17.
そして再び、私の自室にて。
グミと二人で変態忍者を校内から運び出したのはいいものの、行き先に困り、結局、私の部屋まで連れてくる羽目になってしまったのだった。
ああもう、どこかその辺に捨ててしまえばよかったものを……なぜ私はそれができなかったんだろう。まったく、いいかげんにできない自分が腹立たしい。
見慣れた私の部屋は、自分で言うのもなんだけれど、他のみんなに比べるとすっきりしている、と言っていいと思う。そもそもの部屋の広さがグミの部屋よりも少々広めのせいでそう感じる、ということもあるのだが、もともと物は少ない方で、買う物は自分が本当に気に入った物だけにしているからだ。グミのメガネのようになにかをコレクションするかのような勢いで買っている物もなく、部屋で目につく物は元々の備品であるベッドと勉強机と椅子とロッカーの他には、毛が長めの黒い丸型のラグと、座椅子が横長になったようなちゃちな作りのダークブラウンの二人掛けソファくらいだ。服はベッド下の衣装ケースとロッカーだし、勉強道具は机の上に綺麗に並べている。私なりにのんびりゆったりできるようにと、落ち着いた雰囲気の部屋を目指したつもりだ。
ともかく、その落ち着いた雰囲気であるはずの私の部屋の中央には、落ち着いたなどという単語とは相容れることがない物体があった。もうこれだけで部屋の雰囲気はぶちこわしだが、こればかりは仕方ない。私は、連れて帰ってきた変態に好き勝手にさせないためにと椅子に縛り付けたからだ。部屋の中央に鎮座して部屋の雰囲気をぶちこわしているのは、その変態のなれの果てみたいな物体である。理屈はよくわからないが、昨日の変態を見る限りではガムテープで動きを封じることはできないようなので、生徒会室にあったロープを持ってきて、それでぐるぐる巻きにしてやった。ガムテープよりも頑丈な上、今回は胸から下が全部覆われてしまうほどに縛り付けたので、手足の指一本動かすことはできない。これならさすがの変態でも脱出するのは無理だろう。多少血の巡りが悪くなるかもしれないが、あの変態がその程度のことを問題にするとも思えない。
わりとどうでもいい事だけれど、グミはロープの縛り方にはかなりうるさかった。あまり詳細を記すと彼女の貞操観念が本当に高いのか疑わしくなってくるため、割愛する。それが一体どういうことなのかは、なんとなく察して欲しい。
私はソファに座って、るかの方を見ていた。グミは私の隣に座ってなにやらうっとりしている。私の部屋で私の隣にいられることが嬉しいとか、いっそこのまま私を押し倒してしまってどーのこーのとか、とにかくいかがわしいことを彼女が考えているのは間違いないので、無視するに限る。
私たちは椿寮に帰ってきて制服は脱いでいるのだが、私は普通のジャージの上下――とはいっても、この姿で学校の外を歩けないほどにだぼだぼでみっともない服を着ているわけではない――なのだが、グミはキャミソールを一枚と、ホットパンツと白のニーソックスを履いただけの姿で、胸元やら腰周りからはかなり彩度の高い下着がちらちらと見え隠れしている。私を誘惑だとかなんだとか、そういうつもりの格好なのだろうけれど、ただ単に忍者るかの目の保養になっているだけだった。ひたいに載せているメガネは、学校でしていたオレンジのフレームから、ピンクと黒の縞模様のものに変わっている。下着と柄がそろっているあたり、彼女の本気を感じる。……本気を出されても困るのだけれど。
「それで……るか?」
私の声に反応して、縛り付けられた生ゴミ……あー、ええと……いや、うん。やっぱり生ゴミでいいや。……縛り付けられた生ゴミは返事をせずに両目のぱちくりとまばたきをする。生ゴミの口にはガムテープを貼っているので、喋ろうとしても喋ることはできないのだ。
鬼畜と言わば言え。私はこれでも足りないと思っているのだ。
「まさか、なんで自分が縛られているのかわからない、などとは思っていないでしょうね?」
瞳がぴくりとは動くものの、それ以外にはなにも動かない。ほとんど無表情なのを肯定と受け取ることにして、私は話を続ける。
「本当なら貴女の両目をつぶして、もう二度とプールや更衣室に忍び込んで覗いたりできないようにするところだけれど……裸マフラーの問題が解決するまでは、今のところは、とりあえず、あくまで仮ではあるけれど、仕方なく、渋々保留にしておいてあげるわ」
変態に対する物騒な処置を耳にして、彼女は見る間に顔を真っ青にして震えだした。
「今後、たったの一度でも覗きをしたらどうなるか……もうわかるわね?」
がっくんがっくんとものすごい勢いで何度もうなずくるか。その勢いがあまりにも早いので、勢い余って頭がとれてしまいそうだとさえ思ってしまった。目の前でそんなことが起きたら残酷描写きわまりない上にトラウマになってしまいそうだけれど……でも、全世界の少年少女のためには、そうなってくれた方がまだ良いのかもしれなかった。
「わかればいいわ。それで……実に、実に残念ではあるけれど、私が持っている武力の中で、昨日の裸マフラーに対抗できるのは貴女だけなのよ。今夜また奴が現れかねない状況で、貴女という非常に大きな不安要素を対抗手段として、撃退する策を練らなければならないわ」
るかは私の言葉の端々に細かく傷付いていくが、知ったことではない。そもそも事実なのだからしょうがないのだ。
「ただし」
私は少しだけ前のめりになってるかに近づき、目の前でピンと人さし指を立ててみせる。
「貴女がそれ相応の活躍をして、実際に撃退することができたなら……その時は、報酬として、本当にお寿司を貴女にごちそうしてあげるわ」
「うをん! ををうをうんをんっうををっ!」
ガチャンガチャンと縛り付けられた椅子のキャスターを鳴らしながら、口を塞がれたままのるかがなにか言おうとして、まったく言語になっていないくぐもった声を出した。でも、ほんのついさっきの傷付いた表情とは打って変わって瞳をらんらんと輝かせているから、やる気はまんまんのようだ。やはりお寿司という言葉がきいたのだろう。なんて単純なのかしら。
Japanese Ninja No.1 第17話 ※2次創作
第十七話
お久しぶりの文吾です。
グミ嬢の巡音嬢LOVEがハンパないの巻です。
ページ数では、次の十八話でロミシンのページ数を超えてしまうのですが、文字数でいくとこの十七話ですでに一万字くらい越えてました。我ながらびっくり。
ロミシンでも「こんなに長くなるとは……」とか言ってたはずなんですが、それどころじゃなくなってます。とはいえ、ページ数は超えてないけど文字数では越えてるってことは、文章の密度が上がっていると言うことですかね……。
あ、またも文字数オーバーしたので、前のバージョンからお願いします。
それではまた。
周雷文吾/しゅうらいぶんご
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