夢は記憶を示すもの
----------
『それじゃあ次の曲!』
リンさんの声が講堂に響く。観客の盛り上がりようは、普段のそれとは違った。
「凄いね……まさか、リンがトークだけで観客を盛り上げさせるなんて」
「しかもめっちゃノリノリじゃん」
メイコとグミちゃんが、ステージの端っこにある控え場所で、ひそひそと話していた。見方によっては、奥様同士の会話に聞こえなくもない。「まぁ奥様聞きまして?」とか話してても、今なら不思議じゃないよ。
「さすが『データバンク』、作り手や語り手にしても、喋るだけで周りの空気を操る天才……」
「話術で彼女に勝てる人は、この学校にはいないわ……」
「……一応言っとくけど、あれリンの本気じゃないからな?」
少し悪ノリし始めた二人に、レン君がツッコミを入れる。あれが本気じゃないとは、リンさん恐るべし。
「……リンってさ、まだ一曲歌ったばっかだよな?」
「それにトークであれだろ? プレッシャーがすげえよ……」
そしてすぐそこで神威先生と始音先生が喋っていた。なんだろう、少しオーラが暗い気がするよ?
「でも、お二人はライブに出たことがあるんですよね? ……どうしてテンションが低いんですか?」
「……あのさ、巡音は『ナイス』って知ってるか?」
「かつてこの高校で、数々の伝説を残したといわれている幻のコンビですね。……って、まさか?」
「そのまさか。俺と始音がそれなの。当時の噂が、まだ残ってるんだよ……」
「今回ライブに出ることで、噂はまた広がるだろうね。そうなるといろいろめんどくさいんだよなー……」
二人が軽くため息をつく。いろいろ大変なんだね、有名になるというのも。
『というわけで! 次のメンバーに代わりまーす!』
あ、リンさんのソロパートが終わったみたいだ。確か次は、あの二人だ。……大丈夫かな?
「……仕方ねえ、行くか」
「おう」
二人がリンさんと入れ替わりに、ステージに出ていった。
『というわけでメンバー代わりました』
『今からしばらくは、俺とこいつ・神威と始音のコンビでお願いしまーす』
MCから伝わる、二人のいつも通りさ。そして、素っ気ない挨拶にも関わらず盛り上がる客席。これもリンさんパワーか。それとも伝説たる二人の力か。
『俺と始音は中学からこの職場まで、どういうわけかずっと一緒です』
『神威と違うクラスになったことがないんですが、どういうことなんでしょうね?』
しかも職場も一緒だしね。大学も一緒だったみたいだし。
『さて、そんなわけで一曲歌おうと思ったんですが』
『うん? どうした、始音』
『ベースを控え場所に忘れました。誰か持ってきてください』
『なんで忘れてるの? 重さで最初に気づくよね?』
意外とおちゃめな始音先生に、メイコが苦笑いをしながら届けに行った。あ、これは意外な一面をかわいく感じている時の笑い方だな。……どうしてそんな細かすぎる見分け方が身についてしまったのだろう。
*
『……ご清聴ありがとうございました』
神威先生の歌は、前にも聞いたことがあった。ただし、鼻歌だったので、しっかりとした歌を聞くのはこれが初めてだった。ソロパートも凄かったけど、今回の始音先生とのツインボーカルも凄かった。語彙力がなくてすみません。
『はい、レン君いかがでしたか』
『まさか途中でステージに引っ張り出されるとは思ってませんでした』
ちなみに、途中からレン君がステージに登場させられた。三人の歌もかっこよかったです。相変わらず語彙力はないんですけどね。人間、何かを褒めたい時に限って急激に言語能力が下がったりするので不思議である。いや普段からきちんとした言葉遣いや表現ができているとは思えていないけど。
『じゃあそんなわけで、準備をするので変わります』
『しばらく、リンのトークをお楽しみください』
三人が戻ってきた。そして、リンさんがステージへ。
「あいつ、すげーよな」
「どれだけネタがあるんだろうね?」
リンさんのマシンガントークがすごいことになっていた。主に話の内容が。右から左へ吹き荒れる内容なので、詳しい内容はカットします。見せられないよ、と言うやつですね。
観客に笑顔を見せ、話し続けるリンさん。そんな彼女を見て、ずっと皆を見守っていた初音先生が、口を開く。
「リンさんは、本当に話すのが好きなのね」
「そうですね。自分で話を作って、皆に聞かせて。皆に喜んでもらいたいんですね」
グミちゃんが、初音先生の言葉に答える。
「物語は彼女の手の中、か……なんだか、似てるわね」
「えぇ、本当に『リン』はよく似てます。彼女……利奈に」
二人はそれっきり、ステージを見て黙り込んでいた。今の会話が少し気になった。リンさんに似ている人がいるなんて聞いたことがない。『利奈』……誰の名前なのだろう?
コメント0
関連動画0
ブクマつながり
もっと見るどうしてなのか
----------
「ねえルカ、最近様子がおかしいよ?」
毎日投げかけられるその質問。その言葉から考えるに、メイコやグミちゃんが私を心配してくれているのかもしれない。でも、でもさ。私の価値観は、心は、歪んでしまった。
「現実が重過ぎるよ……!」
あの日、あの時。私が盗み聞きし...【がくルカ】memory【28】
ゆるりー
残された時間で
----------
「ふわぁ~、眠い……」
大きく伸びをしながら、欠伸をする神威先生。彼が無事退院して学校に帰って来てから、二週間ぐらい経つ。
それまで退屈に思っていた国語の授業も、ようやく楽しく思えてきた。それに代理で教えていた先生の授業、全然面白くなかったし。元々国語が苦...【がくルカ】memory【27】
ゆるりー
これは『罪』なのだろうか?
----------
巡音はまだ体調が良くないので、今日は休むようだ。なんとなく、咲音が寂しそうだった。
休み時間、俺が一-Aの教室から出た時、誰かに腕を掴まれた。恐る恐る振り返ると、そこには咲音。
「な、なんだ?」
「先生。ちょっと、こっち来て」
そう言うと、咲...【がくルカ】memory【3】
ゆるりー
どうしてあなたが?
----------
「見つかんないじゃん……」
帰りのバスに揺られながら、リンさんはブツブツ呟いていた。
「まぁうちの学校にいるといっても、かなりの人数だからね。そう簡単には見つからないでしょ」
メイコは、静かに本を読んでいた。グミちゃんに至っては、ずっと何かを考えている...【がくルカ】memory【14】
ゆるりー
彼女は、変わらない
----------
放課後、俺は巡音を補習に呼んだ。
「半年ぶりの補習……」
「また体調崩したのか?」
「はい。しかも、よりによって苦手分野の古文だなんて……」
「……国語、得意って言ってなかったか?」
「現代国語だけで、古文とか日本史は苦手なんです……」
話していると...【がくルカ】memory【10】
ゆるりー
非日常は、案外すぐ傍に
----------
「すまない、迷惑をかけた」
学園長が失踪してから十日経ったある日。失踪した本人である学園長は、突然帰ってきた。現在は学園長室にいる。
「何も言わずに、十日間もどこに行ってたんですか!」
「いつものことですが、そろそろいい加減にしてくださいよ……」
...【がくルカ】memory【18】
ゆるりー
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想