「ユフお姉さん、またいつでも来て下さいね!」
「ユフちゃん、頑張ってね。私、これからもずっと応援してるから!」
「またいつでも来てね。今度はユフちゃんの大好きな、白雪プリン作りましょ!」
「ユフ、お前のことだから、仕事も何でも我慢して心の中に溜め込んでしまうだろう。疲れた時はいつでも帰ってこい。ここはお前の家で、俺たちはお前の家族だ」
「みんな、本当にありがとう…!」
ユフは、夕暮れ時に帰らなければならなかった。久しぶりの再会だというのに、過ごしたのがたったの数時間というのは、あまりにもわずかな時間だった。だが彼女は、刑事としての自分の職務を、使命を果たすために、再びMARTを陰で見守ることにした。
一番別れが辛かったのは、レンだろう。彼にとってユフの存在は、今はいない自分の実姉のミクと重なってしまっていたからだ。リンも本当の姉のように感じていたほどだ。明日にでも、もう一度会えたら、なんて。次はいつになったら出会えるのかが楽しみで、そして少し寂しさを感じたレンだった。
「さてと、ゆっくり風呂でも入るかな…」
午後8時。自由時間になったMARTのメンバーたちは、就寝までそれぞれの行動に移っていた。カイトは今日1日に起こった数々の「出会い」に疲れていた。良い意味でも悪い意味でも。
メイコはMARTの報告書を一通のメールにまとめていた。宛先は国連のニューヨーク本部。文章の中には波音リツとの件についても書かれているようだ。モモはメイコの必殺・失敗料理改善3分クッキングが終わり、編み物をしていた。どうやら、メイコのために赤色の手袋を作っているようだ。でも形が酷い。
レンはリンと音楽室で、楽器を使って演奏していた。得意のギターいじり。ルナはその隣でトランペットの油差しをしていた。2週間以上、手をつけていなかったからか、ピストンの動きがガチガチになっている。
「よし、こんなものかしら。さて、MARTの計画表をまとめないと…」
「ルナさん、ルナさん!」
「あら、レン君どうしましたの?」
「もしよかったら、一緒にワールドイズマインを演奏しませんか? ルナさんが、ボーカルで!」
「リン、ルナさんの歌うところを見てみたいなぁ…」
「ワールドイズマイン…確かに私の好きな曲ですけれども、これからそろそろ仕事に取りかからないと。また明日にでもしましょう」
「ダメですか…?」
「ダメなのかなぁ…」
「ねぇルナさん…」
(…うっ!眩しいっ!)
年下は好みではないルナだが、この4つの目から浴びせられる「ダブルフラッシュ」には敵わなかった。思わず目を遮ってしまう。
「ルナさん、ルナさん…」
「あぁ! 分かりましたわ、分かりましたわ! じゃあ1回だけですわよ?」
「やったー!」
(うぅ…まんまと乗せられてしまいましたわ…)
上手く2人に乗せられてしまったルナだが、少しの気晴らしにはなるだろうと思い、歌うことにした。
「それじゃあ、いきますよ!」
「ギターはあって、キーボードは…あれ、リンちゃんは、キーボードが弾けるんですの?」
「えへ、ちょっとだけですけどね…」
「よし、ルナさんお願いします!」
「歌うのなんてしばらくぶりですから、下手でも知りませんわよ?」
「ルナさんだから、少しぐらい歌ってなくても大丈夫ですって!」
「そうであることを願いたいですわ」
そうやって会話していると、部屋にカイトとモモがやってきた。これからルナたちが演奏するのに演奏者が足りないのを察してきたようだ。
「お、みんな何だか楽しそうな感じだな。もしドラムが必要なら、俺がやるぞ?」
「私も、ぜひ!」
「本当ですか! お願いします!」
「久しぶりだから、腕が鳴るな」
「えっ! ルナさんがボーカルですか?」
「何か不満でもありまして、モモ?」
「い、いやそんなことは…!」
ルナはマイクのスイッチを入れた。それぞれの視線が、ステージ中央の歌姫に集まる。ドラムのシンバル、そしてモモのピアノ伴奏から始まり、同時にルナの落ち着いたソプラノ声が響き渡った。そしてレンのギター、モモのピアノが間奏を奏でる。ルナは自分のお嬢様気質の性格を、すべて晒け出すように歌いあげた。ルナらしさの出る歌詞が、何だかまるで、この金髪のお嬢様が世界の中心にいるように感じた。
「はぁ…5分も歌うのは少々大変なものですわね」
「ナイスだったぞ、ルナ」
「やっぱりボーカルは、メイコさんにまかせるべきですわ」
「ルナにも、十分にボーカルの才能があると思うぞ」
「そんなことはありませんわ…でも久しぶりに歌わせていただいて、とても楽しかったですわ!」
「また次もやりましょうよ!」
「ええ」
午後9時前。全員がお風呂に入り終わろうとしていたころ、レンは居間でテレビを見ていた。この時間帯に放送されている「ボカロステーション」という番組だ。司会者は、業界で非常に有名な森音ヤモリ。どこかの司会者の似ているのは、気のせいか。
「皆さん、今晩は! さて今夜もやってきました、ボーカロイド・ミュージックの祭典、ボカロステーション!」
「始まった、始まった!」
「あ、ボカロステーション観てるんだね!」
「さあ、まず最初の曲を歌ってくれるのは、現在4週連続オリコンチャート1位を記録している、我らがボーカロイド界のスーパーアイドル、GUMIさんです! どうぞ~!」
グミが綺麗なイルミネーションと共に舞台奥から表れた。曲名は「エメラルド・スター」と表示されている。グミがクールに前奏を歌い上げると、たちまちスタジオ会場は一気にヒートアップした。テレビの向こう側の2人にも、その熱狂ぶりがよく伝わってきた。
「やっぱりGUMIさんってカッコイイね!」
「おっ、グミが出てるじゃないか! 4週連続オリコンチャート1位か…あいつ、いつの間にそんな」
「本当にグミさんすごいですよね! またもう一度会いたいなぁ…」
「おっと、その発言は止めておけ。でないと、近いうちにGUMIがやってきて¨今からここにお邪魔しま~す! よろしくね☆¨みたいな展開になるかもしれないからな」
「何ですかそれ」
そうカイトが発言した時だった。MARTの部屋全体に、来客を知らせるインターホンが響き渡った。まさかな…とカイトは薄々感じつつ、玄関に急ぎ足で向かった。
「誰だ、こんな時間に…?」
「今晩は~! グミで~す!」
(マ、マジでやってきたー!!)
「まさか本当にグミが来るなんて…今日はまったくどうなってるんだ?」
「…ホントにGUMIさん!? ホントにあの、アイドルスターのGUMIさんなんですか!?」
「ああ、今まさしく玄関に立ってるのは、正真正銘のGUMIだよ」
「信じられない! カイトさん、早く入って貰いましょうよ!」
そのまさかが、現実のものになるとは。カイトは驚きを隠せないでいたが、ここで自身の頭の中で疑いの種が芽生えた。
「…いや待て、よりによって、こんな狙ったタイミングにGUMIがやってくるか? おい、お前グミじゃないな?」
「やだぁ~! カイト兄さん、私のこと忘れたんですか?」
「兄さんって言うな」
「うぅ、さみぃ…!」
「カイトさん、早くしないとグミさんが風邪引いちゃいますよ…!」
「いや、まだ信じないぞ! そうだ、オリコンチャート1位になっているGUMIの新曲¨エメラルド・スター¨を今ここで歌ってみろ!」
「…え!? こんな夜中の路地で、新曲歌えってことですか!?」
「そうだ! さあ、歌ってみろ!」
「カイトさん、まだ警戒してるんですか…?」
「…当たり前だ。それに、今日は波音リツに襲撃されたところだぞ。用心しない方が、無理な話だ」
「それは確かに…」
「それじゃあ、私がGUMIであることの証に聞いて下さい! エメラルド・スター!」
マイクもステージもないが、高らかに歌い上げるその歌唱力と雰囲気は偽物とは言い難いものであった。それを聴いていたリンは、このGUMIを本物だと確信していたが、カイトはまだ考えを変えないでいる。
「うわぁ! やっぱりGUMIさん本人ですよ!」
「まだだ…サビに入るまで分からないぞ」
肌寒い寒風が路地を吹き抜ける中、GUMIの新曲が辺りによく響き渡った。しかし女性1人が玄関の前で、アイドルの新曲を歌い上げているのは、また何とも異様な光景だった。するとしばらくして、路地の入り口に人だかりが出来始めた。どうやら、アイドルスターのGUMIだとバレたようだ。
「おい、あれ見てみろよ!」
「えっ! もしかしてあのアイドルスターのGUMI?」
「本物だ!」
「カイトさん! 路地に人が集まり始めてますよ!」
「やっぱり、本物のGUMIなのか…?」
「カ…カイト兄さ~ん! 中に入れて下さ~い!」
「仕方ない…入れ!」
グミはやっと、MARTの中に入れてもらえた。黄色のコートを羽織っていたが、正に先ほどまでボカロステーションで歌っていた、赤いサングラスに緑色の髪色が特徴の、グミ本人だった。
「やっぱり、グミさんでしたか!」
「今晩は~!」
「本物のGUMIさんだ~!私ファンなんです!!」
「びっくりしたわ、ここにも私のファンがいてくれて…っていうか、初めて見る子ね」
「それにしても、本当に急にやってきたな」
「ごめんなさい、夜中に押しかけちゃって…」
「いや、それはいいんだが」
「あ…あぁ~!!」
「どうしたんだ?」
「財布と携帯…どっかに落としてきちゃったかも…?」
「はぁ、このドジが…」
なぜ落としたのか、よく分からないグミの携帯と財布は、すぐ通行人に拾われて交番に届けられることになった。そして時すでに遅し、後でグミが拾いに戻った時には、とうに無かったのである。
コメント3
関連動画0
オススメ作品
ミ「ふわぁぁ(あくび)。グミちゃ〜ん、おはよぉ……。あれ?グミちゃん?おーいグミちゃん?どこ行ったん……ん?置き手紙?と家の鍵?」
ミクちゃんへ
用事があるから先にミクちゃんの家に行ってます。朝ごはんもこっちで用意してるから、起きたらこっちにきてね。
GUMIより
ミ「用事?ってなんだろ。起こしてく...記憶の歌姫のページ(16歳×16th当日)
漆黒の王子
A1
幼馴染みの彼女が最近綺麗になってきたから
恋してるのと聞いたら
恥ずかしそうに笑いながら
うんと答えた
その時
胸がズキンと痛んだ
心では聞きたくないと思いながらも
どんな人なのと聞いていた
その人は僕とは真反対のタイプだった...幼なじみ
けんはる
それは、月の綺麗な夜。
深い森の奥。
それは、暗闇に包まれている。
その森は、道が入り組んでいる。
道に迷いやすいのだ。
その森に入った者は、どういうことか帰ってくることはない。
その理由は、さだかではない。
その森の奥に、ある村の娘が迷い込んだ。
「どうすれば、いいんだろう」
その娘の手には、色あ...Bad ∞ End ∞ Night 1【自己解釈】
ゆるりー
私は、幻を、見た。いつだったか、覚えて、ないが、確かに、そこには、見たことも、ない顔が、うつっていたのだ。幽霊だろうか?怖いな‼何十年経っても、 一向に、姿を、現さなかった。私は今でも、あの幻を、信じている。
幻
アカリ
彼女たちは物語を作る。その【エンドロール】が褪せるまで、永遠に。
暗闇に響くカーテンコール。
やむことのない、観客達の喝采。
それらの音を、もっともっと響かせてほしいと願う。それこそ、永遠に。
しかし、それは永久に続くことはなく、開演ブザーが鳴り響く。
幕が上がると同時に、観客達の【目】は彼女たちに...Crazy ∞ nighT【自己解釈】
ゆるりー
最後に泣くのは嗤った者
最後に笑うのは泣かされた者
最後に見る走馬灯はどんな景色なんだ?
誰だって後悔の無い終わりがいいが
俺はきっと
後悔を抱いて消えるのだろう
何をやっても満たされない
他人と比べて妬む事しかできない自分が嫌い
ふとした瞬間自分が分からなくなる
消えたいという気持ちが頭の中で反芻...No Signal…
Kurosawa Satsuki
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想
まんじゅう
ご意見・ご感想
ワールドイズマインはメイコもいいですよねぇー
でもルナのお嬢様バージョンも可愛い!!
GUMIのハイテンション差がテイと同じでおもしろかったです!!
まさかの『今晩は~!グミで~す!キラッ☆』は吹きましたww
2011/06/19 13:43:16
オレアリア
まんじゅうさんお久しぶりです!メッセージありがとうございます!
めーさんのワールドイズマインもグッドでしたよ!調声師様、流石…!
ボカロPデビューしたらルナさんの曲も作ってみたいと思います。
あ、GUMIとテイのテンションが何気に似てるww
この2人、もしやまさかの気の合いそうな組合せ…?
キラッ☆と言えば某ロボットアニメヒロインとGUMIの中の人が同じで…おや、誰かが来たようで…?
2011/06/19 18:12:45
ミル
ご意見・ご感想
隊長、今日は!
おお!ルナ様バージョンのワールドイズマイン!ちなみにこの歌詞はオリジナルですか?
カイト兄さん、色々あったとはいえグミを疑って寒い中なのに玄関先で歌わせるとは…
でもケータイと財布を忘れちゃうドジなところのあるグミが可愛いですww
次もグミさん回ですよね!期待してますよ~!
2011/06/18 12:49:00
オレアリア
ミル隊長、今晩は!
ルナ様のワールドイズマインはオリジナルの歌詞ですよ!最もびんさんの返信に書いた通り作詞には10分クオリティで(ry
GUMIのドジな所はチャームポイント(?)という訳でw
さて…次回はGUMIをどういじりましょうか←
第8話の更新頑張ります!
2011/06/19 18:05:58
瓶底眼鏡
ご意見・ご感想
GUMIキターーーーーーーーーーーーーーーー!!
そしてルナ様のワールドイズマイン!!!!
しかしそれ以上に気になりすぎるのが、森音ヤモリ……奴は何者!?←
2011/06/17 08:26:30
オレアリア
びんさんメッセージありがとうございます!
遂にGUMIが登場しました!でも少し出てくるのが早かったかなぁ…?
ルナが歌っているワールドイズマインはYouTubeにうpされている方がいるので良かったら見てみて下さい!
歌詞はオリジナルで10分クオリティと言う手抜き(ry
森音ヤモリ、イラストを描いて下さる絵師様を募集中です!←
2011/06/19 17:51:15