!!!Attention!!!
この度、ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、コラボ(二人)で書くことになりました。
自分が書く「青犬編」とつんばるさんの書く「紅猫編」に分かれております。
原作者様には全く関係なく、そして勝手な解釈もいいところで、捏造だろうと思われる部分もあると思います。
そういった解釈が苦手な方はブラウザバック推奨。
なお、カイメイ要素を含みますので、その点にもご注意ください。

大丈夫だよ!寧ろバッチ来い!の方はスクロールで本編へどうぞ。








【独自解釈】 野良犬疾走日和 【青犬編#18】





 まるで俺の頭の中をかき乱すかのように雨が降り始めたのは、るかさんの家にたどり着く少し前。最初はそれほど本降りではなく、歩いて帰れそうだったのだが・・・結局本格的に降り出した雨に逆らうことはできず、臨時休業中のお店の屋根の下に入って雨宿りすることになった。
 るかさんは少し濡れてしまった髪を撫でながら、静かに一息ついて空を見上げている。どこか感傷的な表情に見えるのは気のせいだろうか。それとも・・・俺がそういう表情をしていてほしいとどこかで思っているから、そう見えてしまうのだろうか。
 心の中のざわめきよりも随分と大きな音が、屋根や地面を叩く。雑音のように響くその音を聴きながら、俺もるかさんのように空を見上げた。
「すっかり濡れ鼠ですわね」
 隣にいるるかさんがぽつりと呟いたのを合図に視線を向けたが、るかさんは尚も空を見つめたままで表情も変わってはいなかった。その声は俺に語りかけた言葉のようにも聞こえたが、もしかすると独り言だったのだろうかと思うほど自然すぎる小さな呟き。
 るかさんが次の言葉を口にする気配がなかったため、視線を逸らした。
 視界には、雨の中、二人の子どもが手を繋いで泥を跳ね上げて騒いでいる様子が映っている。
 昔は俺もめいこと一緒に、ああして手を繋いで遊んでいたのに・・・もう、二度と叶わないのだろう。そう思うと、体の奥底が疼いた。
 隣でるかさんがため息をつくのがわかる。るかさんのその表情を確かめようとは思えず、かといって遊んでいる子どもたちを見ているのも辛くなって足元に目をやると、しぐれが俺の方を見つめてキュウ、と可愛い声で鳴いた。
「――少し、お話してもよろしいかしら?」
 雨も降っていることですし、時間を有意義に使いましょう。るかさんはそんなことを言いながら、俺ににこりと微笑みかけた。
 俺が躊躇いがちにどうぞと言うよりも先にしぐれが一声鳴くと、るかさんは前方を見つめて目を静かに閉じる。息を吸い込むように口を開くと、るかさんはその目を開いて真っ直ぐ前を見据えた。
「わたくしの友人に、元遊女がいますの。今からするのは・・・彼女のお話ですわ」
 穏やかなその声は、雨に濡らされたように艶やかな声。不思議なほど、るかさんの声は俺の体にすとんと落ち、何かに沁みた。
「彼女はある時一人の少年に出会いましたの。とても裕福な家の子で、彼女とは随分違う世界の少年」
「――それ、」
「えぇ、似ていますわね」
 あなたたちと、とるかさんは付け足して長めの瞬きを一つ。
 俺とめいこの立場が逆になっただけのような二人の話に、俺は息を呑んだ。
「けれど、似ているのはそれだけではありませんわ」
 静かに呟くるかさんの横顔は、見惚れるほどに綺麗に見えた。儚く、けれど強い・・・まるで誰もが憧れる女性らしい女性がそこにいるような感覚に、思わずぞっとする。
「二人はほとんど会うことが許されなかった・・・けれど、その代わりに文でやりとりをしていましたわ。そうしていつしか、何もなかった二人の間に恋が生まれましたの」
 ドクン、と心臓が高鳴った。
 それじゃあまるで、本当に俺とめいこじゃないか。
 昔から口約束ばかりしていた俺たちは、その気持ちが本当の好きにいつ変わったかすらわからなかった。るかさんの話の彼女と彼もそうだったのではないだろうか。そして、恋という言葉を聞いて、人からその意味を聞いて、実際に見て・・・自分の中にいつの間にかあったものが恋だと知った。
「彼女は報われない恋をしてしまったと嘆いていましたわ。彼に悪いことをしてしまった、と」
「でも・・・っ」
 思わず口から言葉が出て、るかさんは驚いた表情を俺に向けた。しまったと思いながらも今更飛び出た言葉をなかったことはできずに、残りの言葉を吐き出す。
「俺、その男の人は幸せだったと思います・・・」
 俺がそう言い終えると、るかさんは優しく微笑んだ後で前方に視線を戻し、消えそうなほど小さな声で「そうかもしれませんわね」と言った。
 俺たちと同じように、二人の気持ちがどこかで繋がっていたのだとしたら・・・きっと報われないと知っていても幸せだったはずだ。一緒に過ごせなくても、手紙を読むたびに幸せになれたはずだ。俺がそうだったように。
 雨が全ての音を一掃する。俺の考えもるかさんの呟きも完全にかき消した頃、るかさんはまた口を開いた。
「二人が大人になるほどの月日が流れたある日、男性が彼女にこう言ったそうです」
 何故か俺は、その男性が言った言葉を勝手に想像していた。いや・・・それは、俺の中にある言葉だった・・・そう・・・めいこに言うはずだった言葉。
 るかさんをじっと見つめていると、桜色の髪が揺らいでその濃い空色の双眸が俺を見据えた。
「『逃げよう。私が君の手を取ってそこから連れ出すから・・・二人で自由になろう』と」
 すうっと逃げるようにるかさんの視線がまた前方へ戻される。
 やはり、俺とその男性は同じだ。俺は・・・言うことも叶わなかったが。
 るかさんの話の内容など何も知らない子どもが、視界の中を走り去っていった。
 俺は詳しいことを知らないが、遊女というのはとてもお金がかかるものだと聞く。だが、彼が裕福だとるかさんが言ったということは、もしかすると可能だったのではないだろうか・・・お金で連れ出すことも。
 そんな考えを押し込めて、俺はるかさんの横顔を真剣な目で見つめた。
「彼女は・・・何と・・・?」
 俺の真剣な目をちらっと確認して、また前を向きなおしたるかさんは静かに目を閉じる。まるで雨音でも聴くかのような、長い沈黙。俺を焦らすように黙ったその後で、るかさんはようやく目を開いた。
「『あなたとは行けません・・・もう全て遅すぎました』と言って、彼女は差し出された男の手を取りませんでしたわ」
 彼女は他の男に身請けされてしまいましたの、と淡々とした口調でるかさんが言う。
 きっと・・・彼女と彼は俺たちよりももっと厳しい世界にいて、俺たち以上に自由な恋をできなかったに違いない。裕福な家の子だったならば、遊女と仲良くなんてことは許されなかっただろう。めいこが俺と仲良くすることを禁じられていたように。そして彼女の方も、遊女ならば自分がいる店の指示には逆らえないだろう。
 知らず知らずのうちに、目頭が熱くなるのを感じた。
「男性は真実を認めずに彼女の手を引きましたが・・・彼女は男性を突き放したのです。結局二人は、そのまま結ばれることはありませんでしたわ」
 忘れたはずだった、体を引き裂かれるような痛みが蘇る。
 彼女は好きな相手がいたのにも関わらず、男性の手を取ることを許されなかった。遊女は遊女としての道を進むしかないのだとどこかで諦めてしまったのだろうか。もしそうだったとして・・・男性の方は、それで諦められたのだろうか。連れ出したいと決意するまで想っていたのに、諦めてしまえたのだろうか。
 めいこは、俺は――どうなんだろう。俺たちは、どうなっていくんだろう。もしも、その二人のようになってしまったら・・・そう考えると、更に目頭が熱くなってきて視界が歪み、たまらず顔を俯かせた。
「・・・俺は、そんな風に・・・なりたくない、です・・・」
 雨音にかき消されるほど小さな声だったが、るかさんは聞き取っていたらしく、「そうでしょうね」と俺の声と同じように小さな声で返事をくれる。
 俺は今、泣きそうな顔をしているんだろう。そう思うと、まだ顔が上げられない。しぐれが心配そうな声で鳴くが、それにも視線を向けられなかった。
「でも、めいこは・・・俺じゃない人を好きだと言って、幸せになると言って・・・だから、まだ彼女が俺を待っていてくれるなんてことは・・・っ」
 るかさんは少し間を空けて、小さく笑う。きっと口元に手を当ててあの上品な笑みを浮かべているのだろう。
「彼女は私にこう言っていましたわ。『あの時彼の手を取っていたなら、今も二人共に歩めたのに』と。もしかすると、めいこもそう思っているかもしれない、とは思いませんか?」
 その声に、俺は勢いよく顔を上げた。突然動いたことで、右の目に溜まっていた涙が一筋流れ落ちる。視界に映っているるかさんは、やわらかに微笑んでいた。
 もしも、あの時のめいこの無理やり作った笑顔が俺に同情していたから、という理由ではないのなら・・・心の中で俺と離れたくないと思っていてくれたということなのではないだろうか。本当は、俺に引き止めてほしかったんじゃないだろうか。
 ――だとしたら俺は、何て愚かなのか。
「俺、馬鹿ですね・・・」
「理解しているだけ良い方ですわ」
 否定せずにそんな風に言うるかさんに、俺は涙を拭って笑う。
 今度こそ完全に吹っ切れた。
「すみません、俺・・・自分の気持ち、ぶつけてきます」
 今度は彼女の気持ちにもちゃんと向き合って、それでも拒絶されたら・・・仕方ないと諦められるだろう。こんな中途半端な気持ちを抱えたままよりは随分良い。
 しぐれを見下ろすと、やっと元気になった俺の顔を見て、嬉しそうに一声鳴いた。
 雨が尚も降り続ける。だが、根拠も何もないにも関わらず、もうすぐ晴れそうな気がしていた。
 俺はるかさんに頭を下げて「行ってきます」と口にし、走り出す。
「頑張ってください、濡れ鼠さん」
 後ろから、るかさんがおどけた調子で言った。それが俺の背中を押してくれたようで、雨に打たれて重くなるはずの体が軽くなる。

 今、揺るぎない想い一つ持って、俺はもう一度君に会いに行くよ。




ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【独自解釈】 野良犬疾走日和 【青犬編#18】

そんなわけで、とてつもなく展開早いこの辺り・・・。
るかさん物語を話すの巻。
うーむ、もうちょっとで終わりだよ!と言いたいところなのですが、予想以上に続いてる上に先が見えてないので自分はまだまだかなぁという感覚です。
前が見えないのは怖い。まぁ、いつものことですが。

さてさて、紅猫編ではめーちゃんがいろいろ思い出してるようなので是非!

+++

「紅猫編」を書いているコラボ主犯
つんばるさんのページはこちら → http://piapro.jp/thmbal

閲覧数:476

投稿日:2009/10/22 12:27:05

文字数:4,226文字

カテゴリ:小説

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