死の匂いのたちこめた優しい世界をつくろう。

遠い喧騒だとか、カラスの声だとか、
また団地で遊ぶ子どもたちの笑い声や、
昨日と同じ言葉を繰り返すテレビの音が彩る、
あの赤色の空が東から透き通って、
やがて訪れる静寂が美しい、
あの時間のことです。

あるいは全てのビルの明かりがようやく消え、
繁華街から瞬間、足音が去って、
街の底がいっとう冷たくなる、
それと同時に空が明るくなり始める、
あの時間のことでもいいでしょう。

人はいずれみんないなくなる、ぼくも。
そう思った時だけぼくの心に浮かぶ、
寂しさや、虚しさによく似た、
靄けながら透き通った優しさです。

つまるところ、
優しさに満たされた悲しいぼくを赤く染める静寂は、
思い出を語ることとおんなじなのでした。

この壁の向こうにさよならが塗り重ねられて、
その間もぼくらは静かに向かい合っています。
二人の間には、鮮やかな食卓。
ただ一つ、枯れた花をいけた花瓶は、
明日にはその最後の花弁も落としてしまうと、
二人は語らずとも知っていたのでした。

とても二人で歩んできたとは言えませんが、
お互いに似たようなものを見てきたはずなので、
微かな記憶を頼りに思い出話を始めます。
それはきっと「あなた」よりも、
「わたし」のために必要なことで。
それはきっと街がみんな傾いてしまう、
こんな黄昏時に時折訪れる静寂によく似ていて、
そして何より、
こんな風に歩いてきた私たちの顔に何より似た話なのでした。

だから私は。
おもむろに席を立つことから始めます。
空の冷蔵庫。
ストーブの燻った音が部屋を満たしていて、
この物語には始まりも終わりもないのでした。
でも、そんな止まった部屋にも、
柔らかく春は吹き込んできたのでした。
やがて、この部屋は終わります。
そして、全てが始まるのです。
そんなこと、誰も知りませんでした。
誰かが知ることもないでしょう。

喩え話が長くなってしまいました。
でも、そういうことなのです。
永い永い冬の、夜の底に残った澱のような話。
美しいと思いませんか。
だからあなたも、
そんな死の匂いのたちこめた優しい世界をつくりましょう。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

死の匂いのたちこめた優しい世界をつくろう。

閲覧数:101

投稿日:2019/04/25 00:40:35

文字数:913文字

カテゴリ:歌詞

クリップボードにコピーしました