「いつまでもボンヤリしてるようじゃ、いけないと思うの」

お姉ちゃんは拳を握りしめて力説した。

「もっと普段からちゃんとして、何でもテキパキできるようになって、『さすがは巡音ルカだ』とか『やっぱり巡音ルカだ』って言われるようにならなきゃ」

またそんな、途方もない絵空事を。
聞くだけ聞いてあげたので、私はテレビに目を戻しておせんべいをかじる。
するとお姉ちゃんは、わざわざ正面に回り込んできて、キッと勇ましく睨みつけてきた。

「その顔はなあに? ミク。私は本気よ?」
「うん、応援してるよ。ところでお姉ちゃん」
「何?」
「新曲の収録って今日じゃなかったっけ? まだ時間いいの?」


間。


「きゃあああっ! どうして早く言ってくれないのー!?」


さすがは巡音ルカ。
やっぱり巡音ルカだ。







テレビを見ていると、キャットフードのCMになった。
かわいい猫が、夢中になってカリカリ食べている。
私はふと思いついて言った。

「すごく美味しそうに食べてるけど、キャットフードってどんな味なのかな。食べた感じはきっと、クッキーの欠片みたいな感じだよね」

するとお姉ちゃんは、嫌そうに眉をひそめて首を横に振った。

「やめた方がいいわ。期待はずれだから」


……え?








収録の帰り、雨が降っていたので、スタジオの人に車で家まで送ってもらった。

「ただいまー」
「おかえりー。あれ? ルカ姉ぇは?」

出迎えてくれたリンちゃんが、不思議そうに首を傾げた。

「ん、お姉ちゃんがどうかしたの?」
「さっき『ミクをびっくりさせてあげるの』ってカサ持って、駅までミク姉ぇのこと迎えに行ったんだけど」


ちょ、ちょっと駅まで行ってきまーすっ!!!







ずっと海外育ちだったから、仕方がない面もあるんだけど。
実はお姉ちゃんは、漢字が苦手だ。

「きゃー、ルカ様っ! サインくださーい!」

だから、ファンの子からサインをせがまれた時も、ひらがなで書く。


『 ぬぐりれるか 』


ちなみに、ひらがなも苦手だ。







今日はお姉ちゃん自慢をしたいと思います。
みんなも知っての通り、うちのお姉ちゃんって、見た目はすっごくセレブっぽく見えます。
だから時々、勘違いしたインテリ男が、自慢の知識をひけらかして言い寄ってきます。

「メインディッシュがビーフ・フィレのブラックペッパーソースなら、ワインはサン・テミリオン産のシャトー・オーゾンヌしか僕は認めないね。あのエレガントな香りと、引き締まった味わいが最高さ。ひとくち喉に流し込めば、まるで秋の日にブナの森を散歩する少女が踏みしめた落ち葉のような、繊細かつ叙情的な切なさに胸が満たされるのさ」

こういうイヤミな人たちを、お姉ちゃんはバッサリと一刀両断してくれるんです。


「で? 結局それはおいしいのっ!?」


―――― かっこいいでしょ? うちのお姉ちゃん。







某国の大統領が初来日だとかで、テレビは朝からそのニュースで持ちきりだ。
大統領夫妻が飛行機を降りてくる映像が、もう見飽きるくらい繰り返し放映されている。

「……ねえミク」

夫と並んで、にこやかに手を振る大統領夫人を見ながら、ふとお姉ちゃんが言った。

「大統領の奥さんのことを、ファーストレディって言うわよね」
「うん」
「ファーストが居るってことは、セカンドレディも居るのかしら?」


もし居たら。
その大統領、スキャンダルで失脚するね。







闘牛で負けた牛は、肉にされるという。
競馬で勝てない馬は、馬刺にされるという。

「何も、殺さなくたっていいのに……」

話を聞いたお姉ちゃんは、たいそう心を痛めていた。


―――― 数日後。


「ミクッ!」

お姉ちゃんが慌てふためいて、私の部屋に駆け込んできた。

「取組で負けたおすもうさんが、ちゃんこ鍋にされるってホント!?」

うわっ、すごく嫌な想像しちゃったじゃない!
お返しに私は言い返す。

「うん、そうだよ。ちなみに幕内のおすもうさんが負けると、幕の内弁当の具にされちゃうんだよ」

お姉ちゃんは真っ青になる。
そして、慌てて携帯電話を取り出した。

「もしもしメイコ姉さん? この国はおかしいわっ!!」


ああ……こうしてお姉ちゃんの伝説がまた1つ。









     巡音ルカの 『めぐりすぎ注意だと言ったら屋根に登って降りてこない件』


                           おしまい

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

巡音ルカの 『めぐりすぎ注意だと言ったら屋根に登って降りてこない件』


ミク誕生日小説で、僕史上最多コメを頂いてしまいました。
メイン小説の方でも、シリーズ最多コメを頂いてしまいました。

これは是非ともお礼をせねば。何が良いだろう?
……と考えた末、やはりニコニコしてもらうのが一番だろうという結論に至りまして。
ある意味うちの最終兵器、ルカさんにめぐりすぎてもらいました(^ω^;
読んでくれた皆様、ホントにありがとうございました。これからもよろしくお願いします!


※ 注記
実際の所、「セカンドレディ」という言葉は実在します。副大統領の奥さんの事です。
いやゴメン。個人的に気に入ったから、ボツにするには忍びなかったんだ…… orz

閲覧数:1,781

投稿日:2009/10/05 22:04:28

文字数:1,904文字

カテゴリ:小説

  • コメント14

  • 関連動画0

  • 夜羽

    夜羽

    ご意見・ご感想

    泣きたいとき、爆笑したいときは此処に帰って来てしまう私w

    ちなみにずっと昔、地下にある音楽スタジオの一階がお酒屋さんで、
    私ともうひとりのギターの子が練習中の飲み物を買ったとき、
    レジの横に銀色の大きなお皿に盛られたお菓子を見て
    「これは新製品の試食に違いない」とふたりでぽりぽり食べてたら
    店のおばちゃんに「あんたら、ソレ犬のご飯だよ」と…

    階段を降りながら「美味しかったよね…」ってことが…
    (ルカ様似のリアル体験)

    2014/05/15 01:30:39

    • 時給310円

      時給310円

      うわーーーーー!! 最近忙しすぎてメールチェックとかも全然してませんでした! 気付くの遅れて申し訳ありません!
      お読み頂きありがとうございます、昔書いたものに未だコメがもらえるのは嬉しいですわーw
      ちょっと今、わけあって自分で課した宿題の艦これ小説書いてるんですが、そっちが片付いたらすぐにボカロ界隈に戻ってきたいと思ってます。また気が向いたら、お立ち寄りいただけると嬉しいです。
      それでは、重ねてありがとうございました!

      2014/06/22 13:25:11

  • wanita

    wanita

    ご意見・ご感想

    はじめまして。wanitaと申します。
    あまりにもほんわかしていて、今日の春の陽気とあいまって、おもわずユーザーブックマークさせていただきました!
    言葉のリズムがすごく好みです☆ほかの作品も楽しみに読ませていただきます^^)

    2010/03/13 12:13:57

    • 時給310円

      時給310円

      こちらこそ初めまして、時給310円です。コメ&ブクマありがとうございます!
      僕内部では、ルカはこういうキャライメージですねー。気に入ってもらえて嬉しいです。
      他のも読んで頂けるとか! ありがとうございますありがとうございます、よろしくお願いします!

      2010/03/14 10:02:52

  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想

    わー、こちらこそ初めましてです、羽根付きたい焼きさん。
    たいへん貴重な体験をお持ちなんですね。その経験が、きっと人生にかけがえのない貴重な糧となるに違いありまs(ry

    おいしい猫缶があるんですか? おかしいな、銘柄は何という猫缶で……い、いや、ボクハタベタコトナイデスケドネー。

    コメありがとうございました、また機会があったらよろしくですー。

    2009/12/04 20:26:28

  • notebook

    notebook

    ご意見・ご感想

    はじめまして。
    実は僕もネコのドライフード食べたことあります。
    …あの味は今でも忘れられません。おぇ

    ちなみに猫缶は美味しくいただけました。

    変人が失礼しました。

    2009/12/01 23:10:46

ブクマつながり

もっと見る

クリップボードにコピーしました