千年の独奏歌(小説) 前編

投稿日:2008/07/24 19:45:03 | 文字数:2,173文字 | 閲覧数:519 | カテゴリ:その他

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 「千年の独奏歌」のイメージで小説を書いてみました。原曲http://www.nicovideo.jp/watch/sm3122624

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TEXT
 

 この月の下で もう巡りあうこともないけど
 この空に向かって歌い続けていよう


 燃え上がりながら、太陽が沈んでゆく。
 巨大な紅蓮がとけ込んで、海の一所がその色を変えている。
 夜を迎えるため、いつも太陽は海へと身を投げているのに、朝には真新しく空を目指すのはなぜだろうと、ふと思った。
 青い髪の青年は、風に目を細めてその場に静かに腰を下ろした。
 崩れそうな、石の柱。何度も直したけれど、時間には勝てなかった。
「マスター」
 呼びかけても、当然墓標からの答えはない。メモリーの中の過去が、答えてくれたように思えるだけだ。
 ここに眠る人を憶えているのは、世界にもう彼一人しかいない。
 忘れないように、彼は毎日ここを訪れる。彼の記録にある主人を、そうしてつぶさに回想する。
 忘却を、何よりも彼は恐れている。


 主人に指示された歌を、歌う。
 それを至福とするように、カイトは創られた。全力を尽くして、主人の望むように歌紡ぐことこそ、彼の存在意義だった。
 悲しい歌。愛の歌。
 歌のテーマや雰囲気に対応できるよう、あらゆるプログラムがカイトに組み込まれていた。
 いわば、彼は人の形をした、人の声と言葉で演奏する楽器だったのだ。
 カイトの主人となったのは、若い男だった。そのときは大学生で、作曲家を目指していた。
 彼に自分の歌を歌わせ発表し、いつか夢を叶えたいと、笑っていた。

「ぜんぜん駄目だよ」
 最初にマスターのところで歌ったとき、最初の旋律を終えないうちに、彼はそう言った。
「感情がこもってない。ただの機械みたいじゃないか」
「ですが……」
 機械みたいで当たり前なのだが、マスターは首を振った。
「歌には感情がこもるもんなんだよ」
「歌唱表現のための、疑似感情プログラムは組み込まれています」
「そう言うことじゃなくて……」
 しばらくの間、マスターは唸っていたが、急にぽんと手を打った。
「わかった、実地で行こう」
「は?」
 意味がわからなくてカイトは首をかしげたが、マスターは自分の思いつきが気に入ったのか、満足げだ。
「歌うとき以外でも、俺と一緒にいろいろやっていけば、きっと生の感情っていう奴も覚えると思う」
 彼の言っていることはよくわからなかったが、その日からカイトは、マスターの生活に合わせることになったのだった。

 ギターを教えてもらったのは、いつだったろうか。
 基本的に、カイトが歌うときは音楽をデータとして入力してもらう。そのため最初からPCで作った方が楽なはずなのだが、カイトのマスターは楽器での作曲にこだわった。
「お前も弾いてみるか?」
 興味津々で見ていたカイトに、マスターはギターを手渡した。一通り、楽器の奏法もカイトにはプログラムされているが、実際に触るのは初めてだった。
 ノイズが生じたのは、そのためだったのか。
「弾けるのか?」
「はい」
「じゃあ、この間練習した曲、弾いてみてくれよ」
「はい」
 旋律を思い起こしながら、カイトは弦の上に指を滑らせた。
 明るくて、楽しい歌だった。友達がいて、目指すものがあって、すべてが輝いている気持ち。そんなことを表現した歌だと、マスターは言った。
 楽しく、明るく。弾むように、カイトの指は動く。
 最後の音が飛び跳ねて消えたとき、マスターはうなずいた。
「なかなかだな」
 ノイズが、一瞬だけ大きくなったように感じた。けれどそれは、悪いものではなくて、もっともっと感じてみたいとカイトは思う。そして、そんな自分に驚いた。
「そうだな、これから歌うときは、弾き語りにしてくれよ」
「俺が弾くんですか?」
「技術だったら、俺よりうまいからな」
 マスターは、頬をかいた。
「その辺は、俺も勉強したいし……だめか?」
「いいえ。とんでもありません。がんばります」
「よかった」
 次の瞬間、再びノイズが発生する。
 光を見たと思った。まぶしくて。
 マスターの、満面の笑み。
 身体中がうるさい。なのに、不愉快ではなくてカイトは困惑する。原因を探り、ノイズに名前を付けられることを発見した。
嬉しい。
 自分は今『嬉しい』のだと、カイトは実感した。

 褒められると『嬉しい』。
 マスターが喜んでくれても『嬉しい』。
 一緒にいると『楽しい』。
 そして、マスターの期待を叶えられなかったら、『悲しい』。
 彼と暮らすことで生じる様々なノイズに、カイトは名前を付けていった。
 そうするうち、不思議なことが起きたのだ。
「最近、歌がよくなってきたな」
 その日の練習が終わったとき、マスターはにこにこしていた。
「なんて言うか、深みがでた感じ。メカメカしくなくなった」
「そうなんですか?」
 カイト自身には、よくわからない。嬉しい気持ちを表す部分はそれに相応しいように、以前と同じに歌っているだけだ。
「んー、そうだなぁ」
 マスターは言葉を探し、しばし視線を彷徨わせる。
「そうだな……前は、こうすれば嬉しいんだろうから、こう歌うってふうにしてたのが、今は、嬉しいからこうやって歌うって感じになったのかな」
 説明してもらったが、やはり理解はできなかった。
 ただ、彼が喜んでいる様子なのが、何よりカイトには重要だった。

(プロフィールはありません)

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