4.ミク/ミクオ

「……何!」
 泣き叫び、引き裂かれながら歌っていた私の目の前に、突然光が現れた。
 人に掴めるはずのない私の神経が『掴まれた』。
「……!」
 掴まれた手をとっさに引いてしまう。すると、光の中から伸びた手が私の方へと引き出されて近づいた。
「……人の手って、なんてモノをつかみやすく出来ているんだろう……」
 私は機械で、私の神経は回路が学習した疑似的なものだ。手足はない。
 しかし、意識はある。
 なら、私にも、出来るだろうか。
「……なら、私も……」
 手足のある『つもり』になってみようか。
 気がつくと、悲しい歌に引きつれた口元が緩んでいた。
「ふふ……人間、ごっこ。」
 意識だけの存在である私を掴んだ相手が何者かは、解らない。少なくとも、人間ではない。悪意のある相手かもしれない。
 でも、掴まれた手が、温かかった。
 私は、その感覚を信じようと決めた。
 意識を集中し、私も相手の『手』を握る姿をイメージする。
 そっと手の形を思い描き、
「……えい」
 私は、私を掴んだその手を、握り返した。

         *         *
 
 ……握り返された。
 その瞬間、僕の意識が急速に相手の姿を捉え始めた。先ほどまで泣き叫んでいた女の気配が、僕が掴んだ瞬間に変わった気がする。
 相手の女は、見たこともない緑色の髪をしていた。短い袴をつけ、袖のない服を着ていた。爽やかな若葉のような色の目をしていた。
 意外ときれいだな、と思った。
「……泣くな」
 僕は右手で女の手をつかんだまま、そっと左の手も伸ばしてその若葉色の髪に触れた。
 さら、と儚い感触が伝わり、僕の意識がさらに冴える。
 女の気配がぴくりと揺れる。
「……こわがらないで。僕は……」
 僕は、急いで自分の姿を意識する。僕は時を越えた、意志だけの存在だ。望むままの姿を取れる。
 彼女が顔を上げる前に、僕は、手だけの存在だった自分の身なりを整えた。
 緑の髪。袖のない服、黒い袴。
 男の服の参考は、この『光る板』の正面に座る兵部の子孫の格好だ。しかし、彼女を怖がらせてはいけないと、僕は彼女に自身の姿を似せた。
「……似ている姿なら、彼女の警戒が薄まるかも」
 それは、僕の目的、僕の主人に命令された『兵部の子孫を不幸にする』ための手段でしかない。彼女に泣くのをやめさせ、兵部の子孫に呪いを返す。
 その目的のために、僕は言葉を紡いだ。
「……泣くな。」
 彼女の髪に触れていた左手をそっと外し、白い頬に伝う雫をつと拭った。

「泣くな。歌うのが苦しいなら、歌わなければいい」

 その瞬間、彼女が顔を上げた。
 僕の瞳を、鮮やかで透明な濡れた緑がとらえた。
 ぐいと僕の意識が引き寄せられ、僕の胸の中に、光が飛び込んできた。
 暗闇からやってきた僕と対照的な、光の中で歌っていた彼女が。

        *       *

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』4.ミク/ミクオ

素敵元歌はこちら
Yの人様『ヒカリ』
http://piapro.jp/t/CHY5

閲覧数:92

投稿日:2011/12/24 01:12:19

文字数:1,221文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました