ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、
なんとコラボで書けることになった。「野良犬疾走日和」をモチーフにしていますが、
ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてP本人とはまったく関係ございません。
パラレル設定・カイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手はかの心情描写の魔術師、+KKさんです!

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【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#23】


 あなたが私の肉親から、身内から、友人から、恨まれるようなことになるのが、一番耐えられない。
 そんなことになるくらいならいっそ――。
「私……」

 あなたじゃないひとのところに、およめに行きます――とは、いやだいやだと泣き叫ぶこころが、その先を言わせてはくれなかった。
(約束だったものね、そんなにかんたんに破っていいものだと思ってなんていないわよ)
 かいとに再会してから、かつての幼い約束を思い返すことも多くなった。むしろ、もうこれ以上約束を破ってはいけないはずなのに、と、自分を戒めることばかりだった。
(でもね、不可抗力って、あるのよ)
 どうにも抗えない、外からの圧力。たびたびのしかかってくるその重圧に、厚い鋼鉄の鎧を纏っていたはずの私のこころは、もう限界まで薄く脆くなっていた。あと一歩で壊れてしまいそうなほど。すこし爪でひっかいただけで、倒壊してしまいそうなほど。
 その最後のひとつつきは、せめて私の手で、と、思うのは、『誰の圧力にも屈しなかっためいこ』を守ることになるからかしら。私が私自身で私のこころを壊すなら、それは誰のせいでもない。自害と一緒だ。そうすれば、だれに責任を負わすこともなく、私はこの想いを、きもちを、こころを、捨てていける。
(ごめんなさい、かいと)
 この先を口にしてしまえば、もう私は、あなたを想い、あなたに想われていためいこではいられない。
 すうと息を吸って――

「お嬢様! 私どものことなど、心配する必要はありません!」

 私がなにかを言う前に、場に届いた声の凛とした響きが、耳を震わせた。
 声の方に目をやると、使用人の女の子と、るかさんがこちらに歩いてくるのが見えた。ふたりとも、いつになく必死な表情だ。どうしたことだろうとうろたえながらも、女中の女の子に目を向けると、肩で息をして、膝に手をついて、あきらかに疲れた様子の彼女から、すこしの安堵が見て取れた。走ってきたのだろうか。額に汗が光っている。
 そして、るかさんと目が合う。微笑まれた表情は、まるで、海外の画家が描いたという聖母のようだった。
「さあ、ここは任せて行ってくださいな。もうあまり時間がありませんわ」
 そして、すぐに私の手をとる感触。これはかいとの手だ、と、見なくてもわかる。そのまま引っ張られるかと思ったけれど、はたしてそんなことはなく、きゅっと握られたまま、私たちは微動だにしない。否、動けない。
 るかさんは、やんわりとした笑みを浮かべたまま、私たちと紫の男の間に立ち、とびきり上品な声で、その男に声をかけた。
「――久しぶりですわね、神威の方?」
 とびきり上品なのに、たくさんの憂いが含まれる声で。
「お前……!」
 めぐりねの、と、言った紫の男の表情は、いままで見たことのあるあの男の表情の、どんな表情よりも苦渋と痛みに満ちていた。そのことに、今更ながら大いに驚いた――なんだ、あのひと、ちゃんと人間らしい表情もできるのじゃない。
 さっと傍に寄ってきた女中の子が、私の、かいとに握られている方ではない方の手を取る。
「今のうちに行ってください、お嬢様。本当に私どもは大丈夫ですから」
「そ、そんなこと、できるわけっ……」
 できるわけない、と、言おうとして、真剣な瞳に気圧された。私の考えが至らないばかりに、さっきまでこの子を――この子たちと同じ使用人たちの未来までも、閉ざしてしまおうとしていたのに。
 それなのに、この子はわかっているのだろうか。わかっていて、私を逃がそうとしているのか。
「そんなこと、咲音の家の者として、できるわけないじゃない……!」
 思わず、ぎゅうと握ってしまいそうになった、かいとの手をほどく。名残惜しいぬくもりに、思わず下唇を噛む。ほろりと涙すら落ちそうになって――
「めいこ」
 そのひとことに、慌てて視線を彼女――るかさんに戻す。相変わらず私たちに背を向けたままのるかさんは、背筋もしゃんとして、臆することなく男を見据えている。
「彼女の言うとおり、全て何の問題もなく進んでいますの」
 まるで、目を合わせながら話をされているような錯覚に陥った。そのくらい、やわらかくて、やさしい、いつものるかさんの声だった。
「そもそもこの婚姻の意義は、咲音家が抱える企業の財政立て直し策。それならば、咲音の家に、神威以上に条件のよい援助者があらわれれば解決する話でしたのよね」
 はっと息をのんだ。
「巡音は、財力では神威の家には到底かないません。ですが、この界隈での人脈網でなら、咲音の家を多く援助することができます」
 巡音と神威は、咲音が台頭する前からこの地でしのぎを削っている大家だ。他の家や企業を取り込む形で財を蓄えた神威と、多くの業界に伸ばした脈を駆使してのし上がった巡音。まだ若手・中堅程度の咲音の家からすれば、どちらが背についてくれたとしても、変わらない。むしろ、いずれ吸収されるかもしれないと怯えながら神威の下に着くよりは、たとえ没落したとしてもその人脈に活路が見出せる余地のある巡音の方が、援助を受ける者としては条件がいい。
「神威による吸収という形ではなく、協力関係として、巡音は咲音を援助することにきめました。咲音の当主にも、すでに了解はいただいています――ですから、お家のことは心配しないで、そこの彼に養ってもらいなさい」
 それでも、援助をする側――巡音にとっては、なんの利点もない話だ。既に神威につくことがきまっているも同然の、咲音の家をひきとることが、るかさんたちにとって益になるかといえば、はなはだあやしい。
 それとも、そこまでして、私を逃がしてくれようというのか。これをきっかけに、巡音が神威を敵に回すかもしれない。それは想像以上のおおごとだ。それならなおさら、この恩は受けられない。大きすぎる恩を返すことなんて、私にはできない。
 反論を返そうと口を開くが、それより一瞬早く、るかさんが声を出した。
「めいこ、それから濡れ鼠さん」
 袖をふわりと舞わせて、るかさんは、春の桜のように、ささやかな笑みを浮かべた。
「落ち着いてからで構いませんから、お手紙くださいね」
 るかさんは、私が自分の家に帰るときと同じように、少しだけ首をかしげた。まるでいつものように、「またいらっしゃいね、めいこ」とでも言うように、別れの言葉を放つるかさんを見て、私は気づいた。

 るかさんは、家の利権とか、そんなことを考えてこんなことをしているんじゃない。
 きっと、それは、もしかしたら、私の都合のいい勘違いかもしれないけれど。
 あのひとは、ただ、友人の――私の――しあわせを願って、ここまでしてくれるのだと。
 気づいて、泣きそうになった。

「ありがとうございます!」
 ふたたびとられる手。
「行こう、めいこ!」
 拒むことなんて、ない。
「っ……」
 ありがとうも言わないうちに、泣くことはできない。ぎゅっとくちびるを噛みしめて、かいとに頷くだけ頷いて。走り出したかいとの歩幅にせいいっぱい遅れをとらないように踏み出して。
「ありがとう、ほんとにありがとうっ……!」
 頑張ってそれだけ叫んだ声は、きっと、追い風に押し返されてしまって、届いていないかもしれないけれど。
 舞う砂埃の中を、ただ駆ける。こんな時だというのに、私は、幼い頃、手を繋いで青く晴れ渡った空の下、二人笑顔で駆けたしあわせな日々を思い出していた。
 ただ、昔と今ですこしだけ違うのは、今の私の頬が、堪え切れなかった涙でぬれていたことくらいだろうか。


 めーちゃん、めーちゃん。
 なあにかいとくん。
 ぼくね、めーちゃんのことだいすき!
 ふふふ、あたしもかいとくんがだいすき!
 ねえ、めーちゃん。おおきくなったら、けっこんしようね。
 うん、やくそくよ。ずうっといっしょよ。
 うん、やくそく。

 じゃあ、ゆびきりしよう! めーちゃん、こゆび、だして! ……ゆーび、
 あ、だめよ、かいとくん、まって。せーのでいっしょにいわないとだめなのよ。
 そうなの?
 だって、やくそくはひとりでするものじゃないから、って、かあさまがおっしゃっていたわ。
 そうなんだ。
 せーのでいい?
 うん。
 せーの、

 ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます!


 何も知らないまま大人になることなんて、できなかった。壁を自覚すればするほど、それを避けて通るようにして生きてきた。自分から壊しに行かなかった壁は、どんどん肥大化して、手がつけられなくなって。それでも、たくさんのひとに手伝ってもらって、砕いてしまった。
 それがいいこととかわるいこととか、そんなこと、考えるだけむだなのだ。だって、もう賽は投げられた。立ち止まることも、振り返ることも、戻ることも、できない。してはいけない。そんなことしたら、私がここに来るまで手伝ってくれたみんなのきもちが無駄になる。
 何を泣いているのか。私は。みんなに申し訳ないとでも思っているのか。違うでしょう。
 私が今すべきは、謝罪じゃなくて、感謝でしょう。
 泣きながら走っていたから、息がくるしい。涙は止まったけれど、それでも、呼吸をもとに戻すには容易じゃなかった。ほどなくして、かいとが足を緩めるのに合わせて、こちらもゆっくりと進んでいく。
「めいこ」
「なに……?」
 慌てて目元をぬぐうけれど、どうせ目のまわりは赤くなっているのだろうと思いなおす。泣いている最中のような、くしゃくしゃな顔を見せなくていいだけましだと思えばいいのだ。意を決してかいとを仰ぎ見る。
「あー……えーっと……」
「なによ、自分から声をかけておいて」
 はっきりしないわねえ、と言って溜め息をついてやると、かいとは、すこしだけ頬を染めながら、こほんとわざとらしい咳ばらいをした。
「うん、と……あのさ、またあの時みたいにさ……その」
 見詰めてくる瞳は真摯だが、その表情といい声といい、せわしなく動いている手といい、自信のなさが全面にあらわれている。そわそわと落ち着かなげなその仕草を見ていると、なにやらこちらまで緊張してしまうけれど――
「指きりとか、しない?」
 ……なにをいわれるのかと思ったら。
 思わず笑いがこみ上げる。隣のかいとはといえば、慌てたようすで目をそむけて、口を引き結んでいる(……あ、耳まで真っ赤だわ)。
 くいとその袖を引っ張ると、なんとも複雑そうな顔で見られた。……そんな顔しなくてもいいじゃない。
「――いまさら、なにを約束するの?」
 小指を差し出しながら言うと、下がったままだったかいとの眉尻が上がり、すこしだけ眉根に皺ができた。
「いまさらって……俺、本気なんだけど」
「だって、ゆびきりした約束は破ってばかりだったから、もうかいとは私との約束は懲りたかなと思って」
「まさか。全然足りないぐらいだよ」
 お互い口では憎まれ口をたたきながらも、笑い合う。
 大きさの違う小指をからめる。
「じゃあ、俺はこれからどんなことがあってもめいこと一緒にいることを約束しようかな」
「それなら私は、二人一緒に幸せになることを」
 二人顔を見合わせて笑う。もうほとんど止まっていたも同然の足は、自然と二人一緒に動きを停めた。
「結局同じようなことだね」
「それなら、きっと約束の効果は倍になるわね」
 本当にそうなることを願って、息を吸い込む。もう一度約束をするために。合図をしたわけでもないのに、それはかいとが息を吸うのと同時だった。

「ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます!」

 心地よく重なる声。
 もう、このひとしかいない、と思うには、じゅうぶんすぎるほど、みたされた響き。
 ゆびきった、で、一度手を離し、かいとがもう一度手を差し出してくる。今度こそ迷わずその手を取った。
「よし、行こう」
「ええ、行きましょう」
 やっと、歯車がかみ合った。そんな感じがした。いままでぎすぎすと居心地悪くしていたものが、きちんとおさまっていく。あるべきものが、あるべき場所に落ち着いていく。そんな安心感が、私を包む。
 不意にかいとが振り返る。
「どうしたの?」
 再び前を向いたかいとは、一度だけ首を横に振って、また走り出す。私も、それに合わせて足を速める。しあわせすぎて、とろけてしまいそうだった。満ちたりたこころに、臆病風が吹く暇もない。

 きっと、もう何が起きても大丈夫。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#23】

ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、書こうとおもったら、
なんとコラボで書けることになった。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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めいこさん、かいとくんと再びゆびきりをするの巻。

相変わらずぷけさんのターンです。やっぱりめいこ視点にしただけだよ!(笑
ぷけさんのおかげで甘い蜜を吸えてます^p^←
企画もちかけた側なのにへっぽこでサーセン。

さて、皆の協力でがっくんを退けたかいととめいこ! 本当にこのまま逃げ切れるのか!
次回、野良犬疾走日和 24話「『支払いはまかせろ!』『やめて!』」
来週をお楽しみにね!

……おおいに虚偽記載をふくむ嘘次回予告サーセン。ってこれ前も(ry

青犬編では、「彼女」が再び走りだしてるようなので、こちらも是非!
さて、みんな花束もってぷけさんとこ行こうか!

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かいと視点の【青犬編】はぷけさんこと+KKさんが担当してらっしゃいます!
+KKさんのページはこちら⇒http://piapro.jp/slow_story

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つづくよ!

閲覧数:459

投稿日:2009/12/06 23:29:37

文字数:5,332文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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