夜の一人歩きは闇の使者の格好の餌食だよ
と言うのがこの街の習わしだった
小さな街だけれど豊かであるこの街の唯一の恐れるものだ
この街のすぐ傍には闇の使者が住まう城がある
それはまるでこの街を監視するかのように見下ろしているようにそびえ立つ
だからこの街では夜歩く者はほとんどいない、彼を除いて

「寒っ、もう冬も近いかなぁ」

寒さから逃れるように腕を組む青年、カイトはそうつぶやいた
首元のマフラーに口を埋め、寒い寒いと口にする
彼の家は実に兄弟が多い、妹と弟5人で双子がいるほどだ
のち二人は成人してる者の一人には家事を任せている
稼ぎは二人で、全ての生活費を稼がなければいけない
しかしそれにもこの街で働くには限度があった
だからカイトは一日に数本しかないバスにのりと都会へと向かうのだった
そして最終バス、深夜近いそれに乗りかえってきた

「うぅ、トイレ行きたいなぁ」

寒さが尿意を誘い、またぶるりと震える
辺りをきょろきょろし草むらに近付いた
ちーっと音を立て、湯気を上げていく、気分が良くなり鼻歌を交える
そして尿意が消え去ったその時、月光が何かに覆われ辺りを暗くした
ばっと顔を上げると
そこには漆黒の蝙蝠のような大きな翼を広げ飛ぶ一人の青年
紫色の長い髪を風に揺らしている
そして同色の瞳がぎらりと光っている、周りには大量の蝙蝠を従わせていた

「やはり、云った通りだろう?」

空を浮く青年がそう言った

「いえ、しかしご主人様あれはどーみまして、男、でございますが?」

突然隣にいた二回りほど大きな蝙蝠がしわがれた声で話した
ご主人様と呼ばれた男は静かに舞い降り、カイトに近付く
カイトは自分のモノが出ていることも忘れただ呆然とその男をみた

「姫、お迎えにあがりました」

「いや、どうみたって男なんですけど」

思わずそうツッコんでしまったのは家で染み付いてしまったものだろう
跪く男は驚いたように目を見開くと
こみ上げた笑いにこらえ切れずに腹を抱え笑った
カイトはズボンの前を急いで閉めると、男を睨みつけた

「な、なんですか! 失礼な!」

「ひ、いひひ、あはははっ、なんて愉快だ!こんなに笑ったのは久しぶりだ
そんなもの小さなソレを見なくてもわかる
我はそなた自身を気に行ったのだ」

小さいソレ、と言われ指を差され、思わずむっとした
男はカイトとの距離を縮めるとその手をつかんだ

「手、洗ってないんですけど」

「ふむ、それは困る」

突然カイトを持ち上げると川へと投げ捨てた
全身が水にぬれ夜風がその寒さを倍増する

「な、なにするんですか!!」

「おぉ、これは失礼した、手が滑ってしまったぁ
あぁ、なんておかわいそうにゴーランド! 客人を我が城にてもてなそう!」

なんて芝居がかった話口調、まるでつまらない舞台を見てるかのようだった
ゴーランドとはどうやら周りの蝙蝠も大きい
しわがれた声の蝙蝠のことのようだ
蝙蝠はそれはそれは盛大に大きなため息をつきカイトに近付くと
首根っこを足でつかんだ

「申し訳ございませんでした、我が主の無礼な……ごっほん
このような寒空でぬれたままではお辛いでしょう
ぜひとも城へとご招待させてください」

ご招待させてください、と言いながらそれは強制的なようで
カイトは大きな蝙蝠に掴まれ、城にものすごいスピードで向かっていく

「ざ、ざぶい!!」

とりあえず城に着く前、凍死してしまいそうだ
カイトは薄れゆく意識の中、家で温かいシチューを食べている夢を見た



「う、んっ………?」

温かい、最初にそう感じた
暖炉の火が跳ねる音がしてゆっくりと瞼を持ち上げた

「なにしてるんですか?」

「眠り姫にはキス、と言うのがお決まり、ぐほっ」

びっくりだ、視界には目を閉じ口をたこのようにして
顔を近付ける先ほどの男がいた
とりあえずその頬をぶっておいた
絨毯に倒れこみ殴られた頬をなでながら、小さく笑う

「効いたぞ、流石我が嫁」

「全然効いてませんね、そのイかれた脳が治ってませんね
しかも嫁って、あんたは一体誰ですか?」

「どう見たって、我が人に見えるか?」

見えると、いったら見える、背中で揺れる大きな翼を除けば
またゆっくりとした足取りでカイトに近付くと顎を持ち上げられる

「美しい、まさに我が求めていた、それが君なんだよ、カイトくん」

「美しいって、男に使うのはおかしいだろう、ってかなんで名前を」

「それに書いてあるだろう? 可愛い字でかいとって」

イスの背に掛けられたマフラーの端を指差す
そのマフラーはリンが不器用ながらも作ったマフラーであり
端にはかいと、と書かれていた

「さて、まずはだか明日の夜に我と婚姻を結ぶぞ」

「いやいやいやいやいやいやいや、話跳躍しすぎなんですけど
貴方は誰ですか?ってか今すぐに家に帰してください
今日はめーちゃんのシチューの日なので」

一カ月に一度だけあるめーちゃん料理稼働の日
料理がうまいのにめんどう、と言う理由だけでやらずにいる
そして作られたシチューのうまさといえば何とも言えない
早く変えられないと、容赦なしに晩御飯なしになる
男と話してもらちが明かないと感じ、立ち上がろうとした
しかし突然腕がひかれた、と思うとそのまま男の腕へと飛び込んでしまった

「我がせっかく捕まえた、嫁を手放すと思うのか?」

気付けば自分の腕と男の腕は頑丈な銀色の手錠でつながれていた
どんなに引っ張っても鎖の音がするだけで外れる気配はない
男は楽しそうに笑いながら、カイトの腰を引き寄せた

「カイト、お前は我の嫁になり一生傍にいるのだ」

耳元で囁くその声に思わず背筋にぞくりとした感覚を覚えた
耳から首元、鎖骨へと唇が降りていく

「我の可愛い嫁、一生、傍にいておくれ」


がくぽ、とちょっとばかりふざけた名の彼は魔王だという
魔王と言えばもっと恐ろしい形相で
慈悲も慈愛もないような人物だと思っていたが
端整な顔立ち、すらりとした体型に背筋を震わせるほどの美声
まぁ、ただちょっとばかり頭のほうがイタイが

しかしこの城はどうやら朝も夜のように暗い
完全に光を遮断したこの場所は自称魔王が住むには似合ってると言えよう
困ったものにカイトはがくぽと手錠でつながれているため自由がない
あの後眠る時も一緒にねるぅ、など語尾を伸ばし気持ち悪く
ベットに入ってくる
その度に胸元に手が回ったり下半身をなでまわしたりと
どうやらソッチの気があるらしい
特に偏見があるわけでもないが………

「我が嫁~、こちらで食事をしよう」

と言って蝙蝠たちが持ってきた果物らを手に
がくぽは自分の膝を叩く、カイトは隣の席に座ったまま断固拒否した
風呂の時も仕方なく入るが、洗うといいながらセクハラ三昧
かるーく交わしながら時は過ぎていく
時間間隔が失われかけ、多分一週間くらい、だろうと思った頃だった
がくぽからのセクハラがぱたりとやんだ
どうしたのだろうかと思うと当時に無駄な体力が減らずに済むと思っていた
しかしどうも様子がおかしい
少しだけ離れてベットに座る、微妙な雰囲気が流れる中思わず問いかけた

「どうして、最近セクハラをしないんだ?」

「…………………我が嫁、いやカイトが嫌がるから」

ぽつりとつぶやく、視線を下に落としたままで表情はうかがえない

「まぁ確かに、でもこう突然終わったから変に感じたんだ」

「カイト、人間は楽しいか?」

「へ?」

人の話を見事にスルーしてくれたがくぽだったが言葉に耳を傾ける

「人間とは儚い、すぐに死んでしまうぞ?」

「それが人間、しななかったらがくぽ達みたいな存在だろうなぁ」

「確かに、我らが特定の事以外ならば死なない
それに近づかなければいいのだ」

がくぽはベットから降り、カイトの膝にすり寄り上目づかいで見た
寂しそうに影のある瞳に思わず同情してしまいそうだった

「カイト、魔の世界は素晴らしいぞ、世界の進む様を見れる
空だって飛べる、季節の代わり具合をずっと見ていられる
動物とだって話ができるぞ! もちろん草花ともだ!すばらしいだろう!」

魔の素晴らしさを語っていく
目はらんらんと輝くもまたすぐに寂しそうになる

「ずっと死なないぞ?」

「だから、何が……」

がくぽに抱きしめられた首元に息がかかりくすぐったい
温もりを求めるかのようにぎゅっとカイトを抱きしめた

「だから、一人になるんだ、どんなに愛した人を見ていたいと願うも
すぐに逝ってしまう」

寂しさ、がくぽの言葉からそんな感情が読み取れた
死なない身体、愛した人の死を何度も見送らなければならない
人間は一度で済む別れを何度、続けていたのだろうか

「我はカイトに一目ぼれ、したのだ
毎晩毎晩寒かろうが、暑かろうが駆けていく姿に
嬉しそうにしながら帰っていく姿、時に悲しそうに帰っていく姿
全ての感情に素直に生きるカイトが羨ましく、とても美しく感じられた」

なんだか気恥ずかしさがあふれる
どれほど前から見られていたかという事は考えないでおいた
思わずその手に震えるがくぽの背に手が回る

「カイトとはずっと、ずっと一緒に居たいんだ
これほどまでに誰かを想う気持ちになったのは
初めてでどうすればいいかわからない
カイトには家族がいる、我にはない、家族が……
こちらの世界に引きずり込んでしまったらカイトは哀しむ
このままではだめだと思って、どうすればいいか、わからなくなった」

たった一週間とちょっとの間、がくぽは一人悩みに悩んでいたのだろう
カイトを欲しいと願うと同時にカイトの幸せを願う
がくぽはただ一人、カイトに知られず悩み続けた

「どうすればいい、カイト、お前は我を……愛して、くれるか?」

すがるような瞳、カイトにはわからない寂しさだ
カイトは悩んだ、皆は好きだでも
短い時間の間にがくぽに少なからず魅かれたのだろうか
愛に飢えた瞳がカイトには辛かった、幸せを教えてあげたいと思ってしまう
背中に回る手に力が込められる
そして、カイトは決断する


「まったくさ、なーに考えてんだか」

カイトの弟、レンは城を見つめながら言った
傍らにいるレンの双子の姉もくすくすと笑った

「でもさー、そういう所ってカイト兄さんっぽいよねぇ」

カイトががくぽに連れ去られ早半年、カイトはがくぽとの幸せを選んだ
悩み抜いた末、どうしても寂しい瞳を見捨てられなかった
がくぽを連れ、家でその報告をするとカイトだから仕方ないという目を向け
あっけなく二人を見送った

夜の一人歩きは闇の使者の格好の餌食だよ
そんな言葉はいつしか消え去った

そして今日も闇の中で二人の幸せそうな歌が響き渡った

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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《魔王と青年》 BL注意 がくカイ

前から書きたかった物の一つです
共鳴siderさんのイラストで「がくぽとKAITO」
http://piapro.jp/content/hmpd4tk6e8m2hopx
の魔王におっもちかえりぃ~♪されたっていう設定が萌えたので
勢いのまま書いてしまいましたorz
結局この二人はらぶらぶ超絶ばかっぷるになればいいと思います
共鳴siderさんなんか、ごめんなさいorz
素敵なイラスト有難うございますww

3月14日
最期が気持ち悪い~って思ったので変更

閲覧数:4,098

投稿日:2010/03/14 16:07:47

文字数:4,437文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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