「め・ぇ・ちゃああああああああん!!!!!!!!!!」
突然飛び込んできた声に目を丸くして振り向くと同時、ソファの後ろから体当たりで抱きつかれ、メイコは飲んでいたしょうが湯を危うくこぼしかけた。
「こらぁカイト!」
ちょっと、なんか似たようなことがついこの間もなかった?何これデジャヴ?と思いながら、背後に首を曲げて怒鳴る。
「いきなりなんなの兄妹そろって同じことして!!」
「めーちゃん!なんだよコレは!!!!」
「…っ」
聞く耳持たず怒鳴り返してきたカイトのドスのきいた声に、思わず身を引く。
カイトは持っていた一枚の紙をメイコの目前に突き出した。PCの情報を印刷したのだろう、そこに載っていた記事と一枚の写真。

『MEIKO新モジュール  怪盗ブラックテール・シャオメイ』

「…あぁ、これ。これがどうか」
「なんだよコレいつの間にこんなん撮ったんだよてかなんだよコレ聞いてないんだけど!?」
「…い、言ってなかったっけ」
いつの間にか隣に座り、メイコをソファに押し倒す形でどんどん前のめりになってくるカイトを、メイコはさりげなく押し返そうとする。が、カイトはさらにグイと身を詰め、座った目で睨みつけてきた。
「聞いてない。ていうかわざとだろ?」
「…へ?なにが?」
「わざと言わなかった。オレに」
「な、なんでそうなるの。仕事のことなんていちいち全部言わないでしょ」
「この前」

この前、今度発売されるゲームの、最後に決まったモジュールの話題が食卓で出たことがあった。
撮影は各々バラバラに行われたので、みな自分以外の新規衣装がどんなものか知らなかった。ミクはセーラー服、リンとレンは何やらごっつい重装備、ルカはセクシーで可愛い眼帯、カイトは忍べていない忍者、と盛り上がる中、メイコはそこで『咲音モジュール・ノスタルジー』の話題を挙げていたのだ。
そう言われればまさか、なおMEIKOに新モジュールがあるとは誰も思わないだろう。
しかし。

「オレ、開発側に聞いたからね、こっちのモジュ撮りした日。咲音と同日だったんだよね」
「う…」
「な ん で 言 わ な か っ た の」
目が怖い。身体がどんどんソファに沈んでいく。メイコは宙で目線を泳がせた。
「…だって、言ったら」
「うん、絶対ダメだって言ったね」
「でしょ」

かなり前、同じようなことがあった。
その時は確信犯ではなかったが、やはりメイコがカイトの知らない所で、男性と絡みのあるかなり淫靡な雰囲気のPVの仕事を受けてきてしまったのだ。
もう企画を中止にできない段階まで来て偶然それを知ったカイトがそれはもう本気で怒り、メイコを泣かせてもおさまらず、結局ノーギャラで相手役を自分がすると言い出してなんとか話がまとまった。
カイトが本気で怒って許してくれなかったのもショックだったが、何よりそんな自分たちの個人的な感情で仕事を中断させ、多くのスタッフにあまりにも多大な迷惑をかけてしまったことが、メイコにとっては本当にいたたまれなくつらかった。
でもそれも、もう随分と前の話。
仕事が爆発的に増えた今となっては、その手の仕事を全てカイトに相談しにいくことなどほぼ不可能になっている。それに基本的にカイトは怒るし不認可を言い渡すだろうと思うと、めんどくさいのが先立って、最近は今回のように強行突破してしまうようになっていた。小細工がバレたのは計算外であるが。

「学習しましたねメイコさん」
「えへ」
「でもね」
にっこり、と。誰にでも愛想のいいこの男の、最高にうさんくさい笑みが目の前で迫力を増す。
そして大きく息を吸い。

「――オレがダメだって言うのわかってるなら尚更言わないとダメだろ!後ろめたいから隠すんだろうがあぁ!!!!!!」

「うわっなに、カイ兄が怒ってる!」
「どーしたのおにいちゃん!」
カイトの珍しい全力の怒号を聞きつけて、妹弟たちがどこからか集まってくる。
「……あら、カイトさん」
ルカがリビングの入り口で足を止め、ソファの上の2人を見つけて言った。
「そういうことはお部屋でしてくださらないと…」
「ちがうぅ!!」
メイコが脊髄反射的に起き上がり、思いっきりカイトを突き飛ばす。
「なになに、ちわげんか?」
「やだおにいちゃん、おねえちゃんと仲良くしてよー」
「こらメイコ逃げるな!」
慌てて立ち上がろうとするメイコを、カイトが後ろから羽交い締めにして自分の膝の上に無理やり座らせる。
「やーもー!離してよー!」
「前から言ってるだろ!露出の高い仕事は受けたら必ずオレに言えって!」
「昔ならともかくなんで今さらいちいちカイトの許可がいるのよぉ!」
「オレにジャッジメントさせずに誰にさせるんだよ!ジャッジメントはオレの仕事だろ?!」
バタバタと暴れるメイコを抑えつけながらもはやどうでもいいことを主張するカイト。
そんな姉兄の姿を呆然と見ていた妹たちは、やがて床に落とされた一枚の紙切れを見つけ、みんなで覗きこんでから「あー…」と呟いた。

「なんだよあの服は!どこのイメクラだよ!ちゃんとパンツ履いてんの!?」
「ああああたりまえでしょ!?ていうかなんなのその言い方、すっごく可愛い衣装じゃない!」
「可愛い可愛くないはこの際置いとく!そりゃあもう超絶かわいいけどね!?」
「だったらいいでしょ!!」
「よくない!ネコ耳とかしっぽとか!どんだけあざといんだ!!」
「カ・イ・ト・に・だ・け・は・言われたくないわよ!!」
確かに、と頷く妹弟陣。すっかり事態を把握し、冷めた様子で2人を眺めている。
「いんじゃね?おそろで猫モジュとか、マニアックで」
「あーかなりキテるねーソレ」
レンとリンがジュースをずるずる啜りながらどうでもよさげに言ってみるが、もちろんカイトもメイコも聞いちゃいない。

「大体あれで踊るとか正気の沙汰じゃないだろ!シャオメイとメイコでシャオメイコとでも言いたいんか!あっはっは!……なんなのどーいうことなのS●G●はオレのめーちゃんをどうしたいのあぁぁああもぉおお!!」
「うるさい!いいじゃないもう終わった仕事なんだから!!」
「終わってない!これからあのめーちゃんが全国不特定多数の男共の目に晒されるんだぞ!?むしろオレ達の戦いはまだはじまったばかりじゃないか!!」
オレ達ってわたしたち?とミクが自分を指さして戸惑っている。
「そ、それは……仕方ないじゃない。晒されたからってどうなるものでもないでしょ」
「………どうもならないと思ってる?」
「…どうなるの?」
いきなりクールダウンしたカイトを恐る恐る振り向き、少し興味深げに問うメイコ。
「ちょうどうちにはレンくん14歳・思春期がいます。聞いてみましょう」
「思春期を俺の職業みたいに言うな」
「さてレンくん、君はこのキワドいモジュールを見て、率直にどう思いましたか」
テーブルの上に置かれた紙には、おっぱいやふとももを剥き出しにしたこの上なくセクシーでキュートな衣装を身につけあまつさえネコ耳としっぽまで付けて頬を染めポーズを取る、姉メイコの姿。
レンはそれを半目でしげしげと検分したあと、しみじみと呟いた。
「……ねーちゃんほんとスタイルいいよなぁ」
「あっコイツ!無難に手堅く答えやがって!」
カイトが唸るがレンはすでにそっぽを向いている。メイコは呆れたように眉を寄せ、口唇を尖らせて背後のカイトを睨んだ。
「レンに聞いてどうしようっていうのよ。何がしたいの?」
「いやだからさぁ…こんなエロ可愛いシャオメイコの姿見たら、普通男はさぁ…」
「なんとなく言いたいことはわかるけど!そんなのカイトだけでしょ!」
「はぁ?そんなわけないだろ!男なんてめーちゃんが思ってる100倍はケダモノだよ!!」
「だからそれはカイトだけだってば!!」
「レンを汚れたカイ兄と一緒にしないでよぅ」
レンに抱きつきながらレンは紳士だもん!と胸を張るリンの横で、レン(思春期)はうーんと難しそうな顔をしている。
しかしけっこう本気で切実な話題なのにちっとも通じないことに焦れ、カイトは吠えた。
「だあーーーっ!!!!こんなエロ可愛い恋人の姿に興奮してしまうオレはそんなにけがれてるのか、そこまで罪深いのか、そしてそれを他の男には見せたくないと思うのがそんなに変態なのか!?」
「そこまでは言ってないけど…!カイトが考えすぎなんだってば!」
「めーちゃんが考えなさすぎなんだよ!ずっと前から何回も言ってるのになんで未だにそういうとこ理解できないわけ!?大人だろ!?」
「んな…っ!!」
譲歩も疲れた頃にそんな言い方をされて、いい加減にメイコも苛立ちがMAXになる。
「なによ、じゃあ私はカイトが裸マフラーやブーメランパンツになるたびにいちいち異性の目を気にしろとかもっと露出控えろとかいいから服を着ろとか言えばいいわけ!?」
「お…っ、男はいいんだよ!そんなの見たって誰も喜ばないんだし!」
「そんなことないわよ!女だって男の人の体見るもの!」
「…えっ、マジで!?メイコも見るの!?」
「っわ、わわ私のことはいいの!!」
「教えてよオレ以外の男の体とか興味あるの!?ちょっと詳しく聞かせて!!」
「いやー!!!」

「…ミク姉は見る?」
「んーよくわかんないなぁ。あ、でも男の人の手は好きかな。おっきくて」
「リンはねぇ、ちょんまげー」
「…それってレンくん限定じゃない?」
「男の人でもちょんまげしてる人けっこういるよー?がっくんもそうだし」
「あれってちょんまげなのかなぁ…。ルカちゃんは?」
「え…」
「………」
「……………」
「あれ!?ルカちゃん赤くなった!?」
「なになに!?ルカぴょんは誰のどこを見るの!?聞かせて聞かせてー!」

すでに飽きて違う話題で盛り上がり始めた妹たちも意に介さず、カイトとメイコは取っ組み合いの末ソファに押し倒し押し倒され、最初と同じ体勢に戻りはぁはぁと息をついていた。
「…ねぇ、もう、本当に…キリがないから…」
「…じゃ、じゃあ約束しろって…金輪際オレに無断でこういう仕事受けないって…」
「わかったから…」
もはや惰性でメイコがそう漏らすと、2人とも一気に力が抜けて、カイトはメイコの上にドサリと覆いかぶさった。もちろんメイコがつぶれないように、体重をずらすぐらいの気持ちの余裕は残っていたが。

ずっと暴れながら叫び続けて、さすがに疲れた。そのまま2人でしばらくぼーっとする。
いつの間にか妹も弟も部屋に帰ったようだ。顛末が見えたから興味が失せたのだろう。
まったく自分たちはあの子たちの前で何をやっているのだろう。
こっそり苦笑して、メイコは頬に当たる青い髪の毛にそっと告げた。
「ごめん、ね」
「…ん?」
「一応」
「反省してない」
「だって私は悪くないもん」
「…ったく、もー」
怒ってはいないが困り果てた顔で、カイトはため息をついた。
「本っ当にオレは嫌なんだからな」
「うん」
「あー嫌だなぁ、明後日にはあんなメイコが世の男共に好きにされるとか…はぁ」
がっくりと頭を垂れ、何がおかしいのかクスクス笑うメイコの首筋に顔を埋めていたが、いきなり何かを思いついてガバリと顔を上げる。
「…ところであの衣装、今持ってる?」
「え、うん。カイトもモジュールは一通り一着ずつ貰ってるでしょ」
「じゃあ今夜メイコの部屋行くから」
「へ?」
「着て待ってて」
「はぁ?」
「それでとりあえず許すことにする」
「…っ、何それ!変態!」
「他の男が妄想するありとあらゆるシャオメイコをオレが誰よりも先に死ぬほど堪能してやる」
「や、やだそんなの!絶対やだ!!」
真っ赤になって暴れるも、全体重をかけられている態勢では身動きもままならない。逆にカイトはたちまち上機嫌になって、勝ち誇ったように笑いながらメイコに無理やりキスをした。



その夜「に゛ゃー!!!」とまるで猫のような啼き声がどこからか繰り返し聞こえたというが、本当に猫だったのかどうか定かではない。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カイメイ】カイトさんのシャオメイコ【祝・DIVA!】

もうダメだ今回のDIVAは私と兄さんを萌え殺そうとしてるに違いない。
兄さんが嫉妬の鬼になりすぎてどうしよう全然終わらない、と焦りました。
ホントもうお前ら、猫モジュ同士でイチャイチャ絡まってればいいよ!

遅ればせばがら、祝・DIVA新モジュ公開!!


*作品内のモジュールに関するセリフやイメージは書いた者の脳内妄想であり、
また発売元を貶めるつもりは一切ありません。どうぞご了承下さい*

閲覧数:9,152

投稿日:2011/11/08 18:46:05

文字数:4,937文字

カテゴリ:小説

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  • イソギン

    イソギン

    ご意見・ご感想

    ムチャクチャ笑わせていただきました!嫉妬の鬼と化したカイト最高です!
    私があのモジュールを見たときに思ったことを、見事にカイトが代弁して下さっていました。
    私も同意です!!
    これからも、頑張ってください。

    2011/11/23 16:10:30

    • ねこかん

      ねこかん

      イソギンさん、お読み頂きメッセージまでありがとうございます!
      笑って頂けて本当にうれしい!本能のままに書いてよかったです。
      本当に今回のDIVAは大荒れで…私はひたすらシャオメイコを視姦しております。

      改めて、読んで頂き心からありがとうございました。
      これからも頑張ります!

      2011/11/24 00:26:08

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