『ぐりこ』 その2

投稿日:2011/02/13 21:50:47 | 文字数:2,824文字 | 閲覧数:37 | カテゴリ:小説

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ニコニコ動画に投稿した同名の楽曲のイメージ小説です。
・楽曲はこちら→http://www.nicovideo.jp/watch/nm13594425
・歌詞はこちら→http://piapro.jp/content/aczpze6xpqjcs85r

私→ミク
センパイ→KAITO
あたりで置換して頂けると、ピアプロの投稿規約的に健康な作品として成立できるので、よろしくお願いしますw


続きを読んで頂ける場合は次の作品に進んでください。

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TEXT
 

『ぐりこ』 その2





 日曜日。曇天。午前十時八分。自宅。一戸建ての二階、ドアの取っ手に『 どぅー のっく! 』と書かれた札の下がった私の部屋、姿見の前。私は、姫だった。


 いや、自分でもワいてると思う。思うけれど、事実なのだ。


 なにしろ、白ワンピ、なのだ。


 柔らかなAライン、腰と胸の中間でかるく絞られ、胴からふとももに向かうあたりからゆったり広がって、裾のあたりにはほわっと三本、川の字にフリルがしつらえてあり控え目にスカート部分を取り巻いている。


 左の胸元には、さわやかな新緑の四つ葉を模した模様が二、三枚おどっていて、首元は柔らかにU字、肩の部分は夏らしく左右それぞれ二本のひもで鎖骨から肩甲骨まで繋いでいる。


 これを着ていて、以前は短かった髪も肩のあたりくらいまでは伸びていて、運動部ではあっても体育館での練習が中心のバスケ部ゆえ、肌もそこそこ白くて、自然なかんじではなかろうか。


 つまり今この私をして、姫でないとすればいったいなんだという。

 
 冒険ではあったのだ。いつも行く店ではなく、駅前のおしゃれな(そしてお高い)お店で二時間悩んで店員さんもろとも精神を大いに疲弊させ、悩みに悩んだ末に購入した白ワンピ…正直、英断だったと思う。
 ぶっちゃけ、似合ってる。八五点はあげていい。うん、ナイスあたし!


 と、自画自賛するのも虚しい限りだ。どうせなら同じことをセンパイに言ってもらいたい。せっかくこれから、一緒に映画に行くのだし。デ、デート、なのだし。…だし。


 たとえそれが、受験で進路に悩んだ私の相談に乗りがてら、気晴らし&洋画好きのセンパイの趣味をも満たせる一石三鳥の作戦の一環であったとしても、今日のそれはデートなのだ。間違いなく。私にとっては。


 普段ボーイッシュな格好しかせず、色気の無さを兄にからかわれる(仕返しにぶん殴るけど)私も、期待に胸がふくらむというものだ。姫にもなろうというものだ。
 イメージとしてはこう、なんていうか、楚々として清楚な感じ。


 待ち合わせ場所に早めについた私がぼんやり爪でもいじりながら所在なげにたたずんでいて、ちらりと左手首の時計に目を落とす。そこにお待ちかねのセンパイ登場。

 悪い、待ったか。すまねぇな、暑い中待たせて。
 いいえ、大丈夫です。私も今来たところですから。それよりセンパイこそ、汗すごいですよ?
 あ、あぁ、待たせるのも悪いと思って、インハイ級の勢いで走ってきたからな。ま、結局遅れちまったけど(笑) …ところで、そのワンピース、に、似合ってるぜ。


 …とかなんとか、そんな感じのアレを妄想。している間に、時計の針は無情に諸行無常、刻々とその歩みを進めていた事実にようやく気付く。このままでは遅刻してしまう。


 バタバタと準備を再開したのはいいものの、そこでさらなるアクシデンツ(複数形)発生。姿見の中におわす姫の、高貴な後頭部に控え目な自己主張。
 なんと寝グセがハネている…!


 時計を気にしながらも、母の化粧道具をひっかきまわして寝グセ用のスプレーを発見、日ごろの練習にモノを言わせて即座にピボットターン、華麗にして果敢に洗面所へ飛び込んでいく。


 年代物の三面鏡をフル活用して寝グセをロックオン、目標をセンターに入れてスイッチ、というか、スプレーの引き金を引く。無色の霧がパッと広がって、髪に微細な露を作った。


 すぐさま髪の根元をひっつかみ、多少乱暴に見える勢いで抑え込む。しばらくそのまま保持、櫛でとかして再び三面鏡を覗き込む。うん、大丈夫。…だいじょうぶ、だよね。


 できればドライヤーでダメ押ししたかったところだけど、しかたがない。このまま再度ハネっかえることのないよう、寝グセの神に祈るしかないだろう。


 今はとにかく急がなければ、電車に乗り遅れてしまう。初デートで誘ってくれた相手を待たせるのはご法度だろうし。
 かばんに家の鍵とハンカチ、財布を放り込んでから、最近ガタつきはじめた玄関を飛び出した。


 アルミ製の門をくぐり抜け、駅に向けて全力ダッシュ!したいけど、ワンピに合うように買った新しいサンダルに慣れず、うまく走れない。あぁもう、カツコツうるさいなぁ!


 内心で毒づきながらも、足は必死に動かしている。目指す先は最寄りの地下鉄、さらにその先のセンパイの下へ。

 立てば自分と同じくらいでかいレトリーバーを飼っている知り合いの門扉をスルーし、品目の半分を某・世界一有名な炭酸飲料で占めている豪気な自販機の前を失敬し、十字路を徐行していたタクシーにぶつかりかけ、全力スウェーで危機回避。地下鉄へ向けてひた走る。


 息を少し乱しながらしばらく走ると、歩道に埋め込まれた地下階段に辿りついた。


 まがりくねる蛇みたいな階段を転ばないように慎重に、しかし攻めの姿勢で果敢に走り下りてゆく。白のワンピースがひらひらと幽霊か、いっそイカみたいに舞う。

 
 階段を降り切った先、ひんやりとした地下の空気に汗が引きはじめるのを自覚するひまも無く、券売機にかじりつく。

 行先は三駅先の、大通り沿い。中心街。券売機の上にでっかく表示された路線図兼、料金表に目を通した。 『大人二〇〇円』。 小銭こぜに、財布さいふ、と。かばんを漁る。

 猫の形をした財布から、百円硬貨を二枚掴みだし、コイン投入用のスリットに押し込むみたいに突っ込んだ。

 小銭を呑みこんだ券売機が、合成音声とともに切符を吐きだした。
『ありがとうございました。当地下鉄をご利用の際は、手軽にチャージできるICカードが便利です。』知らないってば。

 むしりとるように切符をひっつかみ、改札へ。切符を通してからまた、全力ダッシュ。「××行き電車、二番乗り場に到着します」のアナウンスに冷や汗が出そうになる。お願いだから、間に合ってよ!

 コンベアよ裂けよとばかりに、最後の悪あがき、エスカレーターをかかとでガッツンガッツン鳴らしながら降りてゆく。

 乗り場に到着。

 やばい、ドアが閉まってしまう。ええい、なむさん!
 逆転を懸けてホームに滑り込む高校野球のランナーばりに必死の形相、閉じはじめたドアに飛び込んだ。

 軽くかにばさみされそうになりながらも、なんとか五体満足で乗りこむことができた。直後、車掌が車内アナウンス。これより発車ぁしあす。お立ちのぉお客様はぁ、危険ですのでぇ吊革におつかまりくだぁっさい。


 ふぅ、と息を吐き出して、隅に背中を預けた。目に入ったのは車内の中吊り広告。そこには泡を吹いて目を回したカニのイラストとともに、こう書いてあった。


『飛び込み乗車は大変危険ですので、絶対におやめください』




>>>『ぐりこ』 その3 へ続く

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