──君となら。










≪ピーターパンの君と≫










──自分の存在意義とは、一体何なのだろう。
時折、そんな陳腐なことを考えてしまう。

親は、私を必要としてくれなかった。
友達なんて、私にはいない。





自分は一人。


いや、独り。





でも私は「寂しい」なんて感情もなく。
いつしか「孤独」に慣れてしまった。










──そんな、月が綺麗な夜の日のことだった。「彼」と出逢ったのは。





*****





私はいつものように独りで、自分の部屋のバルコニーから月を眺めていた。
あぁ、あの月も独りなんだ。私と同じ……。

今日何度目かもわからない溜息を吐いた。そのとき──

私の横を、黒い影がバッと通り部屋の中に飛び込んでいった。
無論、不法侵入である。

私はあまりのことに呆然としていたが、我に返り、後ろを振り向いた。そこには──





「よし! 無事着陸成功~! ……ってあれ?」


──見知らぬ男の子がいた。



*****



「あ……貴方は、誰ですか?!」
「え? ……あぁ、これは失礼。お嬢さん」


いや、今更紳士ぶられても困るんですが!?
私の心の中のツッコミを知ってか知らずか、少年は被っていた帽子を取って腰を深く曲げた。


「僕の名前はピーターパン。ネバーランドからやってきた」
「あ、私の名前はメイコです……」
「メイコ、ねぇ。とっても素敵な名前だね」
「え、あ、ありがとうございます……」
「あ、もしかして馴れなれすぎた?」
「え、あ、えっと、その……」


多分「馴れなれすぎです」と言っても、貴方なら余裕で馴れ馴れしくしそうです。
……とはとても言えないので、代わりに少し気になるところを彼に訊いた。


「えっと、「ピーターパン」ってお話が大好きなんですね……自分で名乗っちゃうほど」
「え? これ、僕の名前だよ?」
「あ、それじゃあ親がそういう名前に決めたんですね……不思議な名前、ですね……」
「え? 変な名前!? 酷いなあ」
「あ、お気に触るようでしたらすみません……
 ……それと、どうやってこの部屋に入ってきたんですか?」
「え? それはもちろん飛んで入ってきた──」
「ふざけないでください!!」


私は思わず彼に向かって怒鳴ってしまった。
彼は元々丸い目をもっと丸くして私を見つめていた。

自分にも「怒る」という感情があったのか。少し自分でもびっくりした。
……いや、今はそんなことに感激してる場合じゃないか。


「……別に、まだ名前が「ピーターパン」は仕方ないと思いますよ?
 でも、飛んで入ってきたって……ここ、20階の最上階でこのビルより高い建物ないんですよ!?
 意味不明なこといわないでください!?」
「…………」


いつも一言ぐらいしか喋ったことがないから、こんなに一度に喋って息が切れた。
でも、少しだけこんなに喋れて嬉しいとも思えた。……どれだけ自分は人と喋っていないのだろうか。

息を整えてから、もう一度ちゃんと訊いた。


「貴方は、どうやってここにきたんですか?」
「答えは変わらない。僕は飛んでここにきたんだ」
「ありえません!!」
「僕だからありえるんだ。「ネバーランド」に生まれた僕だから。
 ……証拠、見せてあげる」


彼はまっすぐな目でそう言うと、バルコニーから身を乗り出した。
その意味に私はすぐ気づき、慌てて彼を止めさせようとする。──が。





「! きゃああああああああああ──」





「──ほら、空を飛べるでしょ?」


目を両手で塞いだそのとき、私の上で彼の声が聞こえた。
私は恐る恐る、声がしたほうを向くと……自分の目を疑った。





──彼が、すいすいと空中を飛んでいる光景が映るではないか。





……これは夢!?


そうか、夢か。


私、やっぱ疲れてるのかな。


よし、寝よう。


よい子はもう寝る時間だ。


さぁ明日も退屈な一日を過ごそうでは──「ちょ、待ってよ!? なんで寝ようとしてるの!?」





……夢ではなかったらしい。










「う、嘘だ……」
「嘘じゃないよ」
「ネバーランドなんて、ピーターパンなんて、ただの作り話で……」
「ふーん、こっちの世界にも僕の勇姿が書いてあるんだね」
「ただの、御伽噺で──!?」
「それでも、僕は今君の目の前にいる。それは変わらない」


蹲りできた拳を、彼は優しく握り返した。
その手はとても温かく、一瞬でも気を緩めば……


「僕は、ここにいる」
「…………」
「お願いだ。僕を信じて」


やめて。

これ以上何も言わないで……。
そしたら、私……





「──泣いても、いいから」





──何かの糸が、プツンと切れた音がした。
次の瞬間、私の目から涙がたくさん溢れだした。


「うっ……ひっく……」
「ほら、やっぱり。心の中でもずっと泣くのを堪えてたんでしょ?」


彼──ピーターパンは全てお見通しだというように言った。
彼はただ泣きじゃくる私に両手をバッと広げて、


「僕のでよかったら、胸貸してあげる」


私はすぐに、彼の胸に飛び込んだ。
温かい。こんな感情、いつぶりだろう。ずっと昔から「泣く」なんてしたことなかったと思う。

──私は生まれて初めて、彼に「恋」をした。





*****





結局、私が泣き止むまで20分ぐらい経ったと思う。
彼の胸から離れて、彼は開口一番こう切り出した。


「よし、メイコ。ネバーランドに行こう!!」
「ふぇ……?」


いきなりそう言われるものだから、私の口からは間抜けな声が漏れた。
そんなことに彼は構わず、私に詰め寄ってくる。


「ネバーランドは楽しいよ!! 皆もメイコのこと、必要としてくれる!!」
「い……」
「確かに船長とかいるけど、大丈夫!! 僕は皆のスーパーヒーローだから!!」
「い……」
「あとねあとね!! 人魚とかもいるし、あと、あと──」
「行きます!」





自分でもびっくりするほどの大きな声で言ってしまった為、逆に恥ずかしくなった。


「あ……いや、すみませ──」
「謝ることなんてないよ!! さぁ、行こう。ネバーランドへ!!」
「は、はい」


再び急に手をとられ、バルコニーに向かった。
下を見下ろしてみると、車やら人やらが下を歩いていて少し怖くなった。

そんな私を気遣ってか、彼は優しく私に尋ねる。


「……ネバーランドに行ったら、もう二度とこの世界には戻れなくなるけど……いい?」
「……うん。どうせ私なんて、この世界には必要とされてないから……」
「わかった。じゃあ僕がいいって言うまで目を瞑ってて。行くよ……3、2、1──」


彼が「0」と言い切る前に、私の体はピーターパンと共にバルコニーの柵を飛び越えたのだった。










「──いいよ。目を開けて」


私はゆっくりと瞼を開けた。
そして、自分の目に映る光景に一瞬戸惑いながらも、歓喜の声を上げる。


「すごい! 私……空を飛んでる……!!」
「ふふ。さぁ、行こうか。ネバーランドへ」
「うん……!」


私たちはお互いの手を握ったまま、空を飛んでいった。
さぁ、目指すはネバーランド。私の新しい世界へと。






























『朝のニュースです。
 昨晩、ビルの20階から咲音メイコさん(17)が飛び降り、死亡しました。
 警察は女の子の死亡動機を──』

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カイメイ】ピーターパンの君と

「ピーターパン」





なんかノリで書きました。
最後の意味がわかった人はぜひ私に。
(私の質問に答えてくださった瑠璃さん、ありがとうございました!!)

閲覧数:1,170

投稿日:2012/10/21 15:48:23

文字数:3,142文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

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  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    これを読んで某童心少女を思い出したのが私だけであることを信じたい←
    …まさか?某お星さまと街が絡んでるんじゃないだろうn
    ☆『君はそろそろ現実に戻った方がよいのではないのかね?』

    しかしブクマ数スゴイな!
    こないだ自分も五つ目の注目入りましたけどどれもこれも最低数の三つだよくそう。
    注目入るだけマシと考えた方がいいかもしれないけどさwww

    2012/08/31 22:25:09

    • 雪りんご*イン率低下

      雪りんご*イン率低下

      某童心少女ww
      いえいえ、まさかですよ?www
      うぉww某お星様きたww

      自分も驚異のブクマ数に驚いておりますww
      瑠璃さんには「アフォなんじゃ…?」とおめめきらきらで言われましたww

      2012/08/31 22:38:31

  • 美亜 瑠璃

    美亜 瑠璃

    ご意見・ご感想

    あぁぁぁぁぁ!なんてセンス溢れるオチ!しかも読み違えた\(^o^)/

    オチを読み違えた瑠璃です。くっそう。


    全てはめーちゃんの幻想で、カイトは最初からいなかった。めーちゃんはプリンス的な存在とネバーランド的なとこに行きたくて、幻想によって現実をねじ曲げて\ピョーン/かと…

    ちょっと簡単すぎたか…ぬん


    カイメイ最近読んでなかったんでそういう意味でもおいしかったです!いやぁカイメイうまいっす。

    ブクマいただきます!おいしい作品ありがとうございました(・Д・)

    2012/08/31 11:30:24

    • 雪りんご*イン率低下

      雪りんご*イン率低下

      せ、センスなんて溢れてませんよ! それより瑠璃さんたちの作品のほうがセンス溢れてます!

      やっぱり読み終わって幻想or妄想と思われる方多いですねー。
      幻想ねじ曲げて?ピョーン/wwwなんかどこぞのシリーズを思い出したのは私だけでしょうかww
      まぁ、ネタバレするt(ryですねw

      ブクマありがとうございます!
      お、おいしくありませんよ!! いろんな意味で!(((←

      2012/08/31 17:48:23

  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    こんばんは。
    「ピーターパンって何?」と思ったバカがここにいます←

    ひゃあああ!カ、カイメイで童話…だと!?なんて俺とk←
    まさか、私のためn(((←

    なぜか、悪ノP様の「ウェンディ」という曲を思い出しました。

    全部めーちゃんの妄想っていったらめーちゃんが可哀想…あ、めーちゃんが呼んでる…え、その手は何じゃんけんじゃないよn(アッー
    または魂だけネバーランドにいったとか。
    どっちにしたって正解ではない。
    じゃあなんだろう…うーん。

    隊長!!ブクマをいただきま……え、カイトがネバーランドに連れていってくれるって?
    待って、まだ準備ができてn
    「とりあえず黙ろうか!」
    「ぐはっ!」
    (ゆるりーは某教師にチョークアタックされて、無理やり連れていかれました)

    2012/08/30 21:17:25

    • 雪りんご*イン率低下

      雪りんご*イン率低下

      そのコメントを見て一瞬「ピーターパンって何だっけ?」と思ったバカがここにいます←

      え? いえ、私のためでs(((←

      あ、若干その曲のネタを使ってたりします。
      てへぺr(((殴

      きゃあああああゆるさんがあああああ!!!
      正直にネタバレすると、
      ウェンディならぬめーちゃんはネバーランドに行くことを決意。
      でもピーターパンならぬ兄さんは妖精ちゃんの粉を持っていなかったため、めーちゃんは飛ばせることができない。
      それで、身体だけは落下死させて幽体をネバーランドに連れて行った……。
      ようするに、「魂だけネバーランド」にいったですね。

      『夜のニュースです。
       今日の昼、?歳のゆるさんが××から飛び降r(ry

      2012/08/30 21:39:43

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