-傀儡-
 部屋の片隅でレンを包み込んだ光は次第に緩やかになってきて、その光もふっと消えてしまった。ふわりと柔らかい光に包まれていたレンは、無意識に目を瞑っていたらしく、そっと目を開いた。何が起こったのかわからず、恐る恐る目を開いたのだ。
(…?)
「…あれっ…あは、失敗しちゃった♪」
 そう言って、レオンは手をひらひらとして見せて、笑顔のままおどけたようにした。
(…はい?)
 ぽかんとするレンにはお構いなしに、レオンはまた呪文を唱えようと軽く身構えた。
「失敗、失敗。ちょっともう一回そこに座って。動くとへんなことになるよ」

「…どうぞ、皆さん」
 そういって優しげな女性に通され、リンたちはレオンが住む館の客間にいた。そこで紅茶なんか出されて、ゆっくりしていってくださいね、なんていわれてしばらくしたらお茶菓子なんかも出てきちゃって、時間がたつにつれてあの女性にペースに飲まれていく気がするので、リンは思い切って本題を切り出した。
「あのっ…レンはどこに?」
「なにぶん家が広いもので、一部屋一部屋回らないとどこの部屋何だか…」
「はぁ!?」
 初対面でいきなりこんな風に言われては、誰だって少しは怯えるだろう。
 女性も例外ではなく、少し後ろに下がって申し訳なさそうにもじもじして、それからなんだかしゅんとしたようにうつむいた。
「…ごめんなさい…。…皆さん、ご自分でお探しになってください…」
「えっ?」
「すみません。広くて、私一人では探しきれないもので」
「勝手に館の中を探し回って良いんですか」
「入られて困る部屋には鍵がかかっていますから、大丈夫です。どうぞ、いってらっしゃいませ、みなさん」

 そうはいわれたものの、どこに行けばいいのか全くわからない。
 五人は3チームに分かれて、カイト&ラン、ルカ&リン、メイコで一階、二階、三階を探すことになった。

「…そういえば…。この魔法、何の魔法か知りたい?」
 呪文を唱えようとしていたレオンがいきなりそう言い出したので、レンはすこし驚いて反応に困ってしまった。けれど、その意味を理解するとコクコクと頷いて見せた。
「これはねぇ。一定の対象――といっても、生物に限るけれど――に暗示をかける魔法だよ。魔法をかけられた対象は特に何も感じない。だけどね、魔法をかけられた後に、魔法を使った誰かに言われたことは、自分の意識とは関係なしに身体が行動する。まあ、そうなっちゃうと、魔法が切れるまではその魔法をかけられたやつは魔法をかけたやつの…事実上のシモベ――家臣、と言えばいくらか聞こえはいいかな?――になるんだよね」
 そう聞き終わってから、聞かなければよかったと思ってしまったレンは、もはやレオンを変体としか思っていないのだろう。何をさせるつもりかはわからないが、ろくな事ではないことくらいは、簡単に予想できる。
「じゃあ、いくよ。大丈夫、別にへんなことはしないよー♪」

 しばらく進んで、片っ端から扉を開いてみたが、特にそれらしいものや痕跡も無く、この階ではないのではないか、とリンは思い始めていた。
 ――と、リンとルカが進む先の廊下で、一つのドアの隙間から小さな光が漏れていることに気がつき、そっと中を覗き込んだ。そこには、誰もいないように見えた。しかし、ベッドのシーツが随分とよれていたり、本棚の横にぬいぐるみが落ちているところをみると、今さっきまで誰かがいたようである。
「ゴトッ」
 中にはいろうとしたルカとリンの耳に、ドアの影から物音が聞こえ、そちらへと目をやると――。
「レン」
「レオン君も!…何…やってるの?」
 二人の姿を見たレンの顔が一気に明るくなって、素早くリンの後ろへ下がるとレオンに威嚇するように睨みをきかせた。

『リボンの女の子を、殺してね』

 そっと耳元で囁かれ、ぞっとするような感覚を覚えてレンは逃げ出そうとしていた。物音は、その所為でなったのだ。
 それを思い出し、リンから離れようとしたが――少し遅かったらしい。
 レンのうでは、軽いリンをベッドの上に押し倒し、そのまま細く白いのどもとへと向けられていた。
「れ…レン?」
「リン…。逃げて…」
 それは無理な話だ。既にレンの左手がリンの首へ、右手がリンの左手首を強く捉えているのだから、よほどの力が無ければ逃げることはできない。
「レン!何をしているの!?」
「…邪魔しないでね。ほら、あいつも言ってたでしょ。ダイスキな使い魔に殺されるなら、本望だって。だから、邪魔したら許さないよ」
 そう言って、レオンは素早く呪文を唱えた。
 瞬間、ルカの体の自由が利かなくなり、その場に固まってしまった。
 やっと、ルカははめられたことに気がついた。コイツは、こうなることを予想してあの女性にあんな演技をするように言ったのだろう、そして事はレオンの思惑通り進んだということだ。
 にやり、とレオンは卑しい笑いを浮かべた。
「い…嫌…だ…」
「何故?」
「殺したくない…」
「何故?もう既に、お前は人殺しなのに?」
 そういって、レオンがレンに近づいてきて、レンの頭に指先を触れさせた。
 記憶が、思い出さないように硬く鍵をかけてしまっておいた記憶が、一気に押し寄せてくる。

「レン、夜に客間にきなさい。一人で」
「え?どうして」
 あの夜、母親にそういわれ、少し不信感を抱きはしたが、とりあえず従っておくことにした。下手に反抗して、いつもみたいに怪我なんかしたら、面倒だと思ったから。
 日ごろから、レンは今で言う虐待を受けていた。それも、両親からだ。酒のせいやクスリではない、精神に異常がないはずの状態で尚、レンに虐待をしていたのだ。それは、カイトやリン(姉のほうの)に向けられることは無く、レンにのみむけられていたものだった。
 夜、言われたとおりに客間に来ると、母親だけでなく父親もその場に来て、
「どうしたの、母さん。もう俺、眠いよ…」
 そこからは、声がなくなったときに思い出した記憶のままだ。
 どうにか意識があったレンは、最後の力を振り絞って立ち上がろうとした。しかし驚いたことに、立ち上がることにさして力は要らず、それどころかいつもより身体が軽くなっているような気さえした。そうして、そのまま両親を――

「本当は、もっと前に思い出していたんでしょ?」
「違う…ッ」
「何が違うって?全部、本当のことじゃないか。君が両親を殺した。そうして、罪の意識から逃れるために、無意識に自分の記憶を消した――」
 過去の記憶を、傷をえぐっていくレオンの表情は、狂ったようだった。
「今や君は、俺の操り人形だからね。俺の命令には逆らえないよ。…ほら、もっと悦んでよ。俺が思いつく限り、君に対しての最高のもてなしなんだから」

 果てしなく続くようにも思える廊下のドアを、ひたすらに開いては閉じ、閉じては開きを繰り返していた。…と、いうのは、カイトとランだった。
 ふと、カイトがあせりの表情を浮かべ始めた。
「カイト兄、落ち着いて」
「いや…落ち着いてはいられないんだ。レンやリン、俺もそうだけど、一応悪魔と吸血鬼のハーフだからね。いつもはそんなことは無いと思うけれど、あまり強いショックを与えると、悪魔の人格が目覚めて――レンの力じゃ制御できないような力にのまれて、レンはレンじゃなくなってしまう。悪魔の人格は、人をいたぶる事、人が苦しむ顔を見るのが幸せだと感じるらしいからね。そうなると、あの子でも危ない」
「…急がなくちゃ…!」
 そう言って、進む足取りは明らかに素早くなっていった。

             「レンはヒトゴロシ」
「!?」
「どうした?」
「う、ううん、なんでもない」
 そういってごまかしたが、頭に響くような声で、誰かが言ったのだ。はっきりと。
 悪寒がする。ランは、その場に崩れてしまいそうな感覚に襲われ、一度立ち止まって呼吸を整えると、その声が誰なのかを思い出そうとした。しかし、その声の主はわからなかった。
 無論、ラン気づいていない。声の主が、レンを操ってリンを殺そうとしていることなど。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

鏡の悪魔Ⅲ 12

こんばんは、リオンです。
早速今日の要約いってみましょう!
『傀儡ってかいらいって読むんだよ』
わかりやすくありません!?めっちゃくちゃわかりやすいと思うんですが!?
…て、ちょっとテンション上がりすぎました…。
そういえば、ウチにエアガンがきまして。
なんでかといえば、ばあちゃんの家に行った時にお祭りをやっていまして、その中の射的で。…あれ、私…男だったっけ?
まあいいや。そんなこんなで、エアガンが嬉しくて嬉しくて仕方ありません。
ああ、あの射的屋のおばさんが、
「お譲ちゃんは何が欲しいの?」
ってきくから、「エアガン」ってこたえたら、
「そうかそうか。今は女でも銀行強盗するからなぁ…」って話をされたっけ。
だからなんだろうって気もしますが…右から左へ受け流してください。
稀に左から来るので、お気をつけあれ。
それでは、また明日!

閲覧数:654

投稿日:2009/08/17 22:54:45

文字数:3,360文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

    ご意見・ご感想

    どうも、みずたまりさん
    あー。あれですよね、ホラ、ヒロインって殺されそうになる率が高いモンなんですよ。
    あー(以下略)ヒーロー(?)は結構操られ率高く…ないですね、ハイ。
    あれ、ナマカ!?私もね、殆どわからなかったんですけどね、ボカロの曲の歌詞とかでわからないのを、いらない位に読みを探しているので、その辺でですかね。

    あ。しゃべっちゃった。
    薬、切れたんですかね。
    予想を聞いたレンの反応を見てみますか?
    「…え。何でそんな展開しかないんだ?一つ一つ、ありえないって言うことを証明してやろうか?まず、一つ目。…取り合えず、ドウシテそうなると思うのかを聞きたい。な。二つ目。メイコさんは、この後お仕事がありマース。三つ目。マジ勘弁。それは無理!!…口が動くからな、呪文は唱えられるかも…?四つ目、イヤ――――!!!どんなやられ方って…。テメェ、な…俺に何の恨みがある!?」
    「レン、五月蝿いわ。これ以上わめいていると、貴方は串刺しor蜂の巣ね」
    「サーセン!!!」
     レン は 逃げ出した!▼
     ルカ は 呪文 を 唱えた!▼
     館 に レン の 悲鳴 が響いた!▼

    と、いうことで(←どういうこと?)
    楽しんでいただけましたか!それじゃあ、今日の投稿も、楽しみにしていてください!

    2009/08/18 20:31:48

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