(ボーカロイドと未来とツチノコの歌4【2016年編パート1】の続きです)
翌日、僕は変わらず大学の研究室へ行った。午前中に警察の人が調査に来ていたらしいが、事件を早く自殺で収めてしまいたいらしく、大した調査もせずに帰って行ったらしい。
昨日と何も変わっていないはずなのに、研究室は圧倒的に何かが足りなかった。
それでも、中途半端は嫌なのでロボットの制作に取り掛かる。プログラミングの続きをするためにパソコンの電源を入れる。
「あれ?」
おかしい、まだ終わっていないはずの足のプログラムが終わっている・・・。
それに腕のプログラムも書き換えられている・・・。
すると突然、ロボットが起動し、動き始めた。
「うわ!なんだ?」
ロボットは一直線にホワイトボードに向かうと、ペンを掴み文字を書き始めた。
『和也君へ。
突然すまない。
でも、これ以外にいい方法が思いつかなかったんだ。
僕のデスクの金庫の中に設計図が入っている。
それを誰にも知られずに処分して欲しい。
暗証番号は『9614』だ。
ロボットの自由と未来のために・・・ 黒石』
これは・・・教授の遺書?
急いでデスクの金庫を開ける。中に入っていたのは設計図らしきものだった。ただ、それはあまりに高度で、僕が一目見ただけでは到底理解出来なかった。
「やはりな・・・・」
入口から声がした。
「あ・・・」
そこに立っていたのは、石原純一だった。
「やはり、黒石は完成させていたのだな・・・」
「な、何しに来たんだ!?まさか、これを理事長に渡すつもりか!?」
純一はふっと鼻で笑った。
「そんなことをするつもりはない。ただ、君に忠告に来ただけだ」
「・・・?」
「その設計図を言われた通りに処分すれば、確かにそのロボットが悪用されることはないだろう。だが、それは本当に黒石の望んだ未来だったのか?」
「そりゃあ、こんな手の込んだ遺書まで残すぐらいなんだから・・・」
「同じ研究者として言わせてもらうと、開発したモノを世に出したくない学者なんて一人もいない」
「それでも、黒石教授は・・・ロボットの未来のために処分することを決めたんじゃないんですか!」
「未来のためか。仮にその設計図を処分したならば、ロボット開発は50年遅れを取ることになるだろう」
「では、これをどうしろと言うのですか?ここで、この設計図をあなたに渡せと?」
またもや純一は、馬鹿にしたように鼻で笑った。
「俺は化学が専門だ。そんな設計図貰ったところで、ただの紙切れでしかない」
純一はそう言うと、出口へと歩いていった。そしてドアの前で一言。
「俺はただ、未来の可能性を知らせに来ただけだ」
そう言って、部屋を出ていった。
僕は急いで、ホワイトボードの文字を消した。
文字を書いたロボットは、役目を終えるとプログラムが自動的に破壊されるようになっていたようだ。
しばらく僕はどうするべきか考えた。でも結局、結論は出なかった。
ダメだ・・・。この問題は僕には大きすぎる。不安だけど純一に全てを任せよう。さっきの口ぶりからして、悪いようにはしないだろう・・・多分。
僕は設計図を持って、純一の研究室に向かった。今日は日曜日ということもあって、校内に生徒はほとんど居なかった。
僕は純一の研究室の前に着いた。ノックしようとすると、中から音楽が聞こえてきた。
『♪ツチノコが言ってたんだけどね~』
あれ?何でこの曲を純一が?更に中から話し声が聞こえて来た。
「おい、純一、飲んだが何も変化が起きないじゃないか?本当に臨床実験は済ませたんだろうな?」
この声は、石原慎之助?
「大丈夫ですよ、石原理事長。すぐに効果が現れます」
まさか!?純一が密告するつもりなんじゃ?
僕は思わず設計図を強く握り締めた。
「ワハハッ!そうかそうか。しかし、これが成功すれば『Tyu-U2』に続いての世紀の大発明じゃないか!黒石を失ったのは大きな損失だが、これさえあればすぐに取り返せるわい!」
「その黒石ですが、もう設計図は出来ていたみたいですよ」
「何!?本当か?どこにあるんだ!?」
やっぱり!裏切った!ヤバイ、逃げないと!これをどっかに隠さないと!
純一は静かに続けた。
「この曲・・・」
「ん?そんな事はどうでもいい!早く設計図を!」
「この曲・・・どうして最後は『ツチノコが言ってたんだけどね~♪』で終わっているんでしょうね?」
「・・・?純一?」
「でも、不思議とこの曲を聞いていると、昔昔、どこかにしまい込んでしまった感情が蘇ってくるんですよ・・・」
「純一?何を言って・・・!ゴホゴホッ、ガハっ!」
急に、慎之助が苦しみ出した。
「こ・・・これは?ガハッガハッ!」
純一は相変わらずの冷静な声で続ける。
「俺は、小さい頃からずっと勉強勉強で。あなたに『お前は医者か学者になるんだ』と言われながら育ってきた」
「ヒュー、ヒュー・・・純一、助けてくれ!」
「別に恨んではいませんよ。確かに『いっそ物想わぬ機械になってしまえば』と思ったこともありました。でもそのおかげで『Tyu-U2』は完成した」
「純一・・・頼む!助けてくれ!」
「自分が辛いのは、いくらでも誤魔化す事ができた。でもね、友を傷つけられた時の怒りは、いくら『Tyu-U2』を飲んでも誤魔化す事はできませんでした」
「・・・じゅん・・・いち・・・。貴様・・・!」
「そう言う意味では、俺の作った薬も失敗だったのかも知れませんね」
「・・・俺を殺そうと言うのか!」
「死にはしませんよ。あなたがさっき若返りの薬だと思って飲んだのは『Tyu-U2』の原液。殺傷能力はありません」
純一は淡々と続けた。
「あいつがそうなってしまったように、貴方も物想わぬ機械になるだけです」
「き、きさまぁ~~!!あ、あがぁぁぁ~~~・・・・」
『どさっ』
・・・あれ?静かになった。
しかし、大変な事を聞いてしまった!え?純一が理事長を殺した?
『どさっ』
中でまた人の倒れる音がした。そして、人の気配が消えた。
まさか!?
僕は急いで、ドアを開けた。
そこには、倒れている理事長と純一がいた。
「石原教授!」
僕は急いで、純一に駆け寄った。
「ハァハァ・・・斎藤、また盗み聞きか・・・?」
「石原教授・・・どうして?」
純一の近くには、毒薬の空ビンが転がっていた。
「『Tyu-U2』の副作用とでも言うべきか・・・。考える事自体を辞める薬である『Tyu-U2』に毒された私の心は、すっかり弱くなってしまっていたようだ・・・」
「教授・・・」
「しかし・・・不思議だ。あのツチノコの歌を黒石に聞かされて以来、『Tyu-U2』が全く効かなくなってしまった・・・」
「教授!石原教授!しっかりしてください!」
「斎藤・・・今回の事で良く分かったよ。人間は、考えることを辞めた瞬間に人間でなくなるようだ・・・。例え人類の行き着く未来が絶望しかないとしても・・・考え・・続けるんだ・・・」
そして、純一は力尽きた。
「教授――!!」
静かな秋の終わりの日曜日だった・・・・・。
ついに完成した!世界初、三次元ボーカロボ01『初音ミク1号』
専用スピーカー内臓で、パソコンで音楽データを入力すれば歌って踊る人型ロボットだ。
表面にはシリコン素材を使用しており、質感も見た目も本物の人間と区別がつかない。
「黒石教授、ついに完成ですね!」
「あぁ、そうだな・・・」
あの後、黒石教授は奇跡的に目を覚ました。そして、一部始終を話すと「とんだロミオとジュリエットじゃないか」と笑っていたが、少し寂しそうだった。
「あの世の純一にも、見せてやりたかったな・・・」
「そうですね、教授・・・。」
「こら、人を勝手に殺すな」
ドアから、純一が入ってきた。
「これはこれは、石原・理・事・長!」
黒石教授がからかってみせる。
「その呼び方はまだ慣れていないから止めろ」
あの後、石原純一も奇跡的に一命を取り留めた。黒石教授も目を覚ましたことを話すと「危うく無駄死にするところだった」と笑っていた。目を覚ました純一はまるで憑き物が落ちたようなスッキリとした顔をしていた。
退院後、石原慎之助は持病が悪化したという理由で理事長職を引退。次の理事長には純一が就いた。おかげで、僕たちも大学に残ることができた。
それから2年。ついにあの設計図を基礎としたロボットが完成したのだ!
最終調整をしながら、僕は黒石教授に尋ねた。
「黒石教授、後悔はしてないですか?」
黒石教授は初音ミクを見つめながら答えた。
「こんなに素敵なロボットを作ることが出来たんだ。後悔はしていない」
そして、純一をチラッと見て続けた。
「それに、例えこの子がどんな使い方をされようとも、それと同じだけ愛してくれる人は必ずいる。人類の行き着く未来が絶望しかないとしても、きっとこの子は未来を明るく照らし出してくれるさ」
そう言って、黒石教授は子供の様に笑った。
「さぁ、出来た!起動するぞ!」
「もったいぶらずに早くしろよ!」
純一も興味津々のようだ。
黒石教授がパソコンで起動プログラムを操作する。
『ヴゥン、ウィ――――ン』
『ピッピピッピピピッ』
僕たちは固唾を呑んで様子を見守った。
『ピピッ・・・初音ミク、起動します』
僕たちは「おおぉぉ~~」と歓声を上げた。黒石教授がにっこりを笑いながら親指を立ててこちらに合図を送ってくる。僕もそれに笑顔で答える。
そして、ロボットは歌い始めた。
小さな小さな、未来の歌を。
『ツチノコが言ってたんだけどね~♪』 【2016年編 完】
(ボーカロイドと未来とツチノコの歌6【2020年編パート1】に続く)
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えいぐふと
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