我儘アリスの冒険
アリスとコーヒーゼリー


 その日アリスは昼にやっと起きだし、夜ふかしで凝った首と肩で滅入った気分を変えようと喫茶店に行った。

 途中、祭囃子と出店、たくさんの人と出くわしたが、彼女は人が邪魔で不快に感じただけだった。

 喫茶店でアイスコーヒーとコーヒーゼリーをぼそぼそと小声で注文し、いぶかしがる店員をよそ目に持参した本を開く。とある人形師の魔術に関する本である。

 アリスは少し疲れて、いらいらしていた。

 注文した品が運ばれてくる。アリスはこの店のコーヒーゼリーが好きだった。しかしどこか店自体には馴染めないでいるのは、アリスが不穏な雰囲気をまき散らしていることの反映である。

 アリスはいらいらしたままコーヒーゼリーにミルクとガムシロップをかけ、どこか上の空のままそれを食べた。

 本には「恐怖と魔術の関係について」という、とある人形師の魔術論が述べられている。

 『恐怖から魔術は生じる。魔術は恐怖から解放へのヘルメス的意志行使である云々』。

 アリスはあくびをした。気だるさの原因は、少々の眠気にあったことを理解した。どこか上の空の味覚で、ぼんやりとコーヒーゼリーの二口目を食べた。

 「解放への意思が魔術の営為となるならば、私にとってはこの喫茶店から席を立って、いらいらから自らを解放し、眠気と懇ろにすることが魔術的営みになるのかしら」

 そんなことを思いながらちびちびとアイスコーヒーを飲み、甘ったるくなった口の中をすっきりさせた。

 アリスはまた大きなあくびをした。甘味のおかげかいらいらも眠気に変容し、ひとしきり本を読みすすめ、席を立った。

 店員はお会計のあと、お土産をアリスに渡した。

 「当店の三周年記念の記念品となっております。よろしければお持ちください」

 アリスはふと身のふりを顧み、建前の温情にも面ばゆい気持ちになった。

 アリスは「ありがとう」と小声で言って、店を出た。

 雨が降り出している。「この雨やお土産は、私が席を立ったことに由来する魔術的営為かしら?」とひとりごちる。

 帰り道を急ぐ。祭りで賑わっていた大通りは、ひと気が引いている。

 アリスは少し愉快になり、やっと目が覚めた気がした。




ライセンス

  • 非営利目的に限ります

我儘アリスの冒険

半ば日記的な掌編です。

閲覧数:84

投稿日:2009/03/05 04:54:04

文字数:950文字

カテゴリ:小説

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