――疲れた。
 私はそんなことを考えていた。
 もう、こんな生活疲れちゃったなあ。

「……とりあえず、フード付きのパーカーを、っと……」

 そう言って私はピンクのフードがついたパーカを着る。
 だって、私は売れっ子アイドル。いつもこんな感じで歩かないと人目に付いてしまうんだよね。
 しかも、もうずっと昔から独りだからさ。ねえ。
 ……だから、今日も私はパーカーを着て外に出るしかないわけなのです。


≪如月アテンション【自己解釈】≫


 何もかも私は放り出しちゃって、ヒールをつけちゃった少しだけ大人びた格好にしちゃったの。
 だって疲れちゃったんだもん。仕方ないじゃん。
 そんな私は売れっ子アイドル、如月モモっていうんだけど結局そんなの疲れちゃうわけで。だって、プライベートってやつがないんだよ?
 だから、商店街とかも行くのも久しぶりだし、路地裏なんて何年ぶりだろう?
 あ、そうそう。そういえば私はよく『阿吽』って書かれたパーカーを着ているわけだけど、それは私が大好きなだけなんであって、趣味が変とか思わないでね?

「あ」

 だけど、不意に風が吹いちゃってさ。
 フードが脱げちゃってさ。


 ――あれ、もしかして……!!
 ――如月モモちゃんじゃないか?!
 ――モモちゃんhshs

 おい、誰だ最後にhshsしたやつ。
 ……そんなことはどうでもよくて! 逃げなくちゃ!!
 群衆が私の方に駆け出してきちゃって、私は走るしかない!! 知らないだろうけど私って実は子供のとき県で一位の足の速さだったんだもんね!!
 というわけで駆け出してるけど、目の前にあるのが壁、ってどういうことー!! 壁って!! もう逃げられないじゃん!!
 私そんな叫んでばっかりだけど実はもう疲れちゃってるわけだから、散々な毎日だなあと思う暇もないんだ。だって、もう慣れ始めてしまっているんだもん。
 昔から、私は人の目を惹く体質みたいで、だけど私ってあまり自分の言葉を強く言えないから、

「私のことを見ないで!!」

 なんてそんなこと言えない……。
 仕方ないのかもしれないけど、とりあえずここを逃げるために、壁を乗り越えてしまおう!!
 ああ、どうしてこうなっちゃったんだろう?
 思えば昔のことだけど、勧誘、っていうの? そういうのに絡まれちゃったんだ。その時の勧誘のうまいことといったらひどくてさ。なんでなんだろうね? ほんとあのとき引っかからなきゃよかったよ。

「こんなことになるなんて……。ほんとあの時の自分馬鹿!」

 なんて言うけどそんなことも人の目の前じゃ言えなくて、結局は仕方ないんだ。
 もう、仕方ないんだよ。
 けど。
 気づいたら、涙が出ていて。

「嫌だ、涙がでちゃうよ」

 そんなことをつぶやいちゃった。





「――どうした?」

 そんなとき、誰かが声をかけた。私と同じ――だけど色は違う――パーカーを着た少女。年齢は…たぶん私と同じくらいかな。

「……あなたは私を見ないで何も思わないの?」
「――何がだ? お前はいったい誰だ?」
「……はい、あのアイドルしてます如月モモって言います……」
「へえ……。で? 別にあんたがアイドルであろうとも、私には関係ない」

 そう言ってその少女はゆっくりと路地裏を抜けようとして――

「ま、待って!」

 気づいたら、彼女に声をかけていた。

「……なんだね?」
「私をあなたのところへ連れていってください!」
「……、」
「お願いします!!」
「……別に構わない。ついてこい」

 そう言って彼女はさっきとは逆の方向へと歩いていった。私はそれについて行った。
 ――あとで聞いたんだけど、彼女の名前って“キド”っていうんだって。なんとなく、少し変わってる名前だな、とは思っちゃったけど結局彼女には何にも言ってないよ。










「紹介する。……えーと」
「はい! 如月モモって言います! よろしくお願いします!」

 キドさんが連れてきたのは、なんだかよく解らない地下にある空間で、どうして彼女がここに連れてきたのかさっぱり解らなかった。
 ……とりあえずここならなんだか楽しめそうな気がした。









「……新入りだ。マリー、というらしい」

 何日かして“メカクシ団”というグループに入ってきたのは、マリーっていう女の子だった。クリーム色の髪に――私と同じ赤い目。

「よろしく」

 私はマリーに笑ってみせた。マリーは笑い返してくれたので嬉しかった。
 マリーはハーブティーを入れるのが得意みたいで、彼女の入れるハーブティーはおいしいんだよね。だけど、彼女ってなんだかおっちょこちょいでさ、私に入れようとしてるハーブティー思いっきりこぼしてキドさんと私に熱々のハーブティーをかけちゃってね! いや、かけちゃった、ってレベルじゃないかな、もうあれ。お盆ひっくり返しちゃったんだよ。
 当然キドさんと私はびしょ濡れ! ほかの人も慌てちゃうし、キドさんは白目でマリーの方を見ちゃうし……
 だけど、結局私はこんな日常が楽しいなあと思えて笑っちゃうんです。








 ……だけどこれじゃダメなんだよなあ。
 逃げてばっかな私に勇気をくれたメカクシ団のみんなに感謝しなくちゃ。
 だって、そうじゃなきゃ今私はここに立てないんだもん。
 さあ、今日も目を奪っちゃうよ。奪っちゃうよ?
 伝えたいことを詰め込んだ私の夢から逃げちゃいけないんだ。
 そうさ、
 スキップで進もう!











「ここにいるはずだったのになあ……」

 私はまた別の日、とある場所に来ていた。
 夏の暑い陽射しの中、パーカーは脱いでおいたけど、やっぱり暑いんだよなあ。手で扇いでくるはずの人間を待つ。

「あっ」

 きたきた。赤いジャージを着て携帯になんか叫んでるダレカサンが。
 私はそれを見つけるなり、駆け出してそっちへ向かったのです。


終わり。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

如月アテンション【自己解釈】

果たして解釈しているのかどうか……。最後のジャージの人はおそらく(伏字)の(伏字)でしょうね!

かかせていただきました。

原曲:http://www.nicovideo.jp/watch/sm17930619

閲覧数:10,939

投稿日:2012/05/27 01:03:53

文字数:2,488文字

カテゴリ:小説

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  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    auroraさんの如月アテンションすごすぎます!

    そういえば、彼女如月モモっていうですね……
    カゲプロの「シンタロー」といい、どこで知ってるんですかー?

    ウチも最後のジャージの人は、【黙れ】の【よし、フルボッコ☆】だと思います。
    まさかあの二人……兄妹なのk(((
    (余談だけど、「兄妹」って書いたときにニコ割きたwww)

    2012/05/27 02:01:44

    • aurora

      aurora

      如月モモは公式の動画で。
      シンタローは小説の試し読みで把握してたり……←

      2012/05/27 05:43:55

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