俺はリンたちに別れを告げて、マンションとは反対方向へ向かうバスに乗り込んだ。

　本当はこんな場所に着たくはないのだが、しょうがない。

　ため息をついて目を閉じる。



　

　あっという間に目的地にたどり着く。

　バスから降りて１０分ほど歩いたところ。

　俺が１番大嫌いで、心の休まることのない、だけど本当の俺の居場所である家へ―――



　
　俺は玄関ではなく裏口へ向かう。

　母に会わないようにするために。

　音を立てないように慎重にドアを開ける。使用人たちに見つかったら面倒だからな。

　幸運にも、周りを見渡すと誰もいなかった。

　俺は足音をしのばせ、倉庫へ向かった。




　
　鍵を開けて倉庫の中に入り込む。

　そこには、美しい絵画や置物、服、何が入ってるか分からない箱が大量においてある。

　その中から見覚えのあるひとつの木箱を探し当てる。

　倉庫と言っても、かなりの広さがある。その上、電気をつけると誰かに気づかれるため懐中電灯の細い明かりだけを頼りに物を探すと言うのは非常に困難だ。

　それでも俺はあの木箱を探さないといけない。

　あの箱の中には、とても大切なものが入っているから――――



　
　「あった！！」

　その箱をホコリにまみれながら探し当てたときには、日が暮れて夜空に星が輝いていた。

　多分、いや絶対テトとテッドが心配してるだろう。

　俺は長すぎる廊下に誰もいないことを確認して、箱を抱えた状態で裏口を目指す。

　そして家を飛び出す。

　使用人に見つからなかったコトを幸運に思いながら、バス停に向かう。


　そして、俺はバスに揺られながらマンションにたどり着いた。







　「お帰りなさいませ！！　レン様、いくらなんでも遅すぎですよ！！
　　皆、もうご飯を食べちゃいましたよ？」

　案の定、テトは眉を吊り上げていた。

　しかし、俺の持った箱を見た瞬間テトの顔は強張る。

　「っれ、レン様…。その箱………」

　「帰るのが遅れてすまない。
　　箱の事は、後でちゃんと皆に説明するから今は何も言わないでくれ。」

　「…分かりました。レン様、家に帰るのはとても疲れたんじゃないですか？
　　すぐにご飯の準備をいたします。」

　「あぁ、頼む」

　テトは驚きが隠せないようだ。

　でもしょうがない。





　
　この箱の中には、あの人の残したただ１つの物が入っているのだから――――