そこは何も無い空間だった。色は無い、音も無い、誰も居ない、自分すら判らない程…。
「何時迄眠っているの?」
突然の声。漂って消え掛けていた意識が急に引き戻されて目を開けた。真っ赤な髪と、対照的な真っ青な瞳が穏やかに笑っていた。最初の頃よりも随分はっきり、そして生身に近くなって来た。教室で見た時は幽霊だと思ったのに、今では人間とそう変わらない。こいつは一体何なんだろう?どうして俺だけに見えて、聞こえて、触れて、そして助けてくれるんだろうか?
「お前は誰なんだ?いや…『何』なんだ?キャラクターの『絵襾』だとしたら、一体
どうしてこんな事が出来る?」
「この姿は君が作っただけだよ、きっと何処かで見た絵を覚えていたんだろうね。」
「言魂…なのか?」
「うーん…近い様な、そうでない様な…アバターがAI化したと言うか?」
「どうして俺にだけ見えるんだ?」
「知らないよ、僕にそんな分析求めないで。」
随分と様子が違う気がして、ふと初めて絵襾を見た時の事を思い出した。幽霊みたいに漂って、泣きながら何かを探していた。何度も何度も『返して』と言いながら…。
「なぁ、お前一体何を探してるんだ?」
「は?」
「えっと…学校でさ、お前何か探してたろ?『返して』って。」
「学校?僕が?」
「え?だ、だってお前だったぞ?真っ赤な髪で、青い目で泣きながらふわーって…。」
絵襾は明らかに眉を寄せると訝しげな顔をした。まるで覚えが無い事を考え込む様な顔をして腕組みをしたまま言葉を捜していた。どう言う事だ?あれは絵襾じゃない?
「ここが壊れたあの時、僕も欠けたんだ。もしかしたら、欠片が彷徨ってるのかも。」
「ヒトデかお前は。」
「スターフィッシュは分裂だよ。そうじゃなくて、データとして欠けたって事。」
データとして欠けた?じゃああれは絵襾の別人格みたいなもんって事なのか?さっぱり事態が飲み込めないまま思考を繰り返していて、ふとある言葉に気が付いた。
「僕『も』って言った?」
「うん。」
「…他にも…居た?」
「うん。」
「それを早く言えよ!どう考えたって手掛かりだろうが!」
「知ってると思ったから。」
絵襾はきょとんとした顔で答えた。当然知る訳も無く軽く怒りを覚えた。けどまぁ自称AIにそんな高度な質問しても無駄だったかも知れないか…。
「それで?他に何が居たんだよ?」
「名称はKSC-AI-108Ri-01。」
「いや、判んないから、それ。」
「幎。」
「幎…?」
「そう、僕が作った僕の宝物。真っ白な羽が綺麗なんだ。」
無邪気な笑顔で答えた瞬間に、辺りが急に暗くなって、引っ張られる様な感覚を覚えた。そして漠然とだけど、俺の中に一つの確信めいた物があった。
「制御コード…?」
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