[B区画 森エリア]
 いろはは、三人がついてこなくなったのを確認すると立ち止まった。
 そして、抜き足差し足で元来た道なき道を戻っていく。
 その唇に笑みをたたえて。


 日は高いが、背の高い木々に覆われて、あたりは薄暗い。
 見通しは…あまりよくない。
「あいつ、まさかこれが目的で…」
 レンが舌打ちとともに言った。
 一概に森、といってもただ木々が並んでいるだけではなく、茂みなど隠れられそうな場所はたくさん見受けられた。
「…奇襲する気ね…」
 リンが暗くつぶやいた。
 三人は背中合わせに立ち、いつ、どこから来ても対応できるように警戒する。
 すると、リンの正面の茂みでガサ、という音とともに少し何かが動いた。
「『夕闇とオレンジ』!」
 すかさずリンが歌ったが、攻撃が当たったという手ごたえは全く感じられなかった。
 再び、今度はミクの前で音とともに何かが動く。
 ミクは歌おうと息を吸ったが、レンがそれを止めた。
 レンはその正体を目撃したのだ。
「石だ!あいつ、どっかから石を投げて、わざと注意をそらそうとしてるんだ!」
「あら、ばれちゃった?」
 レンの声に反応するかのようにいろはの声。今度はレンの正面だ。
「『スーパーヒーロー』!」
 すぐさまレンは歌う。今度はドカン!と大きな音が鳴る。
 決まったかと思った。だが、音とともに茂みから飛び上がったものをみて、驚愕する。
「…!スピーカー!」
 そう、出てきたのはいろはの手についているスピーカーだったのだ。
 …完全にいろはにもてあそばれている。
「…こうなったら、確実にいろはの姿が見えるまで、撃っちゃだめだ!」
 レンが言った。確かに、ここは歌うだけ無駄だというのが思い知らされた。
 三人は静かに、そのまま自分の視界の先だけに集中する。
 いつしか、戦いは我慢比べに発展していった。


 どれくらい時間がたったろうか、三十分、いや、一時間かかっているかもしれない。
 だんだん、ミクはイライラし始めていた。まあ、当然といえば当然である。
「…もう…キリがないわ…」
 リンも疲れ始めている様子だ。
 それくらい、目の前に映るものに集中していたのだ。
 さっきから、何の小細工も起こらず、静かな時間が流れていくだけだ。
「ふふふ、疲れてる?」
 ここでいろはの声がした。ミクの方向だ。
 すぐミクは歌おうとしたが、またしてもレンに止められた。
「待てミク姉!多分またスピーカーだ!」
 だが、もうミクは我慢の限界だった。
 その様子に気づいたレンがさらに説得する。
「大丈夫だよ!ここでいろはが仕掛けてきたのは、多分あっちもしびれをきらしたからだ!」
「嫌よ!もう我慢できないわ!」
 ミクは怒りにまかせて歌った。地面めがけて。
「『恋は戦争』!!」


 いろはは、ずっと、三人の正面にない、大きな木の後ろに隠れて、ずっと様子を窺っていた。
 そして、あの手この手で隙を待っていた。
 そういう意味では、こうしてミクが我慢ならずにやみくもに攻撃しに来てくれるのは、三人の注意が散漫になり、絶好の隙、と言えただろう。
 だが予想外が一つ。イライラに任せて放ったミクの攻撃が、強すぎた。
 ミクのその攻撃は地面に当たり、そこから同心円状に衝撃波となって、周りの木々を吹き飛ばしたのだ。
「にゃああ!?ここまで威力があるなんて…!」
 思わず発した猫語。それほどすさまじい威力だった。
いろはが隠れていた木も当然吹っ飛び、完全に丸腰になってしまった。
 そしてそれをミクは見逃さなかった。
「『ミラクルペイント』!!」
「にゃあああ!」
 ミクの攻撃はいろはの身体に見事に命中、その衝撃でいろはは遠くに飛ばされていった。
 ふー、ふーと肩で息をするミク。双子は目を丸くして一部始終を見ていた。


「いっ…ううっ!」
 吹き飛ばされたいろはは、木の枝や葉に当たりながら落ちていく。
 しかし、脱げた頭のヘルメットが大きな枝に引っ掛かったおかげで、体を地面に打ち付けづにすんだ。
 もしそうでなかったら…いろははもう動けなかったかもしれない。
 それでも体は傷だらけだ。
「…ミク…よくも…」
 その目は仕返しに燃えていた。
ここまで自分を傷つけたミクに、一矢報いないわけにはいかない。
引っ掛かった枝を外して、ゆっくり降りる。
その時、いろはは物音を聞いた。こっちに向かってくる。まさかもうミクが追いついてきたのか。
 いろははすぐにマイクを構え、歌った。
「『ネコネコ★スーパーフィーバーナイト』!」
 光線が飛んでいく。
どうやら物音はやはり誰かが来たかららしく、あちらからも歌声が聞こえた。
…だが、ミクではなかった。リンでも、レンでもなかった。
「『巡姫舞踊曲』!」
 あちらからの光線はいともあっさりいろはの攻撃を跳ね飛ばし、しかも威力を保ったまま飛んできた。
 いとも簡単に攻撃が跳ね返されたのに驚き、いろはは逃げることができなかった。
「うう…ぅ…なぜ…ここに…ルカ…さ…」
 どさ、といろはは倒れ、気を失った。
手から零れたそのマイクを、その人物は踏み潰し、壊した。


「…どうなったのかな…」
 その頃、リンは背伸びをしていろはが飛んで行った方角を見ていた。当然、そんなことで見えるわけはないのだが。
 結局、いろはがどうなったかはわからない。やはりまだ倒しきってはいないのだろうか…とミクが思い始めたとき、三人のフォンにバイブ音。
「…どうやら…」
「やったみたいだね…」
 三人は顔を見合わせ、ほっと溜息をついた。ようやく緊張から解放された。
 …だが、安心するのはまだ早かった。
 だって。
 開いたメールの文面が、こうなっていたからだ。

『A‐4 猫村いろは
 C‐5 巡音ルカにより、脱落』

 これが何を意味するか。
 まさかいろはがあの攻撃で遠くに飛ばされているはずがない。確かにいろはは森の中に落ちた。
まさかあのいろはは偽物だった、なんてこともあり得ない。ここにはゲーム参加者しかいないのだから。
 なら、答は一つ。
 三人が再び顔を見合わせた。再び緊張が走る。
「ルカ姉が…近くにいる…!?」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

BATTLELOID「STAGE4 錯乱」-(2)

説明は「BATTLELOID BEFORE GAME」を参照してください



いろはの錯乱戦法に惑わされる三人。
それについに切れたミクは…。

前回→http://piapro.jp/t/SXsw
次回→http://piapro.jp/t/Cz1u

閲覧数:227

投稿日:2014/06/28 22:33:22

文字数:2,557文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました