第十五話　私の

　人気のない荒れ屋敷一帯で、おりんさんは私の胸で泣いていた。


　「おっかさんは――、私は――、っ……れんは――――何者っなの……っ？」


　とうとう話さなければならないらしい。
おりんさんはもうすでに私も自分もおかみさんも、ただの人ではないと知っている。

　自分が何者か分からない恐怖は、私は一番分かっているつもりだ。


　おりんさんも今そうなら、自分が―――。


　「――あれ、どうしたんだい？こんなところで……あれあれ、お兄ちゃん、女の子泣かしちゃあ、駄目じゃないかい」


　前方遠くで、おなごの声がした。
かたり、かたり、とだんだん近寄ってくる。

　随分と、おきゃんな物言いだ。
まあ、優男よりは良いかな。
ここはあのおなごに少し頼むかな。

　ここでおりんさんに泣かれていても、男の私には、何をどうしたらいいのかなんて、分からないから。



　「あのう、通りすがりなのに申し訳ないんですが、少し、いいですか？」


　近くへ来たその人は、思ったより美人だった。
もうそろそろ嫁入り時であろうか。

　「あんたたち、寿々屋さんだろ」

　「な、寿々屋を―――」

　「最近、噂で広がってるからねえ。いいよ、あんたたちふたりは、化けものには見えないからね」


　その瞬間、胸がずきりと痛んだ。
その化け物は私で、この寿々屋のおりんさんも、人ではない。



　「――あの、私はれんといいます。こちらは、私の奉公先の寿々屋のお嬢さんで――」

　「ああ、この子がおりんさんかい」

　「それで、あなたは―――」


　私たちの前を歩いていたそのおなごは、口の端を片方だけ釣りあげて、得意げな顔で言った。

　
　「おとて、でいいよ。れん」

　
　おとて。
何とも頼もしそうな、おなごである。


　「お嬢さんも、おとてでいいからね」


　泣き顔を見られた故か、ずっと俯き加減で歩いていた。
おとてにそう言われて、こくりと頷いた。




　「お、おとて――。これは、どこへ向かっているんだい」




　おとては存外無邪気な笑顔を見せた。







　「行けば分かるよ」















　そして私たちは、もう一度歩み始めた。