ロミオとシンデレラ 外伝その二十三【メイコの思案】前編

投稿日:2012/04/26 18:26:08 | 文字数:5,228文字 | 閲覧数:650 | カテゴリ:小説

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 注意書き
 これは、拙作『ロミオとシンデレラ』の外伝です。
『アナザー:ロミオとシンデレラ』第六十二話【マネシツグミを殺すな】と第六十三話【真実が充分じゃない時がある】の間の話となっています。
 したがって、『アナザー:ロミオとシンデレラ』を【真実が充分じゃない時がある】までと、外伝【アカイの想い人】までのカイト関連の外伝を読んでから、読むことを推奨します。


【メイコの思案】


 弟のレンが、つきあっているリンちゃんのお父さんに殴られて帰宅した次の日。私は、レンの通っている学校から呼び出された。私たちの母は、現在長期の海外赴任中なので、何かあった時は私が出向くことにしている。
 そこでされた話は、予想どおりといえば予想どおり、意外といえば意外だった。要するに何かしらの苦情をつけてくるだろうなとは思っていたけど、それがそういう内容だとは思ってなかったってこと。
 向こうがしてきた主張は、レンがリンちゃんに手を出したというものだった。もちろん、二人はまだそんなことはしていない。一度レンが暴走しかけたのは確かだけど、その時は上手くいかなかったし、私が気づいて声をかけることができた。……私がいる部屋の隣でそうなるってことが、レンが何も考えていなかったことの証だったりするのよね。その後、レンとリンちゃんに個別に話もしたし、二人とも、私が話したことの内容はちゃんと理解していた。
 少なくとも、私も母も、レンがそういう間違いを起こさないよう、育ててきたつもりではいる。軽い気持ちで女の子に手を出したら、どうなるのかってことはちゃんと教えてきた。オブラートにくるまず、はっきりきっぱり説明した。私が話したことの一部は、レンにとってはかなりショックだったようだったけど、それくらい、あの年齢の男の子は知っておくべきだと私は考えている。
 とにかくそういうわけで、私は校長の話を突っぱねることができた。レンがまだそういうことはしてないって、きちんとした確信があったから。
 とまあ、今回は話は流れたけれど、リンちゃんのお父さんがこれで諦めてくれるとは思えない。ハクちゃんの話を聞く限りでは、リンちゃんのお父さんはかなり執念深い性格のようだし。こっちもしっかり備えをしておかないと。
 私はレンと別れた後、携帯を取り出した。これだけの問題となると、母さんにも話をしておいた方がいい。メールと電話……今は昼間だから、向こうは深夜だ。メールの方がいいわね。私は、メールに起きたことを詳しく書いて送信した。
 母さんにメールを送った後、私は、手に持った携帯をしばらく眺めていた。それからちょっと考えて、別のアドレスにもメールを送る。
 さてと、これからどうしようか。今はまだそんなに遅い時間じゃないし、今からでもマイコ先生のところに戻って……と考えていた時、携帯が鳴り出した。
「もしもし、メイコです」
「あ、メイコさん。さっきのメール、見たんだけど……僕、今日は講義が休講になっちゃって暇なんだよ。だから、今大学に来てくれたら話できるけど、どう?」
 電話をかけてきた相手――マイコ先生の弟のカイト君――はそう言った。カイト君、今日は時間が取れるのか。話は早い方がいいわね。
「いいの?」
「うん。どうせ暇だし」
 じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおう。
「わかったわ。大学のどこに行けばいいの?」
 カイト君が指定した場所は、大学の食堂だった。正門から入ってどう行けばいいのかも、詳しく教えてくれる。
「もしキャンパス内で迷ってしまったら、また連絡して。そうしたら迎えに行くから」
「ありがとう、それじゃ、すぐ行くわね」
 そう言って、私は通話を切った。


 私は電車に乗って、カイト君が通っている大学――正確には大学院なのだけど、同じ建物だしね――へと向かった。幸い、そんなに遠くないし、道もわかりづらくはなかった。食堂も、割とすぐわかった。
 考えてみると、大学の構内って初めて入るのよね。ちょっと物珍しさで辺りを見回してしまう。おっとっと、いけないいけない。
 食堂の中に入ると、人はまばらだった。もう、お昼を過ぎているものね。カイト君は、テーブルの一つに座って、参考書――だと思う――を広げている。カイト君の向かいには、同じくらいの年齢の、眼鏡をかけた男の人が座って、やっぱり参考書を広げていた。
「あ、メイコさん」
 私が入っていくと、カイト君が気がついて立ち上がった。明るい笑顔を浮かべている。
「すぐわかった?」
「ええ」
 カイト君が隣の椅子を引いてくれたので、私はそこに座った。
「メイコさん、何か飲む?」
「え、平気よ」
 私がそう答えると、カイト君は何故かがっかりした表情になった。あ、もしかして、カイト君は休憩入れるところだったのかな。
「やっぱり飲もうかな」
 そう言うと、カイト君はぱっと立ち上がった。
「じゃ、買ってくるよ。メイコさん、何がいい?」
「じゃあ……アイスのカフェオレ」
「カフェオレね、わかった」
「カイト、僕にはアイスコーヒーを買って来てくれ」
 不意に、向かいに座っていた人が口を開いた。
「あのね、キヨテル。僕は使い走りじゃ……」
「二人分も三人分もそんなに変わりはないだろう」
 キヨテルと呼ばれた人は、淡々とした口調でそう言った。視線は、参考書から動いていない。
「カイト君、友達なの?」
「……まあね。同じゼミ生の氷山キヨテルだよ。キヨテル、彼女は鏡音メイコさん。僕の兄さんのところで働いているんだ」
 氷山キヨテルさんとやらは、初めて視線をあげてこっちを見た。なんというか、堅物って感じの人ね。
「初めまして。ところでカイト、彼女じゃないのか?」
 カイト君は真っ赤になった。あれ……カイト君のこんな顔、初めて見たわ。結構可愛いかも。でも、こんなことを言ったら、怒っちゃうわね。黙ってましょ。
「ち、違うよっ!」
「つきあっているわけでもないのに、お前の兄さんの同僚とやらが、なんでわざわざ大学にまで来るんだ?」
 同僚じゃなくて部下なんだけどね。カイト君のあの説明だと、勘違いしちゃうか。
「それはメイコさんが僕に相談したいことがあるからだよっ!」
「相談なんか、大学が終わってからでもいいはずなのに? 大体……」
「うるさいうるさいうるさいっ! アイスコーヒーだろ、買ってきてやるよっ!」
 カイト君はカウンターの方に行ってしまった。氷山さんは、また参考書を読み始める。私はちょっと手もち無沙汰な気分で、カイト君が戻ってくるのを待っていた。
「……お待たせ」
 カイト君が、コップを三つお盆に載せて戻ってきた。私と、自分と、キヨテルさんの前に一つずつコップを置いておく。
「はい、アイスコーヒー。それ飲んでおとなしく勉強してろ」
 氷山さんは何も言わず、アイスコーヒーに口をつけた。もともと、無口な人らしい。私も、カフェオレの入ったコップを手に取る。
「カイト君、ありがとう」
「どういたしまして」
 氷山さんの時とはうって変わって、カイト君は明るくそう答えてくれた。とりあえず一口、飲み物を啜る。意外と美味しい。
「それでメイコさん、相談って何?」
「あ、うん。……あのねカイト君。訴訟って、どうやって起こしたらいいの?」
 カイト君が、びっくりしたように目を見開いた。
「メイコさん、訴訟起こすの?」
「あ……えーと、場合によってはね」
「何の訴訟? マイト兄さんのことだから、給料はちゃんと払ってるよね。あの職場だとセクハラとかはなさそうだし……」
 そんなことを言い出すカイト君。なんでいきなり職場関係が出てくるのかしら。あ、でも、よくよく考えてみたら、今我が家に降りかかっているトラブルの方がずっと珍しいか。
「職場関係じゃないから」
「じゃあ何? 誰かと土地の境界でもめぐってもめてるの? それとも、誰か死んだの?」
 死んだって……ああ、遺産関係か。
「そういうのでもないから。そうじゃなくて……えーと、名誉毀損」
「誰かメイコさんの悪口でも言って回ってるの? そんな奴僕がとっちめて……」
「お前、落ち着け。それじゃ相談にもなってないし、張り倒すのは傷害罪だ。法律学んでる奴が何を言ってる」
 氷山さんが、淡々と口を挟んだ。普段からいつもこうなのかしら、この人って。
「キヨテルは黙っててよ。相談に乗ってるのは僕なんだから」
「何の役にも立たない相談相手ほど迷惑なものはない」
 きついわね。淡々というから余計きつく聞こえる。でも、悪気があるわけじゃなさそう。
 それはさておき、もう少し順序立てて説明した方が良いかな。でも、一から十まで全部喋るのも気が進まない。前提から話すと長くなってしまうし……。
「とりあえず訴訟を起こしたいのなら、裁判所に訴状を書いて提出すればいい。わからないのなら法テラスに電話すれば、書き方も教えてくれるし、無料の法律相談も受けられる」
 私が考え込んでいる間に、キヨテルさんがそう言った。ふーん、訴訟自体は結構簡単に起こせるのね。もちろん、弁護士さんを雇わないといけないだろうけど。うーん、幾らかかるんだろう。
「でもねメイコさん、当たり前だけど、裁判をしたからといって、勝てるとは限らないんだよ? 名誉毀損って、結構勝つの難しいし、勝ってもメリットは少ないし」
 これはカイト君だ。それはそうだろうけど……向こうは事実無根の苦情をつけてきているのよ。それに、レンが退学になるのを黙って見てるわけにはいかない。
「そもそも、なんで訴訟を起こそうと思っているの?」
「えーとね……カイト君。これ、例えばの話よ。例えば、マイコ先生のところで、誰かのお財布が無くなったとするわね。それで、これまた誰かが、私が盗ったんだって決めつけて、それが原因で私がクビになっちゃったとしたら?」
「マイト兄さんは……」
「マイコ先生はそういうことで部下をクビにしたりはしないわ。これはあくまで例えの話なの」
 カイト君はしばらく考え込んだ。
「メイコさんの目的は? 慰謝料? 謝罪?」
「復職」
「……それだったら、マイト兄さんを不当解雇で訴えるのが妥当だよ。濡れ衣着せた相手じゃなくて」
 つまりレンが退学になったら、その場合は学校を不当退学で訴えることになるのか。
「相手が公式に謝罪してくれれば、マイコ先生は復職させてくれると思うわ」
 例えの話だから、こういうことになってしまった。ま、リンちゃんのお父さんから苦情を撤回させられれば、レンの処分の話はなくなるわね。
「じゃ、相手を名誉毀損で訴えることになるね。でも、マイト兄さんを不当解雇で訴えた方が早いと思う。法的にはね」
「でもマイコ先生を訴えたら、復職してもギスギスしてしまうわ。だから、謝罪を引き出したいの」
「うーん……」
 カイト君はこめかみを揉んで、思案する表情になった。それからノートを広げると、あれこれ紙に書きながら、私に裁判の仕組みや流れについて説明をしてくれた。
 それでわかったことは、裁判で大切なのは、判事に事実を認識してもらうことだということだった。きちんと証拠を見せたり、証人に証言をしてもらったりして、どういう状況なのかをわかってもらうことなのだと。何が起きて、何がどう問題で、何をどうしてほしくて、その主張にどれだけの正当性があるのか。それが証明できなければ意味がない。裁判というのは、基本的には法廷の中で開示される情報だけで、全てを判断されてしまうものなのだ。
 となるとこの場合、リンちゃんに証言してもらわないとならないだろうけど……リンちゃんを証言台にあげるなんて、可能なんだろうか。それに証言台にあがると、リンちゃんの負担になりそうだし……。
 それよりももっと困ってしまったのは、裁判にはかなりお金と時間がかかるということだった。お金はさておき、判決が出るまで、一年ぐらい当たり前のようにかかってしまうという。そんなの、レンの負担だ。復学できるまでに一年のブランクなんて、たまったもんじゃない。なら先手を打って、リンちゃんのお父さんの方を名誉毀損で訴えようか。でもこんな裁判をやったら噂になって、レンが外を歩けなってしまうかもしれない。大会社の社長令嬢に手を出したか出してないか、なんて、洒落にならないもの。
 裁判は最後の手段だ。とはいえ、必要とあれば裁判も辞さない、という構えは崩さないようにする必要がある。退学だけは、絶対に防がないと。
「ありがとう、色々と」
「役に立った?」
「とっても」
 カイト君は嬉しそうに笑った。講義が休講になったとはいえ、貴重な時間を割いて私に付き合ってくれたのよね。今度、お礼をかねて今度食事でも奢ろう。どこがいいかな。

しがない文章書きです。よろしくお願いします。

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