歌姫が集落から消えて数日が経った。

「まぁいいんじゃないの、ルカが一緒なんだったら」

 確かに、ルカが一緒に姿を消していたことに気付いた時は、カイトも安心した。ルカがすべてを知っていながらカイトたちに何の相談もしなかったことは納得がいかないが、ミクの性格を考えれば、下手に引きとめるよりは黙ってついていった方が安全だろう。
 今回のミクの家出に関しては、おそらくカイトたちも当事者なのだろうし。

 百歩譲って、今回の家出に関して納得したとして。メイコのやけ酒に付き合わされている理由が、全く分からない。

「そのうち帰ってくるわよ。ミクは私たちと違って、一度裁判にかけられて公開処刑されかけてるのよ。その上、ミクを飼ってた奴も、今じゃ結構なポジションにいるらしいじゃない? 「魔族」の中でも一番の賞金首だって」

「だから危険なんだろ!」

 楽天的にもほどがある。
 ミクのかつてのご主人様が、彼女を捕らえた後どうするつもりなのかは分からないが、この集落へ帰ってくることは出来ないだろう。ルカも殺される可能性が高い。
 まぁ、ルカに限って、そんな簡単にミクを捕らえられるようなことはないと信じたいが……。

「でも、ルカがいない今、私たちまで集落を離れたら、誰がここを守るのよ?」

 そう言われてしまえばその通りで、結局カイトもメイコも、彼女の帰りを待つ以外にないのだ。カイトは溜息をついて、窓の外を見た。

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 窓から差し込む光に、目を細める。もう一度眠りに落ちようとして、しかし冷たい空気のせいで意識は徐々に鮮明になっていく。

 ここはどこだろう。そう考えると、一気に眠気は吹き飛んだ。慌てて飛び起き、窓の外を見る。日が高い。
 結ばれていないらしい翠の髪が、ベッドの上に落ちている。当然、フードは被っていない。賞金稼ぎが見れば、その色だけで「彼女」だと気付かれてしまう。

「そうだ、私……」

 夜の闇の中で、山道から足をすべらせてしまったのだ。不覚だった。
 転ぶことは元々人より少し――いや、かなり――多かったが、よりによってこんなときに、ルカの身体能力でもどうにもならないほど盛大に、崖にも近い下り坂へ向かって。
 自分があまりにも情けなくて、泣きたくなる。それでも、集落を飛びだしたことを、後悔はしていない。

 身体のあちこちに打撲やかすり傷があるらしいが、動けないほど大きな傷はない。そして、どれも丁寧に――包帯の巻き方なんかはかなり下手だったが、雑というわけではない――手当がされてあった。
 ルカが追い付いて手当をしてくれたのだとしたら、民家の中にいるのは不自然だ。ならば、誰だろう。

 そこまで考えたところで、扉が開いた。

「あ、気が付かれましたか?」

 高く明るい、無邪気な音色。昼下がりの日差しの中で、鮮やかに輝く金髪。くるくると回る大きな蒼い瞳。
 その顔を見て、ミクは眼を見開いた。

「レン……!?」

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【小説】サーチライト 2

ようやくのご登場。うちのミクは運動音痴設定で……。まぁダンスは別です。

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投稿日:2010/01/01 19:32:27

文字数:1,235文字

カテゴリ:小説

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