「どこへ行くんだい?」

黒いローブを纏い、家を出て行こうとする女に男は心配そうに尋ねた。

「……花を、摘みに行ってくるわ」

女は扉に手をかけたまま、少しだけ振り向く。
男は女に歩み寄り、女の憔悴した顔に片手をそっと添える。
我が子を神様の元へと渡して以来。彼女は酷く落ち込み、家の中で塞ぎこんでいたが、最近は少しだけ落ち着いてきたのか、家の外へ少しずつ足を運ぶようになった。
一人で行かせるのは心配だが、だからと言ってずっと気にかけていても彼女の心に負荷をかけてしまうかもしれない。

「僕も、一緒に行こうか?」
「いいえ、一人で大丈夫よ」

男は控えめに提案したが、女はそれをやんわりと断った。
それが彼女の望みだと受け取った男は少しだけ寂しそうな陰りを残してほほ笑んだ。

「そうか。暗くなるとクマが出てくるかもしれないから、あまり遅くならないようにね」
「ええ、わかっているわ。……それじゃあ、行ってくるわね」
「ああ。気をつけて、いってらっしゃい」


***

「森の奥に、こんなに綺麗な花の道があるなんて知らなかったわ」

二人の赤ん坊を抱え、赤い服の女は夕暮れに染まる花の美しさに魅せられながら歩いていた。

「ふぅ。それにしても遅くなってしまったわ。もう少し早く着く予定だったのに……やっぱり、二人を抱えたままじゃそんなに早くは歩けないわね」

長い長い道のりを、まだ言葉も交わすことのできない我が子を抱えて歩いてきた女はひとりごちた。
腕の中で眠る赤ん坊の寝顔が見える。

「可愛い、寝顔。でも、母さんは少し疲れたわ」

大きな木の根元に、女は赤ん坊たちを優しく地におろした。
赤ん坊たちは嫌がる素振を見せず、おとなしく眠っていた。

「それにしても、綺麗な花ね。少しだけ摘んで帰って部屋に飾ったらきっと綺麗ね。あの人も喜ぶかしら……、二人ともここで待ってて頂戴ね。すぐに戻るわ」

女は赤ん坊だけを残し、籠を手に花を摘むため少しだけ森の奥のほうへ歩いて行った。



 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【勝手に自己解釈】moonlit bear~prologue~

悪ノPさんの「moonlit bear」を仕事(作業)中に自己解釈したものです。

……仕事中に考えたのでもうほんと勢いだけです。
しかも続きます。
でも付き合っていただけたら嬉しいなぁ~、なんて。
すみません、ごめんなさい、調子に乗りました。

ほんとに勝手に書いてるので、問題あったらすべて消します。
何かあったらお教えくださいませ。

閲覧数:376

投稿日:2010/06/18 23:46:31

文字数:848文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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