時空桜　nowhere tree

掲示板を這う怪奇な噂にはこうあった
真夏に咲く　不思議な桜が在るそうだ
半信半疑と興味と猜疑に腕を引かれ
少年は出会った　『時空を裂く存在』と

現在過去未来あまねく時代の片隅に
それは必ずあった地球に刺した釘のように
人々はそれを見て億の名前を与えて来た
今じゃこう呼ばれてる　ジクウサクラ

想いを消して過去に飛ばすこと
願いを凍らせて未来に残すこと
散ること忘れて　ひとの想いに裂く
縁切りの神の移し身

時空桜聞いておくれ　僕と僕の挟間には
カルデラかテロメアか　何だって解れた記憶
ジクザクなこの想い　その永劫の彼方まで
どうか連れ去ってしまえ

八月の終りの日騒ぐ木漏れ日が答えた
三人の僕が　桜の前に集った
幼い僕は言う
「お前らみたいにはなるもんか」
老いた僕が吐く
「君らをみていると反吐が出る」

何かを諦めてまた一つ許して
そうやって大人になってきたんだろ
それじゃあこの僕のことも殺して
君は前に進めばいいさ

時空桜お前なら　世界と世界の海峡を
エーテルとカテーテルで
結い糾（あざな）ってくれるだろ　
ジクザクのこの願い　その円環の蛇と共に
どうか心に刻んで欲しい

幾億の言葉を聞き届けてきた
時空を斬り咲く花は
想いの鎖に縛られすぎて
もはや散ることができなかった

時空桜ありがとう
漸（ようや）く気付くことができた
オッカムの神剃（カミソリ）が
三人の手に握られた
ジグザクのこの世界　その輪廻の風上に
どうかこの想いを討ち果たせ
時空桜首を折り　空を割って伐り崩れた
囚われた想いたちが
散っては舞って絢爛（けんらん）な！
時空桜この時を　ずっとずっと望んでいた
満足げな花弁をそっと　海に浮かべた