時計台の前で芽結を待っていた。芽結の声が聞こえて、振り返った時には何も無い真っ白な世界に放り出されていた。驚いて、前も後ろも、右も左も、上か下かも判らない世界を走り回って、何も無くて、走る足は何時の間にか歩きになって、喉がカラカラになって、とうとう動けなくなった。
「…何だよこれ…?」
自分の声なのかどうかすら判らない。此処には何も無い、無さ過ぎる、真っ白なのに闇の中みたいで、今にも頭が狂いそうだった。
「…誰か…誰か…!誰か居ないのかよ?!おい!」
戻って来ないと判っていても叫ばずには居られなかった。ふと胸元に手を遣るといつもの金属の感触が無かった。
「あ…れ?」
パタパタと服を叩くがペンダントが無かった。勿論普段なら然程気にしなかっただろうが、こんな所で失くした事に気付くと動揺が大きかった。急激な不安が襲い、息が詰まる程心臓が早い鼓動を刻む。落ち着け…落ち着け…たかがペンダントじゃないか…たかがアクセサリーじゃないか。
『そのペンダントって何でいつも付けてるの?』
頭に押し込まれるみたいに芽結の声を思い出した。
『生きてるよ…流船…。私も正真正銘本物だよ。』
『良いじゃない、好きでも。』
『『言魂』が万能なら良いのに…。』
『流船君が眠れるまで此処に居る。』
『…め…なさい…。ごめんなさい…!ごめんなさい…!』
『嬉しかったの…。』
「め…ゆ…?芽結…?芽結?!…頼流!聖螺!幾徒!ゼロ!ミドリさん!鈴々さん!
クロア!ヤクル!イコ!…誰か…!誰か!畜生誰かっ!頼む!誰か助けてくれ!」
どれだけ泣き喚いただろうか…数分なのか、数時間なのか、ガンガンする頭で真っ白な中を体を引き摺って歩いていた。
「何処…だよ…?皆…何処…?返して…返してくれ…もう…居るだけで良いから…。」
芽結に会いたい…皆に会いたい…。俺の家族…俺の仲間…俺の友達…俺の宝物…。何処へ行ったの…?皆は何処?此処は何処?何処に居るの…?違う…違う…!欲しいのはこんな真っ白な世界じゃない!違う…何処…?俺の…宝物は何処?誰か助けて!此処から出して!皆に会わせて!皆何処!何処…!助けて…!
『これは夢…これは夢!』
「え…?」
真っ白な世界に一瞬伸びた手が、確かに涙の伝う頬を掠めた。驚いて目を開けた時、自分の物であろう真っ赤な長い髪と、『ソレ』が見えた。エメラルドの髪と、柘榴の瞳と、銀色の月と暁色の猫の大きなペンダントを付けた…。
「…俺…?!」
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想