毎日毎日退屈な日々が続く。それはそれで、何も事件やトラブル事に巻き込まれないのだから平和なんだろう。
 でも僕はそんな毎日に嫌気が差していた。

 大学を卒業したはいいけど、就職先が見つからないままバイトを続けてる。それでも親元にいるからお金に困る事もない。
 ようするにぬるま湯に浸かったような状態なんだよな。


 そんなある日、彼女がやってきた――



 その日は天気がよく、窓を開けると気持ちの良い風が部屋に入り込んだ。ああ、もう初夏なんだな。

 机に向かってパソコンでいつものようにネットを彷徨う。別に特に見たいページがあるわけじゃない。それでも暇つぶしにはパソコンは丁度いい。

 その時だった。

 ガタガタと後ろで音がする。何事かと思って振り向くと……


「やぁ! 君がネギだな!」

「……不法侵入者?」

 女の子が窓から入って来た。

 ちょっと待て。ここは二階だぞ? 一体どうやって……

「不法侵入者とは失礼な! 私はこれでも由緒正しき魔法少女だぞ!」
「えーと……何だって?」
「だ・か・ら!! 魔法少女!」

 めまいがした。目の前の女の子はコスプレしているのか派手な格好だし、言ってる事はおかしいし、だいたい僕の部屋に何で入ってきたんだ?

「君、一体何なんだ? 僕に何か用なのか?」
「いやぁ、ちょっと人間界で修行をしないといけなくなっちゃってねぇ。で、君が私に選ばれたんだ! 光栄に思え!」

「選ばれたって……どういう基準だよ。だいたい僕は君なんて知らないぞ?」
「ふふふ。名前だよ。名前! ネギだなんてすごくいい名前だな」
「……根木って、確かに苗字はそうだけど。そんな理由って」
「いや、名前は大事だ。そうそう、私の名前を言ってなかったね。私はミク。魔法のシンガー ネギっ子ミクだ」
「ネギっ子……なんだそれ」

 彼女はいきなり棒を取り出した。何だかアニメに出てきそうないわゆる魔法のバトン? みたいな……

「これがネギステッキ。それを使う私はネギっ子。OK?」

 うん、意味がわからない。

「確かにネギみたいな形だけど……それで僕なのか。苗字がネギだから……」
「やっと理解したか」

 彼女は得意げにバトンを振り回す。

「私は魔女っ子だからな! 何でも魔法で解決してやるぞ。何か困った事はないか?」
「えーと、じゃあ、お金が欲しい」
「無理」
「早っ! 何だよ役に立たないじゃないか」
「アホか君は。お金なんて出したら犯罪だろ。そういうのは自分で稼ぐ物だ」
「うっ……正論だ」
 
 僕は言い返せなかった。じゃあやっぱり……

「彼女が欲しい。スタイルが良いお姉さん系が好みなんだ」
「却下」
「なっ……何でだよ!」
「君ねぇ、世の中そんなに甘くないんだよ。彼女が欲しいならそれなりの努力をしないと無理なの。ギャルゲーみたいに都合よく主人公に女の子が群がってくるなんて幻想なの。わかる?」

 くそ……またまた正論だ。でも魔女っ子の癖に難癖つけて実は何も出来ないんじゃないか!?

「もういい。君は魔女っ子とか言って本当は何も出来ないんだろ?」
「何を言う! 私は出来る事でも君の為を思ってあえてやらないだけだ。そんな事もわからないとは……」

 こいつ……本当かよ。

「じゃあ、腹減ったから何か出してくれよ。それならいいだろ」
「よしきた! それならお安い御用だ!」

 
 ここで普通なら魔法の呪文でも唱えるんだろうが……彼女は「ネギネギ!!」とだけ唱えた。
 どこまでネギが好きなんだ。

「どうだ! 美味そうだろ?」

 彼女が出したのは……ねぎま。

「遠慮せず食え!」

 僕は肉を口に入れた。

「お、美味い……」
「だろだろ! ささ、遠慮せず全部食え」
「ああ」

 僕は実は葱が大嫌いだ。だから葱だけよけて肉だけ食べた。

「ああ、美味かっ……え?」

 ばこーーーーーーん! と大きな音を立て、僕の頭にネギステッキが直撃した。

「……いってぇな!!!! いきなり何すんだよ!」
「この大馬鹿者! ネギを残すとは何事だ!! ネギ神様に祟られるぞ!」
「何だよそれ……」

 うう、頭が痛い。このガキ容赦ないんだもんな。

「仕方ない。このネギは私が食べる」
「……」

 しかし美味そうに食うな。そんなに葱が好きなのか。僕は匂いがダメで見るだけでも嫌なのに。

「何だよ? 人の顔ジロジロ見て」
「いや、葱好きなんだなって」
「うむ。主食だからな」
「主食って、おかしいだろ!」
「おかしいものか! ネギを食べない君の方がおかしい!」

 何と言うか……とんでもない子に関わってしまったみたいだな。


「というかさ、君いつまでここに居る気? 若い女の子が若い男の部屋にいるのはどうかと思うんだけど」
「何だ? 君はこの私を襲うというのか!?」
「しねーよ……じゃなくて! はっきり言うと邪魔なの。帰ってくれ」
「え……」

 ん? あれ? 何だ……?

「そんなのひどいよ……」
「お、おい」
「そんなに私が邪魔なの……?」

 こ、こいつ……

「お役に立てるよう頑張るから! お願い! ここに置いて! ダメ……?」
 
 彼女は両手を合わせて上目遣いでこちらを見てる。はっきり言って可愛い……
 く、くそ、騙されないぞ!

「何と言われようとだめだ」
「う……っ。ひっく……私……他に行くとこないのに……お兄ちゃんだけが頼りなのに……」

 お、お兄ちゃん……だと!?

「お兄ちゃん……ミク、いい子にするから……お願い。見捨てないで……」

 あ、あ、あ……やべぇ、可愛い……!
 そんな泣き顔でお願いされたら……断れる訳ないじゃないか。

「えーと、少しだけなら……」
「ホント? お兄ちゃんありがとう!」

 か、可愛いじゃないか……なんだよ。






 ――そして僕は後悔する事になる。


「いやー、悪いねぇ部屋まで用意してもらっちゃって」
「……僕の親に何をした?」
「ん? ちょっと記憶を操作しただけだよ。昔からの幼馴染が行く当てもなく困ってたってな具合にね」
「ってか、父さんも母さんもその格好見て何も言わなかったのかよ」
「今時の若い子は服装も可愛いねぇって誉められたよ! いい親だな!」

 ああ……うちの親はちょっとズレてるからな。それに昔からのん気なんだよな。普通は若い男女が一つ屋根の下に暮らすのは心配だろうが。何で僕の隣の部屋を彼女に使わせるんだよ……

 そんな訳でこの日からこの変な女の子との同居生活が始まった。黙ってれば可愛いのに、いちいち口が悪いのどうにかなんないかな……


つづく。


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第一話 「ミク参上!」

以前NAVさんとコラボさせていただいた「魔法のシンガー♪ネギっ子ミク」でお話を書いてみたいなとずっと思ってました。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm8662966

ミクさんの性格が非常にとんでもないですが、本物のミクさんは私の中で天使なので、この子とは切り離して考えてます(笑)

他のキャラも性格が色々おかしいですが、続きも考えてます…

しかしこれ、果たして受け入れてもらえるのかどうか(^^;

閲覧数:836

投稿日:2011/02/01 01:38:26

文字数:2,762文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

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  • nonta

    nonta

    ご意見・ご感想

    まさかの小説!そうきましたか!
    とても面白く読み易かったです。
    楽しい作品ありがとうございました。
    つづきも楽しみにしております。

    2011/02/02 21:45:04

    • ぎんこ

      ぎんこ

      >nontaさん
      わわ、読んでいただけて凄く嬉しいです(*´▽`*)
      面白く読みやすい…まさに私が目指している物ですので感激です♪
      続きもすでに書いてますので、近いうちに投稿しますね?
      ありがとうございました!!

      2011/02/02 22:16:31

  • 是久楽 旧HidetoCMk2

    是久楽 旧HidetoCMk2

    ご意見・ご感想

    まさかの小説化ですと∑(゜ω゜ノ)ノ

    という事で、早速読み読み・・・

    ・・・

    ネギっ子ミクは、かなりやり手なようですねw

    根木の前途はかなり多難なようです(;^ω^)

    2011/01/31 22:43:12

    • ぎんこ

      ぎんこ

      >HidetoCMk2さん
      読んで下さりありがとうございます!!
      まさかの小説化ですw

      ネギっ子ミクさんはかなり癖がある人物らしいですw
      根木くんは今後どうなっちゃうでしょうねww

      2011/01/31 23:40:23

  • enarin

    enarin

    ご意見・ご感想

    ぎんこ様、今晩は!

    おおおお!!!! ぎんこ様も小説にチャレンジですか! ということで、じっくり読ませていただきました。

    お、面白い… 以前完成してある動画やイラストの設定を骨組みにしているので、そこにギャルゲー風な軸を持ってきて、更にぎんこ様のコミカルさが加わって、凄く魅力的です!

    主人公の根木君とミクの掛け合いが漫才みたいで楽しいし、ミクさんのやることが凄いし、それを冷静に受け止めている主人公も凄いし。

    私も大変勉強になりました。”魅力的な小説”とは、どういう味付けなのか、よく解った気がします。

    ぎんこ様はスゴイですね。イラスト、動画イラスト、曲、歌詞、そして小説。多才だなぁ~。私も頑張ります!

    楽しい小説、次も楽しみにしております!

    ではでは~♪

    2011/01/30 20:54:24

    • ぎんこ

      ぎんこ

      >enarinさん

      こんばんは?♪

      はい、お恥ずかしながら小説まで手を出してしまいました(ノ´∀`*)
      読んで下さりありがとうございます!

      面白いと言っていただけると本当に嬉しいです!
      なかなか今まで他の方に小説を読んでいただく機会が無くて、こっそり個人的に楽しむ為だけに書いてきたもので…

      二人の掛け合いは書いてても楽しかったです?
      でもミクさん黒すぎますね(笑)

      わわ、すごいだなんて…!
      まだまだチャレンジしたい事はいくつもありますが、なかなか難しいですね(^^;
      でもでも、嬉しいお言葉ありがとうございます!

      2話以降もまた近いうちに投稿したいと思います♪

      enarinさんも執筆活動頑張って下さいね(*´▽`*)

      ではでは?

      2011/01/30 22:28:09

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