「なぁ!早く着いてこいよ!」
彼は言った。8月6日。僕は今日9歳になる。

彼は僕の親友だ。今日は僕の誕生日だから、プレゼントを用意してくれたらしい。

「ちょっと、まってよぉ…!」
彼は足が早い。走るのが苦手な僕には到底追いつけない。

「早く来いって!早く見せたいんだ!!」
そういって彼は僕を待つことも無く先へ進んでしまった。

「…もうっ…!待ってよー!!」

着いた場所は、村の森にある僕らのいつもの遊び場所をもう少し進んだところだった。

「なぁ!!見ろよ!!俺らの秘密基地!!俺が作ったんだぜ!?」
そこには木やボロボロの机を組み立てて作られた、小さな小屋のようなものがあった。
まさに秘密基地だった。

「えっ!?すっご!!これ作ったの!?すご!!」
僕はすごい以外の言葉が浮かばなかった。

「な??すげーだろ!?
父さんに手伝って貰ったんだ!!俺からのプレゼント!」
そう誇らしげに彼は言った。

「ああ…!!本当にすごいよ!ありがとう!
これからはここで遊ぼうな!!」

「おう!!まぁまずは中入ってみろよ」
彼に促されるがまま、僕は中に入った。

少し軋む木の音、外よりずっと涼しい温度、木の隙間からさす厳しい日差し、全てが秘密基地を物語っていて、僕のテンションはみるみる上がっていった。

「涼しい!!日差しが遮られてるからか!いい休憩場所だな!!」

「だろ!?……あ、そうだ、今日は実験に最適な日なんだった。」

「実験??何するんだ??」

「最近ずっと晴れだったからさ。この秘密基地が雨にどんだけ耐えられるかわかってないんだ。」
彼がそういったのを聞いて、僕は思い出した。

「あ、そっか!今日は夕方から雨だって言ってたね…!」

「そう!な、お前も一緒にやるだろ?」

「ああ!」

「まぁ、実験つっても俺たちは雨を待つだけだけどなw 」
そういって彼は秘密基地のイスに腰をかけた。
僕も隣に座り、雨を待った。

雨は予想以上にすぐに訪れた。

「うぉっ、冷てっ!」
彼の元に水滴が落ちた。

「あ、若干雨漏りしてるねw 」

「ま、まぁ、それも秘密基地の良さってもんよ…!!」

「ははw まぁそういうことにしておいてやるよw」

秘密基地は思っていたより丈夫で、多少雨漏りはしていたが手作りの秘密基地にしては快適だった。

「あれ……てか俺ら傘持ってなくね……!?バカじゃん……!!」
そう彼が言って僕も気づいた。

「え……ほんとじゃん……!!馬鹿だねww」

「天気予報……すぐ止むって言ってたよな…??な…??」

「はは...どうだろ…w」

「まじかよー!!ww」

僕らは雨が止むまで待つはずだった……が、しばらくたっても雨が止むことは無く、むしろ強くなる一方だった。

「………なぁ、長くね??なんか強くなってきてるし」

「だね……w やまないなぁ…」

「あー、もう暗いなぁ…母さんに怒られる!」
彼はそう言って腰を上げた。

「え、まさかこの雨で帰るつもり?」

「だってよ…、かなり時間ヤバくね…??」

「それは思う……。」
時間はもう7時を回っていた。
今日9歳になったとはいえ、僕はまだ小学3年…門限は5時半だった。

「あー、どうすっかなぁ…」

グラッ

「うわ…!?」
急に僕は確かな揺れを感じた。

「なにこれ…?まさか地震…!? 」

「いや…違う!!土砂崩れだ!!今俺らがいるこの場所が崩れてる!!」
彼はそう言った。

彼が今言った言葉を理解する前に、僕達は秘密基地ごと崩れ落ちて行った。



ピ…ピ…ピ…ピ…

「…ん……」

目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
生きてる……のか……!?今は何日だ……!彼は……!?

「──君が目を覚ましました!!」
看護師さんたちの声が響く。

「──君、聞こえる??今日は8月17日、君は今10歳だ。」
お医者さんが話しかけてきた。
10歳??僕は9歳の誕生日を迎えたばかりだというのに。

「10歳……??」

「ああ。そうだ。君は土砂崩れに巻き込まれた後、眠り続け、ちょうど1年ほどたった。」
お医者さんのその言葉に僕は驚いた。

「……っ…!」

「信じられないかもしれないが、それが事実だ。とにかく目が覚めてよかった。眠っていた1年間はこれから取り戻せばいいよ。」
そういって去ろうとするお医者さんを僕は引き止めた。

「…あのっ…!!彼は……??」

「彼…??ああ、もしかして…君と一緒に土砂崩れに巻き込まれてしまった彼かい??」

「…はい!そうです…!」

「彼は……見つかった時にはもう…。
君を庇うようにして亡くなっていたそうだぞ…。」

「え……」
僕の頬には無意識に涙が伝っていた。
なんとも言えない感情が僕を襲った。


あの場所に行ったのが悪かったのだろうか。
傘を持っていかなかったのが悪かったのだろうか。
濡れながらでも帰るべきだったのだろうか。

なんでもいい。彼に生きていて欲しかった。
なんで僕だけが生き残ってしまったんだ。
なんで彼は僕なんかを庇って死んでしまったんだ。


──1ヶ月後、僕は退院した。
その出来事があってから、葉の緑臭い匂いを嗅ぐと、あの夏を思い出して色んな感情が込み上げる。
ああ、また吐き気がするよ…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

想いが滲む夏

閲覧数:55

投稿日:2020/03/26 17:27:30

文字数:2,199文字

カテゴリ:その他

クリップボードにコピーしました