出会いは、終わりに続くシナリオ
だから、わざと遠回りをした―――


そんなお話。







***



ちっちゃい頃、両親がまだいた頃、
よく話してくれた御伽噺
男の子にそれはどうかと今では思うが、
ちっちゃい頃の俺は御伽噺が大好きだった。
というより、母親に読んでもらう話、全てが好きだった
シンデレラに白雪姫、人魚姫、たくさんあった。
だけど一番印象に残っているのは『赤ずきん』
俺はあのお話がすごく不思議だった

狼と赤ずきんが会ったとき、おおかみは食べなかった。
どうしてか
小さいながら俺はそこの所に引っかかっていた
だって、あの狼だ。
赤ずきんに会ったときにすぐに襲うのではないか。
そう思う。
何故おおかみは
わざわざおばあさんの家に先回りして赤ずきんを待ち伏せていたのか
まず、赤ずきんを食べてから、おばあさんを食べてもよかったのではないか。
そう思っていた。


どうやら、
そのおおかみはよほど頭が悪かったようだ。




そんな御伽噺が好きだった男の子は
今では、この辺では知らない人のほうが少ないくらいの
不良へと進化していた

誰もが恐れるそんな存在
まるでおおかみのように








***



「ほんっとリンは赤ずきんの話が好きよねぇ」
赤ずきんの絵本を学校に持ってきて読んでいたら
親友であるミクちゃんこと初音ミクがあきれた顔をして話しかけてきた
「うん!」
「学校にまで絵本を持ってきて・・・あんたは何歳よ!?」
「いいじゃん!」
「ってか、赤ずきんが好きだなんていう子あまりいないと思うんだけど
普通シンデレラとか白雪姫とかじゃない?」
「えー? そうかな?そんなありきたりな話よりもおもしろいよ!」
「赤ずきんって結構残酷じゃない? おおかみなんて最後死ぬのよ!?
しかも、赤ずきんを食べるってどうよ?」
ミクちゃんは言い放った。
だけど、私はちがうと思うんだ。
たしかに、食べたのには変わりないけれど
「でも、そのおおかみは赤ずきんのことが好きだったんだと思うの」
「好きなのにどうして食べたのよ」
そうミクちゃんは不満そうに言った
「好きだからこそ、だよ」
「どうゆうこと?」
「それは・・・」
私が最後まで言う前にチャイムが鳴ってしまった
ミクちゃんは仕方がないというように自分の席へ戻っていった




おおかみと人間
一生交わることない二人





愛しさに負けて食べちゃった。
















***



これで、5人目。
俺が道を歩いていると必ずは、
襲われる


どうしてか、そんなの考えるのもめんどくなった


理由なんて一つだけ





ずきっと痛んだ頬に手をあてた
その手には血がついていた
あぁ、殴られたときに切れたんだな
ひとごとのようにかんがえていた。

こんなの今にはじまったわけではない
生傷のたえないからだに傷の一つや二つ



そんなことを考えながらぼーーとただただ行くあてもなく
道を歩いていた

その時、女の子の声が近くから聞こえた
「大丈夫ですか?」
声が聞こえたほうへ顔を向けると
二人の女の子がこちらを見ていた

長いツインテールのほうは「ちょっと!?」ともう一人の女の子のほうに言っていた
ボリュームを下げているつもりなんだろうか丸聞こえ

そして、声をかけたほうであろう女の子のほうは
ツインテールを無視して
俺のほうを見ていた
金髪に白い大きなリボンという小柄な女の子。


きょろきょろと周りを見回しても俺だけで、他に声をかけるような相手はいない
ということは必然的に俺に声をかけたということになる
「何が」
声のトーンを低くして、少し睨む形で言い放った
俺にかまうなそんな思いを込めながら

だけど、その女の子は怯むどころか、
こちらに近づき、ポケットからハンカチを取り出し、
俺の頬に押さえつけた


女の子の顔が思ったより近くにあって、
動揺を隠せなくて、俺の頬にあてていた手を振り払って逃げた
逃げ出した。

怖かった


人の目が、人が。



久しぶりにふれた人の手は暖かかった。



『出会い』があれば終わりもある。
それが怖かった

だから、わざと遠回りした。
遠ざけた







***



「迷惑だったかな?」
男の子が逃げていったほうを見ながら呟いた
そのとき、今まで黙り込んでいた・・・というより固まっていた
ミクちゃんが私に飛びついてきた
「リンーーーー!!!!!何で危ないことすんのよ!!」
「あ、危ないこと?」
飛びついてきたはんどうで、倒れそうになった体を懸命に立て直しながら
疑問を投げかけた。
だって、私危ないことなんてした覚えがない。
「そうよ! さっきの人はこの辺で有名な不良なんだから!!!!
何人も病院おくりにしたって話よ!!!!」
「そうなの?」
「そうよ!!!!」
でも、悪い人には見えなかったけどな・・・
「と・に・か・く! さっきのあの人には近づかない。わかった!?」
「わ、わかった・・・」
納得は行かなかったけれど、とりあえずうなずいた。



その後に私はあることに気が付いた
「あれ?」
「どうしたの?」
「・・・ハンカチがない」
私の両手はからっぽだった。
先ほどまで持っていたはずの赤ずきん柄のハンカチが忽然と姿をけした。
「さっきの人が持っていっちゃった」
「えーーーー!?」
・・・よくよく思い出してみれば、
振り払われたときに、驚いてハンカチを離してしまった、
その時に、さっきの人の手に引っかかったような・・・引っかかっていないような・・・
でも、あのハンカチ大事だったしな・・・
「リン。あんたあの人に会いにいってハンカチ返してもらおうなんて思ってないよね?」
「え!?い、いやだなーーー・・・そんなはずないじゃん」
「・・・とにかくダメだからね。リンの両親すごい過保護じゃん。
有名な不良と会ったなんて知られたらどうなるか・・・」
そういいながらミクちゃんは身震いをした






だけど、また会いたい。
そう思っている自分がいた













***



持ってきてしまった・・・・
あの時の自分をこんなに恨んだことはあったか
否、ないだろう。

俺の手に乗っているもの
それは先ほどの女の子のものであろう
赤ずきん柄のハンカチだった
可愛らしい典型的な女の子が持つものだった



初めて優しくしてくれた女の子。
今までは怖がって目もあわせてくれなかった
悲しくはなかったけれど、苦痛だった

だからかもしれない
こんなに頬が熱いのは・・・
なれない感情に戸惑っているのは・・・



「会いたい、なんて・・・」
思わない、思えない
あの小さな手に触れてみたい、手を繋いで一緒に歩きたい
なんて、話してみたい、なんて思わない。
思うはずない。
そう言い聞かせた






女の子の持ち物であるハンカチを見ながら赤ずきんの話を思い浮かべていた。


なぁ、おおかみ。
寂しかっただろう?悲しかっただろう?
誰からも好かれないその気分はどうだった?

お前は嬉しかったんだろう?
死ぬほど嬉しかったんだろう?
話しかけて返してくれた赤いずきんが可愛い女の子が愛しくてたまらなかっただろう?
それと同時に悔しさ、虚しさがお前を包んだんだろう?


御伽噺の中で毎回悪役に回されて、
お姫様と王子様が幸せになるその姿を眺めてどうだった?



何度自分を恨んだ?
どうして、自分がおおかみなんだ。って










俺がおおかみだとしたらあの女の子は赤ずきんだ。
残酷なエンディングがまっていたとしても、
それまで、そのエンディングが来るまでは・・・










***




いつもは二人の帰り道を今日は一人で歩いていた。
ミクちゃんが委員会があるので、その為だ。


話す相手がいないので、
視線を地面に向けたまま黙って歩いていたら、
ふと視線を感じて足を止めて前を見た
ちらりと見える金髪。
昨日の人だ。一目でわかった
だけど、ミクちゃんにかかわるなと注意されたし、
両親に心配をかけるのも嫌だったので、
私が気付かないふりして通りすぎた









***




会えなくたっていい
触れなくたっていい
話せなくたって
それでも構わない


ふれられるほどの距離に君がいる。それだけで







俺はポケットの中から昨日のハンカチを取り出した。
『赤ずきんちゃん』人から人へ話し告がれる御伽噺
そのお話は赤ずきん視点でもおおかみ視点でもなんでもない。
まわりの者が勝手に解釈して書いたそんな物語。

おおかみが死んだとき、赤ずきんはどんな表情をしていた?
笑っていたか?ほっとしていたか?

絶望にみちた顔をしていたのではないか?








『おおかみさんとあかずきんちゃんがしあわせになれますように』
幼い俺の小さな小さな願いごと
どんなに願ってもエンディングは変わらなかったけれど















***




昨日はリンと一緒に帰れなかったけれど
今日は委員会も何もないので一緒に帰ることが出来た
だけどリンが浮かない顔をしていた。
というよろ今にも泣き出しそうな顔をしていた
心配になってリンの顔を覗き込んだ
「リン? どうしたの?」
「何でもないよ?」
そう笑うけれど、
その笑顔は苦しそうに歪むだけ。

わかってしまったんだ。

私のせいで傷つけてるって。



「・・・リン。 泣いてもいいんだよ?」
私にもあの人が悪い人のようには見えなかった
後々、リンが苦しむことになるのなら
今のうちに離してしまおうと思った。

苦痛に歪んだ笑顔はいよいよ崩れ
その大きな瞳からは大粒の涙が溢れた
リンだってわかっていたのだ
叶わないことだって、



その時視界に金髪が揺れた。
それが、あの不良だってことがわかるのには時間はかからなかった

そしてそのまま横を通りすぎるときに
その不良の顔が歪んだのがわかった

伸ばした腕は震えており、
そして、そのまま反対方向へ走り出していった









***



泣いてるきみを慰めたくて、
腕を伸ばした。
だけどその腕は恐怖に震えた。

そしてそのまま俺は逆方向へ走り出した


愛しているよ
あの優しくてかよわくて頼りない女の子を
抱きしめたいよ。





そんなの出来るはずがない







***







会いたかったんだ
触れたかったんだ
話したかった、ほんとは


かわいい君と 優しい僕が
出会い、結ばれる結末








どう足掻いたって
どう願ったって
叶わない。





だから、ただ待ってるよ
同じ時間同じ場所で、
キミが通るのを








――――それはとても残酷で、愛しいハッピーエンド




ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

残酷で、愛しいハッピーエンド【自己解釈】

気が遠くなるほど長い小説。

『おおかみは赤ずきんに恋をした』の自己解釈です。
あくまで自己解釈なので!

私的には学パロのほうがしっくりときた
お嬢様×不良みたいなです。一応。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm18529569
http://www.nicovideo.jp/watch/sm18528895

閲覧数:676

投稿日:2012/11/11 00:28:55

文字数:4,502文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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