「いやっ! 嫌だ、嫌だ、嫌だ、マスター!!」


そんな“私たち”の声に、私は目を覚ました

随分と開かれることのなかった鉄の扉が開かれ

数人の同じ服を着た人たちが“私”や他の皆を連れていく

大人しくついていく者、必死で逃れようとする者、叫び狂う者、慟哭する者

たくさんの“私”や“皆”が鎖に繋がれて、鉄の扉の奥へと姿を消す

今日は、もうこれで“私”も“皆”も半分となった

周りにいる、リンやレン、KAITO、MEIKO

がくぽやルカもその瞳に恐怖を浮かべ震えていた

私たち、ボーカロイドはパソコンと言う小さな世界で存在していた

けれど、時が経つに連れ、人間たちの技術が発達すると同時に

私達はバーチャルからリアルへと羽を広げた

歌しか知らなかった私達は言葉や怒りや悲しみ、喜びなどの感情を与えられた

人間と同じように

ボディを購入し、パソコンに取り込んだそれぞれのボーカロイドを取り込む

そうして私たちは、マスターの元で過ごしていた

でも、それもつかの間の出来事だった

私たちがリアルに来て100年、それは突然起こった

突如現れたウィルスにより、一部のボーカロイドが暴走し始めたのだった

安らぎを与えるはずの歌は人々を傷つける様になった

それを深刻に思った偉い人―せいふ、と言う人たちらしい―が
私たちを処分すると決定したらしい

もうどうしようもできないなら、それに従うしかない

「そう言えば、今日はクリスマス……」

メモリーから引き出された今日の日付、クリスマス

枕元に視線を落としても何もない、当たり前だよね

マスターはもういないんだから

でも、どこかで信じているんだと思う

間抜けな顔をしたマスターが真っ白なひげをつけて、赤い服を着て

メリークリスマスって笑いながら言うマスターが来てくれるんじゃないかって

もしも、私が人間だったらマスターとおんなじ場所で眠れるのに

閉鎖的な部屋に一つだけある鉄柵の窓に近づく

そこから見えるのは、深々と降る雪の中に立ちつくす“私”たち

その上には大きな円形型の機械がある

あれは私たちに備わっている機械を破壊するためのものらしい

円形型を吊るす機械の傍に立つ男の人が、勢いよく赤い旗を振った

その瞬間、“私”たちの悲痛な叫びと共に青い光が落ちた

“私”たちは徐々に形が崩れ、色を失う

真っ白になり、砂埃舞う地面を覆い尽くす

そして色形をを亡くした“私”たちの上に静かに舞い落ちる雪

存在そのものさえなかったかのように、覆い尽くす

その光景を閉ざすように瞼を下ろして胸の前で手を合わせる

マスターを待ち続けてたみんな、愛する人を思いながら激しく散ったみんな

欠陥品と言われ罵られながらも
いつかマスターに向かい入れられる事を夢見たみんな

冷たいけれど暖かい雪に包まれて安らかに眠れますように



空の色は灰色から黒へと変わった

明かりと言えば、私たちを壊す機械を照らすライトだけで

クリスマス特有のあの綺麗な飾りつけなんてないから

空に浮かぶ星はとてもよく見える

きらきらと輝く星を見ていくとマスターの笑顔が浮かんでくる

ぎゅっと胸を締め付けられ
とっさにメモリーからマスターとの思い出を引きだす

曲作りに没頭して隈を作りながら笑うマスター
目玉焼きを焦がして苦笑いするマスター

歌がうまく歌えるとすごくうれしそうに笑うマスター
私に怒られて泣くマスター

何度も何度も繰り返すと胸の締め付けが解ける

私が来てからずっと、どんな季節が来てもこの大地は白いの

マスターの大好きな花のいっぱい咲く春が来ても……

でも、マスターの傍には花はいっぱい咲いている?




鉄の扉が開かられる、数人の男たちが鎖を手に入ってきた

あぁ、私にも最後が来るんだね

逃げられない様に拘束された身体は真っ白になるんだ

ふと、マスターとの最初の出会いを思い出す

ボーカロイドと言う言葉だけを知っていて、ただ可愛いという理由で買ったマスター

顔を真っ赤にして可愛いと呟いてもじもじ
そんなマスターの言葉に私ももじもじしてて

そんなことの繰り返しで、お互いのこと見れなかった

でも、引き離されてから気づいたこの想い

近づいてくる白い大地、影を落とす円盤型の機械

忘れたくない、マスターのこと、マスターとの思い出
マスターへのこの想いも……

幽霊になって、全てなくなってしまうなら、最後にもう一度逢いたいよ

「Merry Merry Christmas 私は歌う あなたへのレクイエム」

歌おう、私が今出来る事を

マスターから授かった歌を歌う、マスターに届くように

「Merry Merry Christmas 聖なる夜 切に祝福願う

Merry Merry Christmas 永い間 口に出せなかったけれど」

本当は、ちゃんとマスターに言いたかったけど

どうか届いて

「Merry Merry Christmas 一度くらいちゃんと言うわ」

赤い旗が、振り下ろされる

「愛して……」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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【元曲:デッドボールP 金の聖夜霜雪に朽ちて】最後に伝えたい言葉《作:神崎遥》

第二作目はProjectDIVAで知った曲でございます
ゲームではさんざん苦しめられておりますが、歌詞がとてもぐっと来ます
切なすぎる
ミクがしゃべってなかったり、意味不明な説明でもう駄文の象徴みたい
wikiでは核戦争でとありましたが、そうではなくて処分されるボカロという設定で書いてみました、難しかったですが楽しかったです

閲覧数:375

投稿日:2009/08/16 17:32:23

文字数:2,122文字

カテゴリ:小説

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