[B区画 森エリア]
 ルカが近くにいる。なぜかミクは、このことがとてつもない脅威に感じた。
「…どうする?このまま連戦するの?」
「いや、逃げましょう」
 迷うリンに、ミクはきっぱりといった。
 なぜだろう、今ルカに遭遇してはいけない気がしたのだ。この感情は不安か…恐怖か…。
 その様子に気づいたのか、レンもミクに同調する。
「…うん、ここはいったん戻って…」
「どこに戻るって?」
 突き刺さるような声。三人共よく知る声…。
 すでに遅かった。振り向けばそこには…ルカがいた。
 その目はまっすぐ、ミクを見ていた。
「さすがよね、ミク。メイコさんやカイトさんを倒したんだから」
 ミクの頬を冷や汗が伝う。
 ルカは続ける。
「…でもね…それが何を意味するのか、当然あなたは分かってるのよね?」
 きつい言葉が放たれる。
 ミクは言い返すことができない。
「私はね、このゲームを、目的達成のために動いてる」
 淡々と、ルカは語る。
 ミクはルカに気付かれぬよう、そっと双子に小声で話しかけた。
「…そのうえで、あなたは一番邪魔な存在なの。…そう、私利私欲でリンちゃんとレン君を従え、ゲームに勝とうとするあなたはね。だから…」
「「「『リンレンラリリン』!!」」」
 ルカがすべて話し終わる前に三人は攻撃に出た。
 不意打ちだ。三人のそれぞれのマイクから出た光線は一つとなり、ルカに容赦なく襲いかかっていく。
 たとえ対応できたとしても、この威力はそう簡単に…。
「『魔女』!」
 ルカはやはり予想をしていたらしくすぐにマイクをだし、歌う。
 そして。
 ルカの光線は…三人の合力を…粉砕した。いとも、あっさりと。
「…!」
 ミクは絶句する。リンも、レンも。
「まさか、この程度なのかしら?」
 ルカの表情は今までに見たことがないくらい…静かで、暗い。
 思わずミクは後ずさりしてしまう。
「…ミクは、人間になりたいのかしら?」
 ルカが問うてきた。
「そ、そうよ!私は勝ち残って人間になる。もう、それしか道はないの!」
 ルカに圧倒されつつも、ミクはそれに負けないようにと声を張り上げた。
「無理よ、私がさせない」
「…な、何を…」
「私の目的のためよ。さっきも言ったけど、少なくともミクは…邪魔なの。ここで脱落してもらうわ」
 ルカはマイクを構えた。…だが、歌おうとしない。
「かかってきなさい。あなたの…決意を知りたい」
 殊勝な言い方に、ミクは怒りを覚えた。
 やってやる、一人で。
 双子を引かせ、前に出る。
「『SPiCa』!」
 ミクは大声で歌った。それに比例し光線も太くなる。
「『独房ステラシアタ』!」
 ルカがワンテンポ遅れて歌い…あっさりミクの攻撃をはねのけた。
「この程度?」
 ルカの挑発。
 さっきまでのミクなら怒り狂って攻撃を乱射し始めただろう。
 …だが、今は違う。なぜ。なぜこんなにも力の差が。
「このマイクはね、どうやら、気持ちの入れようも比例して威力に換算されるみたいでね」
 ルカが淡々と説明する。そして、つまりね、と、ミクに突き刺すように言葉を放った。
「私の攻撃に負けるようじゃ、しょせんその程度の意志なのよ」
 その程度の意志。ミクにしっかり刺さった。
 私は人間になりたい。
 なぜ?どうして?
 思えばそうだ。ミクは、どうして人間になりたいかなんて、考えていなかった。
 …ただ、それしか道が見えなかったから。そうするしかなかったから。
 そこまで考え、ミクは首を振る。ううん、私は人間になりたい。ボーカロイドの道を切り開いた身として、絶対に…負けるわけにはいかないんだ!
 キッと、ミクはルカを見た。ルカ姉に…勝つ!
「『バビロン』!」
「『トルエン』!」
 はねのけられる。
「『百年夜行』!」
「『Hello,Worker』!」
 相殺される。
「…『トリノコシティ』!」
「『Blackjack』!」
 消される。
 ミクの攻撃を、あっさりと捌いていくルカ。
「…もう終わり?」
 ルカはこの程度か、といわんばかりの様子だ。
「…じゃあ、そろそろ終わりにしようかな?『ワンダーラスト』!」
「く…『初音ミクの激唱』!」
 ぶつかった光線は…あっさりルカに軍配があがり、
「嫌あああ!!」
 ミクの身体にとても強い痛みが走り、体が宙に浮く。マイクが手から零れる。意識が…薄れていく。
「あなたは…私に勝てない」
 最後に聞こえたのは、このルカの言葉だった。



「『Palettle』!」
 ルカはとどめといわんばかりに、ミクのマイクめがけて攻撃を放った。
 だが。
「『sigh』!」
 今までずっと見ているだけだったリンがここで動き、ルカの攻撃の軌道を変えた。
「ミク姉は、負けさせないよ!」
 リンはルカを見てそう叫んだ。
 ルカは、そんな態度のリンを見て、目を細める。
 …一体リンちゃんは何が言いたいのだろうか。そんな疑念がルカに芽生える。
 レンが、倒れたミクの前に立ちふさがるようなポジションをとる。
「…あなたたちはなぜ、ミクの味方をしているのかしら?」
 優しく、それでいて鋭く視線をそらさず、ルカは双子に尋ねた。すぐにリンが答える。
「私たちはゲームの勝利に興味はないの。レンと戦いたくないから」
 その回答に大きくうなずくレン。
 ルカには…いや、ルカもミク同様、その意味を理解することができない。
「あなた、ミクを勝たせることが…」
「それで自分が脱落するってことになることなのは分かってる。それでもいい、いいんだ。リンと一緒にいられるなら」
 ルカの言葉をレンが遮り、強く、はっきりと彼は喋った。
 それはレンの切実さが伝わるものであり、同時にルカの目をさらに鋭くさせるものとなった。
「だからミクに協力している、と?」
 ルカが静かに言った。頷く双子。
「だったら、」
 それを見たルカはすぐさまこう言い、一旦間をおいてからゆっくり言った。
「…私と一緒に戦わないかしら?私はこのゲームを、ある目的を達成するために戦ってるって、いったわよね。もうミクは戦えないし、私も余計なことはしたくない。…どう?」
 沈黙が流れた。
 双子は確認するように互いを向き…頷きあう。
 リンが口を開いた。
「私達は…」
 その答えは。
「…嫌だ」
 ノー、だった。
「…どうして?」
 ルカは冷静に尋ねた。
 応じてリンも静かに答えた。
「…ごめん。ルカ姉を信用してないわけじゃないよ。…でもね、私たちはミク姉の味方をするって決めた。本人にそのことを話したし、実際、今までミク姉に助けられてきた。…それをあだで返したくはないの…だから!」
 リンが言い終わると同時に、レンがマイクを構えた。
 ルカはリンの言葉に注意を向けていてレンの行動は全く見ていなかったのだが、彼は二人の会話の間、ミクを避難させ、自分は戦闘態勢に入っていたのだ。
「『囚人』!」
 レンが歌う。光線はルカにまっすぐ飛んでいた。
 反応が遅れたルカはよけきれず、攻撃は脇腹に命中した。
「…っ!」
 ルカの顔が少し歪む。続けざまにリンが動いた。
「『紙飛行機』!」
 しかしリンは光線を自分の足元めがけて撃った。目くらましのつもりだ。
 リンの攻撃の方向で意図に気付いたルカではあったが、脇腹のダメージが邪魔をし、さらに街の路上の時のそれとは違い、土に交じっている石などがルカの行動を阻んだ。
 ルカの視界が晴れたとき、三人はもういなかった。


 おそらく、三人は徒歩。つまり今すぐ追えばおそらく追いつけるだろう。
 だが、ルカは追わなかった。実力は上だった…とはいえ、一応三対一なわけだし、ダメージもある。深追いは…よくない。
 加えて、ルカにはもう一つ、三人を追う前にやりたいことがあった。
 実は戦っているときから感じていた、四人目の気配。
「…さて、いつまで隠れているのかしら?」
 大声で、プレッシャーをかけてみる。
 わずかだが、茂みの揺れる音がした。
 それを察知したルカはすぐに動く。
「『ワンコール・ラブコール』!」
 射抜くように光線が走り、茂みから人影が現れた。
 和服で、大人びた女性。
「ミズキさん…か…」
 ルカは呟いた。
 ミズキは慌てて立ち上がり、マイクを取り出した。戦う気なのだろう。
「…待って。話がある」
 ルカがそれを止めた。ミズキが意外そうに目を丸くした。
 おそらく、このまま戦っていたら。ミズキ的な考えなら、明らかにルカの勝利だった。だから彼女はこの場をいかに切り抜けるか、その事だけを考えていた。
 だがルカは戦おうとしなかった。一体…何を考えている…?
「一つ、聞きたいんだけど、」
 ミズキが色々考えをめぐらせているうちに、ルカが話し始めた。
「あなた…ずっと隠れて、何をしていたのかしら?」
 静かなルカの声からは、何かプレッシャーを感じた。まるで、この後のミズキの回答次第で、自身の運命が決まるような…。
「…私は…ずっと、ミクさんたちをつけていました…」
 まるで犯行を自主するかのように、ミズキは言った。それだけルカに気圧されていた。
 …そう、ミズキはあの後、ずっとミクの後を追い続けていたのだ。つまりは尾行だ。
 それを聞いてルカはふうむ、と考え込む。ミズキは半ば祈るようにルカを見ていた。
 ミズキは当然知る由もないのだが…ルカの考えていたことは、一言で言ってしまえばこうだ。…ミズキは、信用できるのか?
しばしの沈黙。はたしてルカは口を開いた。
「…まあ、いいでしょう。…ミズキさん、あなたにも協力をお願いしたいわ。実はね…」
 ミズキがルカから聞いたのは…彼女の意外な考えだった。



「…いいかしら?あなたは、引き続き、ミクたちの監視をお願いしたい」
「…分かりました」
 ミズキは素直に従うことにする。
 正直に言ってしまえば、このルカの計画に乗ってしまうのは好ましくない。…ただ、ここで計画を否定する、もしくは自分が本当は人間になりたくて尾行をしていたということがばれてしまえば、ルカと戦うことになってしまう。どうしてもそれは避けたかった。
 むしろ彼女は、この作戦に乗っかったふりをして、このゲームを勝ち残るという思いに至った。
「では、さっそく私はいきますね」
 ミズキはすぐに踵をかえし、ミクを追うことにした。
 ルカは小走りに去っていくミズキを見送ってから、フォンを取り出した。
 ある人に電話を掛ける。コール音の中、ルカは考えをまとめる。
 ミズキは、監視役として使えるだろう。このままミクを止めるために、彼をミクの元に向かわせる。当然、彼も裏の考えを持っている可能性だって否めないから、ミズキにそれを見てもらうことで…私に危害はなく、かつ安全に計画を進められる。
 作戦は、現在は順調だ。このまま…。
「もしもし、ルカ殿か?今度は一体どうしたのだ?」
 電話越しに聞こえたのは、がくぽの声。ルカはこの前、彼を味方につけていたのだ。
「いきなりごめんね、がくぽさん、実はちょっと頼みがあって…」
 なんなのだ、と問うがくぽに、ルカははっきり言った。
「…ミクを、倒してほしい。できれば、リンちゃんとレン君を巻き込まずに」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

BATTLELOID「STAGE5 衝突する目的」

注釈は「BATTLELOID BEFORE GAME」を参照してください


三人の前にさっそうと現れたルカ。
彼女はどうやら何か企んでいるようで…。


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投稿日:2014/06/28 22:34:39

文字数:4,627文字

カテゴリ:小説

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