情描写の魔術師、+KKさんです!

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【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#07】



 あの仔犬は、手当てをする、という名目で連れて帰ってきてしまった。本当は、あの街にかかわるものをなにか手元に置いておきたいという理由もあったのだが、せっかくの「恩人」の手当てもせずにいるのは、気がおさまらなかったのだ。あの双子の女の子は、私が犬を連れていくことに対してなにかいいたそうだったが、男の子のほうが
「その犬、しぐれっていうんだ。だいじにしてやって」
 と、後押ししてくれた。私は、ふたりにお礼と謝罪を述べたあと、おばあちゃんによろしく、と、言伝を頼んで車に乗り込み駅に向かい、そのまま汽車に乗ってまた屋敷に帰ってきてしまった。

 屋敷に帰ってまずしなければいけなかったことは、かいとの手紙を焼くことだった。
 もちろん、私が望んだわけではない。私の家出、かいとの手紙、私たちふたりのつながりが、すべて明るみに出てしまったのだ。父母はほとんど怒り狂うと評するにちかい怒り方をして、すべて焼き払うように、と言いつけた。その作業の立ち合いに、あの紫の男をお供にするおまけつきで。
 しぐれの手当てを使用人たちに任せ、私はこれまで隠していた文箱を持って庭に出た。
「こんなにたくさんの手紙をやりとりしていたのかい」
 あきれたような、感心したような、よくわからない感慨のふくまれた声で男が言ったようだったが、ほとんど聞こえていなかった。
 火はすぐに燃え上がり、私とかいとの10年をいとも簡単に灰にした。
 涙は出なかった。怒りも湧かなかった。ただただ、世界のすべてが、焼けた手紙のように灰にまみれて見えただけ。
 そして、それ以来、かいとからの手紙が私の部屋に届けられることはなかった。

 両親と神威の思惑通りに滞りなく、ことは運んでいた。私は、ただ無表情に無感動に無抵抗に、首を縦に振っていればよかったのだから。
「しぐれ」
 名前を呼ぶと、耳をぴんと立てて、嬉しそうに尾を振って私の足元までちょこちょこと歩いてくる。
 あの家出以来、かいとからの手紙を待って郵便受けを覗くことすら禁止されてしまった。家の中ですら行動が不自由になった私は、書斎に籠もって本ばかり読んでいた。そんな中で、唯一の癒しはこの仔犬だった。書斎に籠もりきりの私につきあっているつもりなのか、しぐれはずっと私のそばにいた。
「おまえは、散歩とかしなくていいの? 身体がなまってしまうわよ」
 くぅん、と、甘えた声で鳴くしぐれは、果たして私の言葉を理解しているのだろうか。抱き上げるとふかふかして温かい。しぐれも慣れたもので、私の着物に爪を立てないように、そっとその前足を添えている。
 つぶらな瞳で見上げられた。犬に表情なんてあったかしら、と思いながらも、その瞳がかなしげに光ってみえた。
「帰りたくない? あの街に」
 自分で発した問いに、自分で笑った。それは、私が思っていることじゃないの。
 あの街に――おばあちゃんや、双子や、かいとのいるあの街に、帰りたいと思っているのは、私だ。
「……ごめんね。無理やり連れてきてしまって」
 しぐれが、ぐりぐりと頭をすり寄せてきた。気にするな、一緒にいてやる、と、言われているようで、なんともいえないきもちになった。
 こんこん、と、書斎の扉がたたかれる音が、背後で響く
「めいこお嬢様、お夕飯の準備がととのいました」
「ありがとう、すぐ行くわ」
 しぐれを床におろして、私はしぐれと一緒に部屋を出た。

 この数日、一緒に過ごしてみたら、それだけでも思い知らされるほど、しぐれは賢い犬だった。
 父母や神威の御曹司に、自分が嫌われていると知るや否や、父母の部屋の近くや、客間には寄りつかなくなったし、紫の男が来てもつんとして部屋にいるか、どうしても顔を合わせてしまったときでも、まるで興味なさそうに知らないふりをする。それでも(なぜか)触れてこようとする男に、牙をむいて唸ることもしばしばで、その様は、まるで前の私を見ているようだった。一方で、動物好きの使用人たちには受けが良く、「やっぱり犬はいいわね、猫は勝手気ままでだめよ」などとほめられて、得意げにしていた。私が食事を摂っている間は、同じ時間帯に食事を摂る使用人たちから、料理の残りやまかないの一部などをもらって食べているらしい。それが既に初日からの習慣になっているのだから、この犬は適応力も並ではない。
 もしかして、人間である私より、しぐれの方がずいぶんしたたかなのではないだろうか。かいとに会うことが、もう永久にかなわなくなったわけではないはずなのに、これほど意気消沈している私よりも、新しい場にきちんと慣れようとしているしぐれの方が、よっぽど前向きに思える。
 ふっと鼻で息をついた。食事を終えたら使用人たちの詰所にしぐれを迎えに行かなければ、などと考えながら、相変わらず咲音の家の食卓に就いている神威にも目もくれず、味のしない食事を口に運んだ。

 使用人たちの部屋に行くと、既にしぐれは部屋を出た後だという。しかし、使用人たちはそれどころではなさそうで、一様にモップやら箒やらバケツやら雑巾やら、掃除用具を持ち出してばたばたしていた。
「……大掃除でもしているの?」
「違いますよ! お嬢様の連れてきたあの犬……」
「しぐれのことかしら?」
「そう! 今までおとなしかったと思ったら、ご飯を食べ終えたころに、急に暴れはじめて! 部屋中ひっかきまわしたかと思ったら、お嬢様のお部屋に逃げ込んでしまって」
 あのおとなしいしぐれが? 珍しいこともあるものだ。誰かしぐれにちょっかいを出したのではないのか、と問うたが、みないつもどおりにしぐれを抱いたりなでたりしていたという。唯一、直前までしぐれをなでていた、郵便受け取りの係をしているという男が、腕中ひっかかれたとかで、別の部屋で手当てを受けているという。
 改めて(飼い主? として)、使用人たちに謝罪の言葉を述べて、部屋に戻ることにする。使用人の男は、後で見舞って謝罪しよう。その前に、しぐれを叱らなければいけない。犬のしつけは、すぐ褒めて、すぐ叱る、というのが重要だと、なにかの本に書いてあった気がする。……もう時間も経っているし、あまり叱ってもしぐれはわかってくれないかもしれないけれど。

「しぐれ? いるのかしら?」
 部屋の戸をあけると、窓の下に、しぐれの小さな背中が見えた。ちょこんとお座りしているその姿勢がとてもきれいで、振り向くさまも可愛らしいのだが、ここでほだされていてはいけない。
「しぐれ、あなた使用人たちの部屋をめちゃくちゃに」
 したそうね、と、言葉は続かなかった。しぐれの口にくわえられていたのは、見慣れた色の見慣れた封筒、それは――誰あろう、かいとの手紙。戸口で硬直したままの私に、しぐれは、とてとてと寄ってきて、まるで差し出すようにその手紙を私の足元に落とした。
 封筒に触れる指先が震える。封を開けていいものか迷う。胸が張り裂けそうで、うまく立っていられる自信すらなくなってくる。
 わう、と、しぐれが吠えてはっとした。
「――まだ、残っていた手紙があったのかい、めいこ?」
 この部屋に、焼かれずに残っている文はないはずだ。手紙は全部文箱ごと燃えてしまった。取りこぼしはないはずだ。それならば、これはきっと、届いたばかりの手紙――しぐれが、使用人たちの部屋から持ってきたのであろう、届いたばかりの彼からの手紙だ。
 しかし私は、なぜか咄嗟に嘘をついた。
「ええ、本棚の裏に落ちていたようよ……心配しなくても、あんたたちの言う通りにするわよ。すぐ燃やせばいいんでしょう」
「卑屈だね」
「そう見えるかしら」
 男の顔が、なぜか悲壮に歪んで見えたのは、きっと、月明かりの見せた幻影だろう。すぐにいつもの張りついたような笑いを取り戻した男は、ふうとため息をついた。
「その男に、もう手紙は送らないように言うといい。余計な虫は払ってしまわないとね」
 なにせ、婚姻の儀はもうすぐなのだから。
 そう肩越しに言い残して、男は部屋を出て行った。これ以上の追撃がないのはありがたい。私はすぐに扉を閉めて鍵をかけ、封を切って中身を読み始めた。

 中には、相変わらずかいとの日常や、私たちの思い出がつづられていて。忘れずにいてくれた雨の日のこと、今では傘にもならないだろう蕗、親猫になったあの仔猫。こんなに鮮明に思い出されるのに、なにひとつこの手にないなんて。
 そのあとを読み進めて、おもわずしぐれを抱き寄せた。
「いい名前を、もらったわね、しぐれ……」
 しぐれの柔らかな毛が、私の涙を吸い込んでいった。

 そうしてひとしきり泣いた後、いつものように便箋と封筒、そして筆と墨を机に出して、そして文をしたためる準備をする。
 もう手紙のやりとりはするな、手紙は燃やせと言われた。でも、もう手紙を送らないように、と、かいとに伝えるためには、私は手紙を書かねばならない。これきりなら、許されるだろう。最後の手紙になるのだ。どうせ最後なら、今まで思っていたことを、全部吐き出してしまおう。
 そんな決意とは裏腹に、筆を握る手はぶるぶると震えた。いつもなら穏やかなきもちで、そのひとに宛てた手紙を書けるのに、今日に限って書きだせない。書かなければいけないことはたくさんあるのだ、書きださなければならない。さあ、最初に書かなければならないのは、なんだったっけ? 拝啓、そしてその次は? 恐る恐るといった体で、私は、文をしたためた。


 拝啓
 このあいだ咲き始めたばかりだった夏の花たちが、一斉に咲き誇っています。気温もだんだんあがってきています。一説には、そろそろ台風が来るということでした。そちらも十分注意してください。
 突然ですが、貴方は、昔、私とした約束を憶えていますか? 私がそちらを離れる前の日のことだったと思います。内容は憶えていても、憶えていなくても構いません。むしろ、子供の頃の約束なんて、忘れていることの方が多いのですから。
 私は、今まで、貴方とした約束を支えに生きてきました。こうして文を送り続けているのも、その約束を忘れていないがためです。
 ふたつした約束のうち、ひとつはもう破れてしまいましたが、私は、もうひとつも破ってしまうことになりそうです。ごめんなさい。いつも約束を破るのは私の方ですね。でも、咲音の家に生まれた者として、どうしても抗うことのできないことだったのです。
 私はずっと貴方だけを想って、いつか貴方の隣にいる未来を信じてい


 途中から、何かに憑かれたように筆が走って、突如、筆が止まった。書きかけの文章には、続きの言葉を描く墨の代わりに、透明なしずくが滲んでいる。私は、何を書こうとしていたのだろう。
 自分の文を読み返すと、嗚咽が漏れた。そうだ、私は、ずっと彼だけを想って生きてきた。彼の隣にいる未来を信じていたかった。あの日の約束を忘れたことなんてない。こんなに遠く離れても、文を送り続けてくれる彼。
 私が愛した彼のひとに、想いを伝えることなんて、今更できる筈もないのに。
「……っ、いとっ……、かい、と……!」
 喉につかえてうまく出てこないその名前。愛しい彼の名を、こんな風に呼ぶしかできないなんて、なんて残酷な世の中だろう。
 声を殺して泣く私の足元に、しぐれがすり寄って、心配そうな目でこちらを見上げていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#07】

ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、書こうとおもったら、
なんとコラボで書けることになった。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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めいこさん、泣きながら手紙を書くの巻。

お手紙を焼くって、すごくいやなことだと思います。
個人的に、書物と手紙は捨ててはいけないモノのツートップです。

……で。めーちゃああああん!
とうとうめーちゃんを泣かせてしまった……! だいぶ前からできてたネタとはいえ、
やっぱりこうして活字にすると、すごく……めーちゃあああああん!(黙れ
だいじょぶだよ! きっとかいとが来てくれるよ……だからそれまで耐えて……!

青犬編では、かいとくんがなにやらあわてているようなので、こちらも是非!

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かいと視点の【青犬編】はたすけさんこと+KKさんが担当してらっしゃいます!
+KKさんのページはこちら⇒http://piapro.jp/slow_story

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おや、前のバージョンになにかあるようだ。わっふー!

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つづくよ!

閲覧数:745

投稿日:2009/08/26 10:51:50

文字数:4,871文字

カテゴリ:小説

  • コメント4

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  • つんばる

    つんばる

    その他

    コメントありがとうございますー!

    なんだか私のとこにつくコメントって、めーちゃんを案じるコメントばっかりですね(笑
    みんなめーちゃんがだいすきなんだな! 私も好きだよ!
    手書きのお手紙なんて、ほんとうにとくべつなときにしか書かなくなりましたものね。
    めーちゃんはすごく抑圧されてますよね、昔の女性ってつらかったんだろうなあ(´;ω;`)

    走る彼女にもコメントありがとうございます! 彼女も疾走しますよ!

    2009/08/27 13:11:28

  • 西の風

    西の風

    ご意見・ご感想

    …あああああ、西の風です。変な出だしで申し訳ないです。
    燃えてしまった手紙を思うだけで何だか泣きそうです。
    今は本当、手書きが廃れてしまいましたからね。
    そして、思ったことをそのまま書くことも出来ないめーこさんが…、はぅ…。

    そして走る「彼女」。流石のタイトルですね! こっそり私も突っ走ります!(何処へ
    それでは、お邪魔致しました。苦しんでも辛くても、いつか、走り切った先にたどり着けることを祈りつつ。

    2009/08/26 22:41:55

  • つんばる

    つんばる

    その他

    コメントありがとうございますー!

    また新しいわっふーの形がw わっふーの進化はとどまるところを知りませんね!(笑
    しぐれの賢さはたすけさん譲りです! ホントに、ひとのきもちのわかる良い子です。
    お手紙については、自分が一番いやなことをめーちゃんにさせてしまいました……。
    墨で書かれたカキモノは、何十、何百年経っても褪せないと言いますし、もしかしたら
    昔の手紙の方が、現代のそれよりも貴重なものかも知れません。
    疾走する彼女のアレは、ホントはメールの小ネタ程度で終わるはずのネタだったんですが、
    UPまでこぎつけてしまったという出世株(?)です。

    私ごときの愛で救えるんでしょうかww できるかぎり愛送ってみます!(笑
    ではでは、次回ものんびりお待ちくださいー。

    2009/08/26 10:59:58

  • 望月薫

    望月薫

    ご意見・ご感想

    わっふううおおおおおお!!め、めーちゃんが…めーちゃんが…!!(言葉にならない
    そしてしぐれのなんて賢いこと…!!えらい、えらいよしぐれ!

    お手紙ってとても貴重ですよね。メールで済ませてしまうこの時代お手紙は一生ものの宝だと思います。それを焼けだなんて!時代は違えど燃やせだなんて!だからめーちゃん…うおおおお(いいかげん黙れ

    彼女がいよいよ走り出しましたね。自分はすっかり疾走するのが二人だけだと思い込んでいました(汗
    いいぞもっとやれ!

    それではまた次回を楽しみにしております。

    追伸:つんばるさんの愛で+KKさんを救って下さい!!
    つんばるさんならできるはず!(←なんなんだその自信

    2009/08/26 00:08:30

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