【青い草】 第六話 「シンデレラの決断」前編


もともとは裏表も無い活発な女の子だったミク。

膝にはいつも絆創膏。
男の子に混ざって野球をしたり近所の水路を冒険したり。
日が暮れるまで泥んこになって遊んでた元気な小学生。


学校で毎年恒例の演劇発表会で、ミクのクラスはシンデレラを
やる事になり、ボロ服を着たシンデレラが似合うということで
クラスのみんなに冷やかされ、ミクが選ばれた。

そして発表会当日、みんな驚いた。
クラスのみんな、先生たち、観客、一番驚いたのは
ミク自身だったかもしれない。

シンデレラ後半、舞踏会のシーン。
ドレスを着たミクの、本物のお姫さまのような姿に
みんな言葉を失った。

肩の袖の膨らんだドレス。
頭に載せた華奢なティアラ。
小さく揺れるツインテール。

学校中がミクに夢中になった瞬間であった。

それからというもの―――
いつも遊んでた男子はミクに話しかけられる度に
顔を赤くして
クラスの女子からは休み時間のたびに流行のアイドルや
おしゃれの会話につき合わされ
先生たちからも何故か扱いが丁寧になった。

チヤホヤされるのも最初は戸惑ったが
甘い言葉は、甘いお菓子よりも美味しいと
この頃からミクは、思うようになってきた。

ボカロ学園に入学した時、物凄い美少女が入学した
という噂は瞬く間に広まると、休み時間のたびに
教室には男子が遡上する鮭のように群がり
下駄箱や机にはいつも教科書より厚い量のラブレターの
束が置いてあった。

一年生にして既に学園のクィーンとなったミク。

この頃にはすっかり、自分が一番の人気者では
無くてはならないと気がすまなくなっていた。

メイコが新しく生徒会長に着任した頃
ミクとは別の方向で目立っていた彼女に対し
最初は多少の敵対心があったが、お互いが
利用しあう事が得策だと分かり、メイコとは
上手い付き合いをしていたのである。


いつの間にか、ゲームのハイスコアを狙うかのごとく
『人気取り』に躍起になっていたミクは
ついに、生徒会長の候補になり、このゲームも
ピークを迎えるなと、彼女は思っていたし
むしろ、次のステージへ向かう足がかりになるだろう
とも考えていた。

その気満々だったのだが―――




校内の掲示板の前で生徒たちがザワついていた。

掲示板の張り紙を見て生徒たちが騒いでいるのだ。

【 生徒会生徒会長候補 2年生ミク 推薦人 1年生リン】
【 生徒会生徒会長候補 2年生グミ 推薦人 1年生レン】

『グミってだれ?』
『ほら、新聞部の地味なコよ』
『え~、誰?』

ミクは物陰に隠れ、この噂話に耳を立てていた。
自分と真っ向勝負する生徒がいたのも驚いたが
この地味な無名の候補者が、私の隣に名前を書いてるだけで
学校中の噂になってるのが歯がゆくてしょうがなかった。

(ちくしょ~!!、なんでこうなっちゃうのよ!!)
ミクは歯軋りしながら事の顛末を振り返った。


話は―――、数日前に戻る。


現、生徒会室でメイコとガクポはテーブルに置いていた書類を
整理しながら生徒会について話し合っていた。

「メイコ殿、例の法案、穏便に進めたで御座る」

「流石ね、がくぽ君、いつも助かるわ。
――そうね、本来なら貴方が次期生徒会長に……」

「拙者は影の存在。見分不相応で御座る」

「まあ……、そう言うのなら仕方ないね」

がくぽ君は、生徒会書記長である。
実はメイコの活躍の裏には、がくぽ君の隠密行動が
かなり関わっているのである。

情報集めや、裏工作など、メイコの政策に
無くてはならない人物で、今回も
『生徒会の部活化』も、がくぽ君の暗躍が
あってこそ可決したのである。

「反対派は”例の物”で誘惑出来ましたで御座る。
出どころもメイコ殿からとは、バレてはおりませぬ」

「……っふふっふ、でかしたわ、がくぽ君」

「まさか、文化祭クライマックスイベント
”ミクさんと優先的にフォークダンスが当たる配置の権利”を
餌にするとは…流石でござる」

「ちょっと、ローテーションを変えるだけ…でね」

法案とは、生徒会を部活動として運営する件である。
メイコのゴリ押しで『科学部+生徒会』を合併するという
けっこう無茶な法案だったのだが、このいきさつの通り
反対派を買収し、うまく丸め込んだのだ。


「……メイコ殿、ひとつお聞きしたいことが」

「なによ?」

「なぜ、科学部を選んだでござるか?」

「……別に、なんか扱いやすそうだし」

「……カイト殿を?ですか」

「な、なによ?」

「いえ、何でも……」

「あ、いけない! その科学部と打ち合わせに行かないと!」

「分かり申した。跡形付けは拙者が」

「わお!お願いね☆」

「わお?」ガクポは聞き返した。

「あはは、最近、一緒にいるコの口癖でさ~~、なんか、うつっちゃた」

そそくさと、生徒会室を出るメイコを見送ると
がくぽ君は書類を本棚に片つけはじめた。
本棚に書類を入れながら嬉しそうに科学部に
向かうメイコの様子を思いかえした がくぽ君。

「拙者は、影の身。所詮叶わぬ想い故……」

壁に飾られている生徒会一同の記念写真。
にっこり笑顔のメイコと少し離れた場所に写る自分を眺めながら
がくぽ君はメイコの名前を声に鳴らない声でひとつ呟いた。


・・・・・・・・・・・◆


「わん!わん!わわわお~~!」

「おお!いいぞ!その調子だレン君!」

校外敷地の自転車置き場にカイトとレンはいた。

何やら怪しい機械を荷台に載せた自転車を
スタンド台にのせてレンが必死にペダルを漕いでいる。

「うん!見込みどおりだ!君の体力は凄いぞ」

「わぉ~~~~~ん!」

自転車の荷台の装置から、からモウモウと煙が出てきた。

「おっと!ストップだレン君」

キキっとブレーキレバーを握るレン。

「ぷは~~~だわん」

「あはは、ご苦労様!あとでアイスキャンディソーダー茶を
オゴってあげよう」

「はぁはぁ……、いや、あれ、クソ不味いわん」

「あはは!またまた!冗談を。あんなに旨いの無いよ!」

カイトは自転車を点検しながら笑っていた。


そんな様子を少し遠いところから見ていたメイコは
ちょっとほっとしていた。

顔には出していなかったが、少し前までのカイトは
科学部の部員に逃げられ、挙句、科学部解散まで
言い渡されて落ち込んでいたのだが、レンとメイコが
入部してくれて部は存続する事になった。
『科学生徒会』というややこしい
名前になってしまったが、カイトにとってはそんな事
どうだって良くて「実験が出来る」「仲間がいる」
それだけで満足なのだ。

「あんたたち!あんまり変なことしないでよ!」

「は~~~い、だわん」

「あはは、立派な時間旅行の科学考証だ」

「はぁ~~もっとねえ、あるじゃない科学部っぽいの
カエルとかの解剖とかさ~」

「ええ!!」カイトとレンは声を合わせて叫んだ。

「ん~もう、甲斐性ないわね!
いいわ、私が今度やってみるわ!」

メイコは空でメスを振るう素振を見せた。

「ダメダメ!カエル解剖反対」

「メイコさん、ガチで怖いわん…」

カイトとレンはお互い抱き合ってメイコを恐れの目で見た。

「…ちょっとマジ引き、しないでよ…」

ここ数日、こんな感じなのだ。
メイコ・カイト・レンの三人組は
何かにつけて集まって、変な実験をしたり
メイコに怒られたり、生徒会についてカイトに
相談したりして休み時間や放課後をすごしていた。

昼休みは屋上で一人、弁当を広げてるレンを思いやって
カイトとメイコは何気なくやってきて、たわいもない
会話をしているのであった。

「しかし、ミクさんよく、納得してくれたね」
カイトがメイコに言った。

「うん、事情を素直に言ったら納得してくれた」

一度は生徒会候補にと持ち上げて置きながら
他に立候補する生徒がいたために取り下げたいと
メイコは正直にミクに言い、頭を下げた。

ミク曰く――

『いいのよ、メイコさん!積極的に生徒会長を
してみたい人がいるのなら、その人のほうがふさわしい
って私、思います☆。私なんて、おっちょこちょいだし
失敗いっぱいしそうだし……。気にしないで☆』


メイコは貸しを作ってしまったなと。

ミクもミクで貸しを作ったぞ!と腹で考えていた。

今回はメイコの計算ミスもあったが
思いのほか生徒会長に立候補するグミが
かなり仕事が出来る子だと、ここ数日の会話から察する事ができた。

今後の生徒会の方針やメイコの考えに賛同する辺りは
むしろ癖の無いグミの方がミクより扱いやすいし
学園のためになると思い始めてきた。

「まあ、この事は一件落着ね。それより―――」

メイコとカイトは自転車を片つけていた
レンの後姿を見ながら呟いた。

「あのコ、まだ仲直りしてないの?」

「ああ、なんか、あの日以来
口も利いてくれないらしいよ。悪い事、しちゃったな俺…」

「私にも、責任は……、あるよ」

いつも子犬の兄弟のように仲の良かったレンとリンは
科学部に入部したせいで、その日以来、会話が無いのだ。

二人はレンの事が気にいり始めていた。

素直で裏表無く、明るい笑顔で一生懸命なレン。
ほんとに子犬のように二人になつきはじめた。

「捨て犬に……、するわけにはいかないな」

「もとの飼い主に返さなきゃね」

カイトはメイコの言葉をきいて小さく頷いた。

「―――さて、ソーダー茶、飲みにいくか!」
場の空気を変えようとカイトは笑顔で提案した。

「え~なにソレ?罰ゲーム?」

「はぁ?ご褒美に決まってるだろ!」

ソーダー茶と聞いてレンがビクンとした。
ここ最近、ソーダー茶を飲まされ続けてるらしい。

メイコはケラケラと笑って二人を見ていた。

30分後、自分もアイスキャンディソーダー茶を
ご機嫌な笑顔のカイトの驕りで
飲まされる事なんて、今はまだ知る由も無い
彼女だった。


―後編へつづく―











ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

青い草 第6話【前編】

ミクの過去、仲直りできないレン君とリン君。

閲覧数:205

投稿日:2012/02/08 18:18:16

文字数:4,168文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました