ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、
なんとコラボで書けることになった。「野良犬疾走日和」をモチーフにしていますが、
ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてP本人とはまったく関係ございません。
パラレル設定・カイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手はかの心情描写の魔術師、+KKさんです!

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【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#18】



「私、部屋にいるわね」
「お嬢様……」
「晩御飯もいらないわ。気分がわるいのと言っておいて」
 客のいなくなった客間を出るときに、女中の子には、なにかあったら呼んでね、とは言ったけれど、なにがあっても部屋から出て行く気なんてさらさらなかった。

 なんてことをしたんだろう。なんてことをしてしまったのだろう。先ほど、自分がかいとにした仕打ちを思い出すだけでも吐き気がする。

 おとなになるということは、想像以上に残酷なことだった。
 昔は、おとなになればなんでもできると思っていた。それこそ、この家から逃げ出すのも、らくにできるようになると思いこんでいた。昔、まだこどもだから、きっと一人で生活なんてできないだろうと判断した、こどもの頃の私に言ってやりたい。あなたの未来はこんなにも不自由でままならないのよ、と。逃げるなら今のうちなのよ、おとなになってもいいことなんてないわ、と。
 できることなら、幼少のころに、彼の手を取り遠くまで、逃げてしまえばよかったのだ。彼は何度も連れだしてくれたじゃないか。
 るかさんが持ってきてくれた本を片手に机に就くけれど、本を読む気なんてまったく起きない。本を机の隅に押しやって、机に突っ伏す。ふと視線を足許に下げると、天袋から出したまま、仕舞う気もなかった箱が目に付いた。中には鼻緒のふぞろいな草履が入っている。
「……」
 かいとに鼻緒を直してもらったのは、じつは1回だけではない。これは最初に直してもらった鼻緒だけれど、たしか、ほかにも2、3足は直してもらった気がする。

 2度目の時か、3度目の時か忘れたが、家から脱走している途中で鼻緒が切れたことがあった。
「かいと」
 その時のかいとは、薄い群青色の生地に、絞りの模様の入った着物を着ていたと思う。着古したような跡ののこるその着物は、とくにみすぼらしいというわけでもなく、とくに立派というわけでもない、ようするによくある柄のよくある着物だったのだが、かいとがだいじに着ているものなのだとよくわかる着物だった(かいとは、青という色がすきだった)。
 私の手を取り小走りに走るかいとは、いつもより切羽詰まっているように見えた。いつものように、空き地に遊びに行ったり、河原の秘密の場所に行ったり、あるいは、昨日見つけたばかりのおいしい実のなる木のところにでも行くのかと思っていた私は、訝しんで声をかけたのだ。
「どこにいくの?」
 かいとは、にっこり笑って、きれいなところ、と、答えた。
 私が知らないうちに、新しい遊び場をみつけたのだろうか。もしかして、すてきすぎて競争率の高い場所だから急いでいるのかもしれない。そんな風に思いながら、かいとと一緒に走っていた。
 それでも、いつもと違うかいとのようすと、いままで来たことのない小路の風景に、すこしだけ慄いたのだ。
「ねぇ、かいと、みんなのこえがとおくなっていくわ」
 かいとは、すこしだけ焦ったような、こわばった表情で足を速めた。
「うん、わかってる。でも、まだもうすこしかかるんだ」
 どこまで行くのだろう。私はどこに行くのだろう。そんな風に思いながら手を引かれていたけれど、不思議と、連れて行かれている、というような気分ではなかった。かいとの先導で走ってはいるが、それは私の意志でもあった(もし、すこしでも嫌だと思ったら私はその場で立ち止まったはずだ)。かいとと一緒ならば、まちがいはない。もし、なにかあっても、かいとと一緒だから大丈夫なはずだ。そう自分にいいきかせて、かいとと一緒に走っていた。

 そうして走っていると、とうとう見たことのない景色ばかりになった。見知った街の面影はすこしもない。いよいよ不安になった私は、かいと、帰りましょう――と、声をかけようとして、不意になにかに躓いた。
 あ、と、口から洩れた声にかいとが振り向いて、倒れかかった私を抱きとめた。ふわりと土の匂いがして、あわてて身体を起こすが、足にいつかの違和感がよみがえる。かいとも私の視線を追って、私のつま先を見つめた。
 鼻緒が切れていた。いつかと同じように、左足だった。ついてない、と、溜め息を洩らした。
「だいじょうぶ?」
「うん……」
 でも、これじゃあ走れない。そう言いかけて、ふと、かいとが私に背を向けているのに気がついた。それも、普通に背を向けているのじゃない。私に背を向けてしゃがんでいる。ほら、と、後ろ向きのまま、かいとは私に手を伸ばした。
「……なあに?」
「おぶったけるから、ぞうりもってて」
 かいとは、あたりまえのように言ったけれど、私は慌てた。前におぶってもらったこともある。けれど、その時もかいとはずいぶん疲れた風だったから。
「だいじょうぶよ、かいと」
「だいじょうぶじゃないでしょ。ほら、早く」
 だめだよ、わるいよ、と言っても、かいとはきかなかった。ちょっとそこの路地にはいるだけだから、と言われて納得して、ほんとうにすぐそこの路地まで連れて行ってもらった。
 そのときも、かいとは水色の布を取り出して、ためらいもなく裂いて見せた。
「かいと、もったいないよ」
「このくらいへいきだよ」
 今日は私もハンカチをもっているの、だからこれを使って――と、言って布を差し出せたらどれだけよかっただろうか、と、おおいに後悔したものだ(そうだ、それからきちんとハンカチを持ち歩くようになったのだったわ)。
 前よりてきぱきと直すかいとの手つきに、相変わらず惚れぼれしながら見ていると、あっというまに修理は終わってしまった。ありがとう、と言うと、かいとは照れくさそうに笑っていた。
「それじゃ、いこ」
「うん」
 そうしてかいとの手を取った。
 けれど、ふわりと身が浮いて、その手はかんたんに離れてしまった。
「お嬢様、お父上に叱られてしまいますよ」
「めーちゃん!」
 屋敷に仕える女中のひとりが、私の胴体を抱えていた。捕まった。その事実に、一気に血の気が引く。
「こんなに遠くまで来て……今日はお琴の先生がお見えになる日ですよ、約束の時間はとうに過ぎています」
 だから早く帰りましょう、と、言う女中に、ひとしきりの抵抗は見せたものの、所詮はこどもの力でしかない。顔を狙って拳を振り回したり、腹に蹴りを入れてみたりしたのだが、拳はひょいひょいとかわされ、腹を蹴られても痛そうなようすもまったくない。
 大人の前に、こどもの私はとんでもなく無力だった。
「かいと、たすけて、かいと!」
「めーちゃん!」

 そうして伸ばした手は、届くことはなかった。

 あのとき、不安になんてかられなければ、もしかして逃げ切れていたのだろうか、なんて、思った。
「――無理よね」
 こどもの足ではすごく遠かった覚えがあるけれど、きっと今歩いてみれば、それほど遠くもないのだろう。それこそ、村の端から端まで歩くような、そんな距離だったのではないかと思う。
 きっと、今なら逃げ切れるのだろう。誰に追いかけられても、かいとと一緒ならどこにでも逃げていける。彼とふたりならこわいものなんてない。
 でも、手を離したのは、私の方だ。
「いまさら、たすけてなんて言えないわ……」
 何度もたすけようとしてくれたその手を振り払ったのは、他でもない自分自身なのだ。

 外では、いつの間にか雨が降り出していた。
 るかさん、傘は持ってきたのかしら。まどろみながら、そんなことを思った。傘を持ってきていても持ってきていなくても、雨に濡れずに家に帰れたかどうかは微妙な時間だ。持ってきていなかったとしたら、もしかしてあの女中の子が傘を貸したかもしれない。
 どうか、雨に濡れていなければいい、と、思う。
 雨はきらいじゃないけれど、ふと、涙のようだと思うことがある。

 そう――あのとき涙で滲んで見えたかいとは、とても不安そうな顔をしていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#18】

ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、書こうとおもったら、
なんとコラボで書けることになった。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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めいこさん、青犬編3話のエピソードを回想するの巻。

このあたりから、お話の主導権がかいとくんに移ってきてます。作者のぷけさんは
あわあわしてるみたいだけど、私はすごくいいと思うんだ、かいと主体の野良犬^p^
しかし、私の書くめーちゃんはツンなのかデレなのかヤンでるのかわかりませんね。

執筆状況は、ぷけさんも言ってる通り手探りでエンディングを模索している感じです、
終盤には入ってるんだけど、先はまだまだ見えないよう……!
しかしそれすらたのしいのが、こういうコラボの醍醐味ということで。がんばるよ!

青犬編では、スーパーるかるかタイムみたいなので、こちらも是非!
ルカルカナイトフィーバー! だーめだめよ、ふー!(※虚偽記載が含まれています)

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かいと視点の【青犬編】はぷけさんこと+KKさんが担当してらっしゃいます!
+KKさんのページはこちら⇒http://piapro.jp/slow_story

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つづくよ!

閲覧数:420

投稿日:2009/10/22 17:23:58

文字数:3,435文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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