「こんなところに連れてきて、何をするつもりなんすか?」
 友人のグミに連れてこられたところは寂れた図書館だった。三年前に近所に最新の図書館が建てられ、客のほとんどがあっちへと移っていったことと、その次の年に起きた<事件>の所為で、ここの図書館を訪れる者は誰一人いなかった。
 そして私もそのうちの一人だった。二年前まではここを利用としていたが、あの<事件>のせいで図書館事態を利用する回数が減っていった。今では調べ学習ぐらいでしか図書館に入ったことがない。
 なのに……。
「今日はね、私たちのバンドデビューも兼ねて、リリィのハッピーバースデーをここでお祝いしようと思うの!」
「は……?」
 まるで馬鹿が「テストで平均点以上取れたから、今日の夕食は好物のハンバーグにして!」と言っているかのようなノリだった。
 唖然とする私にグミは続ける。
「ほら、もうすぐここ取り壊されちゃうでしょ? そうしたらここに一生来れなくなっちゃうじゃない。だからいっそのことここでお祝いしようかなーって!」
「そういえばここ取り壊されんすね。全く忘れてたっすよ。……あと、接続詞の使い方が間違ってるっす」
「べ、別にいいじゃん! ──それに!」
 ここで、花が飛んでいるのが見えるほどのグミの笑顔に今日初めて影が差した。
 グミは胸に手を当てながら言った。
「──ここなら、ミクが聞いてるかもしれないでしょ?」
 私は「こんなところでお祝いされるなら自分のうちで祝ってほしいっす」と言おうとしたのに、ミクという単語を聞いた途端、何も言えなくなった。グミも私の言葉を待っているのか俯いて何も言わなかった。


 二年前に起きた<事件>──それは、「いじめを受けていた女子高校生が図書館の屋上から飛び降り自殺をする」という、現代社会ではごくありふれたものだった。
 そしてその<女子高校生>が、私とグミの唯一無二の親友であるミクだった。
 そう、私たちは気づけなかったのだ。ミクが虐められていたことに。ミクが苦しんでいたことに。ミクが心の中で──ずっと泣いていたことに。
 私たちは、親友失格だった。


 暗くなった雰囲気に最初に声をかけたのはグミだった。その声色は無理矢理明るくしたようなものだった。
「リリィが嫌なら、違うところでする? 例えばゲーセンとか──」
「──いや、ここでいいっすよ。寧ろここがいいっす」
「ホ、ホント!? ……いいの?」
 グミの顔は一瞬嬉しそうなものに変わったが、スグにそれは不安な顔へと変わった。きっと私を心配しているからだろう。ミクの死に誰よりもショックを受けていたのは私だったから……。
 私はグミに笑ってみせた。あの日からあんまり笑っていないから、ちょっと無理矢理になってるかもしれないけど。
「いいっすよ。──そういえばずっと気になってたんすけど、何でギター持ってきてるんすか?」
 グミの肩には黒いギターケースが担がれていた。するとグミは「よくぞ聞いてくれました!」と言わんばかりに目を爛々と輝かせた。
「フッフッフ、これはただのギターじゃないよ……。ジャジャーン! アコースティックギターでっす!」
「それも<ただのギター>の一種っす!」
 そりゃあグミがいつも使っているギターはエレクトリックギターだが、アコースティックギターも立派な<ただのギター>だと思う。ただのギターじゃないと言われて空中に浮けるギターかと思った私は無性に恥ずかしくなった。私は今更中二病に患ったというのか!?
 人知れず落ち込む私をよそに、グミはそこらへんにあった椅子に座り、ギターを構えていた。
 そしてすぅ、と息を吸うと、軽く指で弦を弾いた。そのフレーズは、誕生日の定番ソングだった。
「♪~Happy birthday to you.Happy birthday to you.Happy birthday dear Lily.Happy birthday to you.」
 歌が終わり、グミはパチパチと拍手をした。
「──お誕生日おめでとう、グミ!」
「…………」
「……あれ? もしかして気に入らなかった!?」
「…………」
「それじゃあ私の美声に酔い痴れちゃったとか!?」
「──それはないっす」
「酷いッ! じゃ、じゃあなんで黙ってたの?」
「……馬鹿のグミが、無駄に英語の発音が上手かったから、『なんで馬鹿のくせに英語の発音が上手いんだよ』って思ってたんすよ」
 数秒……いや、数十秒の静寂が私たちの間に舞い降りた。しかも場所が場所なだけにとても静かだ。
「……………………え?」
 そう呟くグミの顔は、今までで見たことがないぐらいに落ち込んでいた。
「リリィ、酷くない? 私の歌を、私の美声を……そんな風に思っていたなんて……ッ!」
「だって実際びっくりなんすもん。あとフツーは自分で美声って言わないっすよ」
「いやいやいや! 私は美声だし! 美声が美声って言って何が悪いの?」
 まるでイケメンが「イケメンがイケメンって言って何が悪いんだよ」とイケメンに言ってるみたいに言うなよ。(「イケメン」がゲシュタルト崩壊した)
「あ! そういえばこれ! 忘れてたけど、リリィへの誕プレ!」
「今更っすか!? 今までたくさん渡すチャンスがあっといて今更!? しかも忘れてたって、酷くないっすか!? なんか中身が超不安なんすけど!」
 じゃあ別に貰わなくてもいいんだよ、いえいえ有り難く貰わせてもらいます、どうせ馬鹿な私のプレゼントなんてカスだしねー、いやいや私はカスなんて言ってないっす、三時間もかけて選んだのにねー、どうか私なんかのためにわざわざ三時間もかけて選んでくださった極上のプレゼントをこんな私めにお恵みください! ──という(実にくだらない)やり取りが行われ、私は無事グミからプレゼントを受け取った。プレゼントの中身は緑色のシュシュだった。
「どう? ミクちゃんの髪色をイメージして選んだんだけど? ──ちなみに私も同じのを持ってるよ」
「……ありがとうっす。これ、次の練習からつけるっすね」
「……うん! 私もつける!」
 こうして、私のバースデーパーティーは幕を閉じたのだった。


 ──二人は知らない。知る由もない。
 二人が図書館から出ていった後に、誰かがその図書館へと足を踏み入れたことを。
 その人物の髪が、彼女たちが持っているシュシュと同じ色のことを。


「ゴメンね、遅くなっちゃって」
「ううん、全然大丈夫だよ」
「ありがとう」
「ふふふ、律儀だね」
「よく言われるよ」





 ──図書館が取り壊されるまで、残り6日。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【Lily誕】とある寂れた図書館でのお誕生日会

前回が〆切りにもギリギリアウトだったので、今回はリリィちゃんお誕生日に間に合わせられて良かった! この調子でミクちゃんのも間に合わせたい…φ(・ω・ )
リリィちゃんお誕生日おめでとう! リリリリ☆バーニングナイト聞いたときから大好きだったよ!

あと、「~っす口調」と「バンドをやってる」で某コロシアイ学園の"軽音楽部"を思い浮かんだ人がいたらナカ──( ・ω・人゜∀゜ )──マですね! まあ、あっちはバンドは一人でやってますけどね。それに私が好きなのは"飼育委員"ですし(((

とにかくリリィちゃんお誕生日おめでとう!(二回目)
読んで分かるように、ミク誕に続くよ!(+.・`ー・´)←何故ドヤ顔

閲覧数:125

投稿日:2013/08/25 21:22:17

文字数:2,736文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    その他

    ほう、そういう手があったか!
    関係性を持たせるっていうのは……個人的に大好きですよぉw

    「っす」は……「でやんす」とかと同じ類だと思ってしまう私←
    軽音楽部も「うんたん」しか思いつかない私←

    2013/09/01 00:54:39

    • 雪りんご*イン率低下

      雪りんご*イン率低下

      こういう手があったのですよ!
      私もそういうの好きっすwww
      「でやんす」www似てるような似てないような……←
      ……「うんたん」は……知りませんねぇ……(目逸らし)

      2013/09/01 11:26:38

  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    グミちゃんのキャラがなにやら凄いことに!ww
    ミクちゃんいない…だと(ガタッ
    そしてリリィちゃんの口調で某悪ノ娘のシャルテットさんを思い出す←
    続きが気になるな、これは。

    【結論】感想になってない

    2013/08/27 00:26:21

    • 雪りんご*イン率低下

      雪りんご*イン率低下

      今回のグミちゃんのキャラは「馬鹿なのに英語の発音だけは上手いバンドのギター」です!www←
      ふふふ、「彼女の死」は伏線ってやつですよ! 次回への!(自分で言うな 
      いやいやいや、シャルテットは「ッス」だけど、コッチは「っす」だから!((そういう問題か
      私、31日にコレの続きをうpするんだ……(フラグ)

      【結論】続き……〆切りまでに間に合うかな……?(((ぇ

      2013/08/28 15:37:51

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