1.
博士はずっと水をあげていた、口笛を吹きながら。
博士はずっと様子を見ていた、話しかけたりもして。
「まだ咲いてないね。」
博士はずっと夢を見ていた、この花の目が開(ひら)くのを。

2.
ある日博士が部屋に入ると、花が歌っていた。
いつも口ずさんでいた曲。博士の子の好きな曲。
「目はまだ開(あ)いてない。」
博士、いつ咲くかわからないから、夕方からずっとそばで。

3.
部屋の窓から雲なし月も見え、博士一歩も外へ出ず。
光さしこみ、歌止まる。眠い目覚めた。
目がひらいていく。
愛しい博士のきれいな花は、やわらかくにっこり。

* *

4.
名前は花糸。きれいなその子。太陽も夜も好き。
荒れていた庭、その子が手入れ。花々が蒸しこめる。
暖かい笑顔。
喋れないけど歌が歌える。心ある植物。

5.
三角巾にエプロンもして、今日庭のお手入れ。
「部屋にけして入ってはだめだよ。」博士何度も念を押す。
実験室はだめ。
とてもとても残酷な光景。花糸生み出すための部屋。

6.
その後(ご)も平和な日々は続いて、今日もお茶の時間。
ところが村人近くを通り、とあること見てしまう。
花咲かす人。
村人慌てて戻っていった、「あれは人じゃないものだ!」

* *

7.
ある日兵隊ずかずかと来て、博士に詰め寄った。
「おいお前のあの研究は、失敗したと聞いたんだがね!」隊長が息巻く。
博士の横にその子。
「お前の子どもは死んだはずだろ、こいつは一体だれなんだい?」

8.
博士は困る。だってこの子は、大事な子。大事な子。
この子以外は作りたくない、大事な子。大事な子。
兵隊にはさせない。
内緒にしてたその理由は、戦争なんかに役立ちたくないから。

9.
博士は困る。口ごもったら、隊長がこう言った。
「こいつが試作品なんだろう?もって帰らせてもらう。」
花糸の腕つかむ。
博士はそれを払いのけたい、二人の間に入る。

10.
それを隊長銃で撃つ。

* *

11.
撃たれた博士、花糸をつれて、実験室に行く。
よろよろと進む、兵士追いかける。ああ、もう追いつかれる。
するとなぜか蔓薔薇。
とてもよく伸び、道をふさぐ。ふしぎなこと、起きるもの。

12.
博士がいつも離さなかった、鍵をその錠前にいれ。
開けた扉のその向こうは、暗く、とても酷く。
ばらばらのいろいろ。
おびえる花糸に構うことなく、重い扉、博士は閉める。

* *

13.
ごめんごめんと花糸の頭、博士腕に抱き込む。
薄く光るは奇妙な薬剤、光景を照らし出す。
血が流れ流れ。
どんどん博士の中身が減って、軽くなってしまいそう。

14.
花糸は博士の手に触れて撫で、そっと笑う。泣きそうに。
いやいやと言うように首ふり、泣きながらにっこり。
唇ゆがめて。
それ見て博士は愛しく思い、この子の名前呼んで果てた。

15.
暗い部屋に残るひとり、初めて見る人の体液。
自分にけして流れていない、人と自分を分けるもの。
でも心はある。
とても愛しく、とても悲しい。言葉にはならないけれど。

16.
(人が世界に帰る手段がこれだというのだとしても。
この地に帰り、僕を育むのだと、思い込もうとも。
それでもやはり、これはだめ。
愛しい人は、生きていて。)

17.
床に落ちてた薄い草で、指を切り、流れる水。
透明で光る。博士の顔に、落ちてはじける。
ぴしゃん、ぴしゃん。
博士の口に、水注ぎ。植物は目を、閉じていく。

* *

18.
博士目覚まし。あの子どこ、あの子どこ。
扉に茨。頑丈に塞いでる。
あの子はどこ。
博士の腹の傷はなおり、そこから花の芽がでている。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【KAITOで】人植物【パラレル歌詞物語】

人植物の物語。
人植物の固定設定ではなく、人植物を題材とした話の一つ。

標本
http://piapro.jp/a/content_list/?view=image&tag=%90l%90A%95%A8

*

5/26:内容補足

昔、博士は軍の研究所に所属しており、植物からの人造人間を作る研究に従事させられておりました。食事もいらず、従順で、補充のきく兵隊とするために。
しかしある日、博士の息子が戦場で死んだことを聞き、戦を憎み、また、もう何もかもが抜けてしまったような心持ちになった博士は、研究の場所を軍の施設から移すことを願い出て、そしてしばらくしたころ、研究は頓挫したと報告しました。まだ研究は続けていましたが。
息子をよみがえらせたいという思いではありませんでしたが、しかし、いつしかある実験体が我が子のように思えてきて、その一つを自分の支えにして研究を続けてきました。
停戦されてもなお、実験体は目を覚ましませんでした。
しかし、その停戦の約束が破られようとするある日、その実験体、花糸[カイト]がようやく目を開けました。

*

実は漫画で考えてました。描けないのに…。カイトが目を覚ますまでの水やりはコップで口に飲ませるとか、色々考えているのに。こんな場合、博士の外見とかどうすべきなのか。そんなわけで、漫画を描いてくださる方はいつでも絶賛募集中です。

目を覚ますまでの、夕方に歌を歌い始めて夜に咲くというのは、月下美人のように。夕方に強い芳香がしはじめ、夜に咲くらしく。

この話では撃たれるのは博士でしたが、カイト版もあります。
この話でも、「花は、さびしいと枯れちゃうんですよ」と言ってから博士の息のあるうちに色々施してカイトがいなくなる版や、一緒に部屋で息を引き取る版や、いろいろ考えられるんです。というか、まずカイトが喋れる版もあるんです、というか最初はそのつもりでした。ノリで、歌えるけど喋れないということにしましたが、できれば、喋れてぐだぐだのほほんとした生活を送っているところも書きたかったです。「マスター紅茶の葉っぱ切れてますよー」とか!
この話ではカイトは植物を操れるようにしていますが、操れないのもいいです。植物からできた人間、というだけの。

つまり人植物は人と植物の融和というだけのフリーダム!夢広がる!いろんな人の人植物が見たいです!

閲覧数:1,161

投稿日:2008/05/26 11:49:07

文字数:1,520文字

カテゴリ:その他

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  • 月條現矢

    月條現矢

    ご意見・ご感想

    nayutaさんおいでませ!あの、あの、もうなんと申し上げたら…!!すごくあたふたします…!!
    人植物を好きになってくれるお方が増えてきて、私はもう、嬉しい限りです。それでもって、好きになっていただいただけでなく、作品にしていただいただなんて、この胸の衝動をなんてお伝えすればいいというのか…。もう、ど、どうしよう。

    さっそく拝見させていただきました!感想はそちらで申し上げたく存じますが、読み終えた後に「はわわわ素敵すぎる…!!」と悶えたことをまず告白します!
    ところで、イメージなんていっそぶち壊してくださっていいんですよ!ぜひ突き抜けて行って下さい(笑)。

    なんだかもう、むしろnayutaさんを騙しているような気さえしてしまいます…そんなに言っていただけるだなんて…!正直、人植物関連は、誰かご覧になることがあるのだろうかレベルから悲観しているので、お言葉がとてもとても嬉しいですvvv そして大量発汗までしていただきありがとうございますww
    い、以前から来てくださっていたのですか!?うわ、嬉し恥ずかしです、いえ究極に嬉しいです。世界観だなんて、頂くにはあまりあるお言葉を…!

    ところで、今さらなんですが、実は…こちらこそ、nayutaさんのこと好きでした…!
    絵も可愛らしかったり格好よかったり、奥のある闇を描かれていて凄いと思い。何より詞が、青い色のある夜風のようで、どれを拝見してもその息吹を感じます。

    まさかこれにコメントを頂ける日が来るとは!という驚きとともに、限りない嬉しさでいっぱいです。ありがとうございました!こちらこそ、これからもこっそりお邪魔しますv

    2008/05/28 15:20:15

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