風雨の音だけが暫く部屋に響いた。と、急に手を掴まれ引き寄せられた。
「えっ?!」
「…もう思い出すな…浬音。」
耳元で囁かれた名前に心臓が跳ねて、思わず鳴兎を突き飛ばした。こんな状況で、しかもベッドの上で抱き締められたら意識せざるを得ない。今更ながらドアが開かない事が恨めしい。
「はい、あーん。」
「え?むぐっ…?!」
口の中に甘酢っぽい味と香りが広がった。レモンキャンディ?そう言えばこの前も持ってた様な…キャンディ好き?
「昔話でもしようか?つまんないけど。」
「昔話?」
「そ、昔々ある所にとある家族がいました。働き者の両親と3人の男の子はケンカ
しながらもすくすくと育っていました。」
「何それ…。」
「だけどある日の事、留守番をしていた3人の子供達の所に他人の物を欲しがる悪い
奴等がやって来てしまいました。」
「え?」
「子供達は逃げましたが、運悪く1人の子が捕まってしまいました。」
「め…鳴兎?」
「その子は人質にされて、警察や両親の目の前で斬り付けられました。その後犯人は
逮捕されて、病院に搬送された子供は一週間後に目を覚ましました、めでたし
めでたし…。」
「めでたくないって!…ねぇ、今の…。」
「…他人の物欲しがるとロクな事が無いって教訓。」
鳴兎は寝転がって浅く笑っていたけど、天井を見たままこっちを見ようとはしなかった。急に心配になってそっと頭に手をやる。
「…大丈夫?」
「昔話だって言ったろ?」
「それは…そうなんだけど…。」
頭に置いていた手を捕まえられた。
「それから決めたんだよ、絶対に他人の物は欲しがらないってね。そんな事したって
誰も幸せになれないしロクな事無いし、良い事一つも無い。」
何だろう?全然違う話の筈なのに、どこか気になる。欲しがっちゃ駄目、望んじゃ駄目、幸せになれない…。ああ、少しだけ私に似てるのかも…。
「だから諦めてるの?」
「………………………。」
「鳴兎?」
「You must go to his side before I seriously love you.」
「え…?今何…っ!」
聞き返す前に唇が触れた。
「何す…!人のファーストキ…!」
「2回目。いや…3回目かな?」
噛み付く様にキスされて、また甘酸っぱい味と香りが口に押し込まれた。
「鳴…!やめ…!」
首筋に小さく痛みが走った瞬間、バチンと言う音と共に照明が点いて明るくなった。
「時間切れ…かな。」
「な…何…!今何し…!」
「お休み。」
頭の上からバラバラとレモンキャンディを降らせると、鳴兎はスタスタと部屋を出て行った。
「…っの馬鹿ぁ~~~~っ!!!」
DollsGame-67.タチアオイ-
数えたら負けです
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