16.脱出

 そこにはふるふると怯えている少女の姿があった。
シンデレラの予想なら、そこには真っ黒なモノが転がっているはずであった。
「ご ごめんよ」
小動物のように怯えている少女を見て、ついシンデレラは謝ってしまった。

「なんともないの? 体……大丈夫?」
怯える少女に対して、めいっぱい優しく質問を投げかけてみる。
少女はコクンと首を縦に振った。

――どういうこと?
シンデレラは自身の電圧を相手の体に害を与えない程度まで下げて、
再び少女の手をとってみた。

少女はまったく平気な顔をしている。
「どういうこと? つまりこれって……そんな、まさか!?」
自分の手を握ったまま、ぶつぶつとつぶやきながら、
思考の波を漂っている目の前の女性を、キョトンとした顔で少女は眺めている。

遺跡の内部では、爆発音や他のライジュウの鳴き声が響いている。
我に返ったシンデレラは、数多くの疑問はとりあえず、後回しにしておくことにした。
「よし、とりあえずここから逃げるよ。感電しないならかえって好都合だ」
シンデレラは少女を抱きかかえると、行き止まりの廊下の突き当たりの壁に向き直った。

「道、全然わからないから、一直線に外まで出るよ」
再び、シンデレラの体から赤い雷が放たれる。
同時に右手に持っていた刀の刀身が、みるみる真っ赤に染まっていく。

「いよっしゃー、それじゃいっくぞー。舌噛まないように気をつけろよ」
少女がどう舌を噛まないようにすればいいのかを考えつく暇もなく、
真っ赤に染まった刀は、壁に向かって振り下ろされた。

目にも止まらぬ速さで右手を振り回し、右に左に赤い光の軌跡が描き出される。
すると、行く手を阻んでいた分厚い壁が、いともたやすく崩壊し道を作りだした。
シンデレラは少女を抱えたまま、その道をまっすぐ走り出した。

再び、目の前を分厚い壁が遮るが、お構いなしに走り続ける。
今度は、シンデレラは足を止めることのないまま、再び赤い軌跡が描き出す。
道は次々と作られ、二人は一気に月明かりの照らす外までたどり着いた。

「ふー、もう安心かな」
シンデレラが一息つこうとした時、背後にたくさんの視線を感じた。
嫌な予感をさせながらも、お約束とばかりに後ろをそっと振り返ってみる。

これまたお約束とばかりに、たくさんのライジュウが
今にも襲いかからんという様子で待ち構えている。
「よっしゃ、相手になってやんよ……と言いたいところだけど」

シンデレラはチラッと左手で抱えている少女に目をやる。
――今はこの子がいるから、ちょっと戦えそうにないな。ここはやっぱり……

再び、シンデレラは獣の群れをにらみつけた。
獣たちは野生の本能なのか。
対峙しているこの人間の存在の強大さを感じ取りたじろいでしまっている。

にやっという嘲笑の後、シンデレラは目の前の敵に背を向けて、
目にも止まらない速さで森の中に消えてしまった。
あっけにとられている獣たちは、しばらくして我に返り、
後を追うように森に次々と入っていった。

 森の中、すっと物陰に身を隠し、ようやく一息ついたシンデレラは少女を見た。
「もう、大丈夫だと思うよ……ん?」
やけに、さっきから少女がおとなしい気がする。
そういえばなんだか、少女はぐったりとして力が入ってない気がする。

シンデレラは少女の顔を覗き込んでみた。
少女は白目をむいて、口から泡を吹いている。
「わーーー」
慌てて大きな声を出してしまう。

すぐに声を聞きつけたライジュウたちがその場に駆けつけるが、
そこにはすでに二人の姿はない。
ライジュウたちが集まって来た場所のすぐ真上――
木の枝の上にシンデレラは飛び移り、ライジュウたちをやり過ごしていた。

「しまった、高速で走りすぎたか……気絶しちゃってるな、こりゃ」
獣たちに聞き取られないくらいの小声で、シンデレラは独り言をつぶやいた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

紅のいかずち Ep0 ~シンデレラストーリ~ 第16話 脱出

紅のいかずちの前章にあたる、エピソード0です。
この話を読む前に、別テキストの、まずはじめに・・・を読んでくれると
より楽しめると思います。
タグの紅のいかずちをクリックするとでると思います

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閲覧数:112

投稿日:2009/11/21 22:56:09

文字数:1,624文字

カテゴリ:小説

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