!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
勢いよく、かけられていたタオルケットを跳ね上げ、起き上がる。酷く汗をかいているせいだろうか、気持ちが悪いのは。
視界に映る、見覚えのある部屋。いつの間に私は自分の部屋へ戻ってきたのだろうか。歩いて帰ってきたという記憶はない。それとも、今までのことは全て夢だったのだろうか。頬を濡らしていた涙がそれを否定している気がするけれど、それが真実ならどれだけ良いだろう。
残酷に時を刻む時計に視線を向けて、これが現実なのだと思い知らされる。わかっていたこととはいえ、涙が溢れてくるのを止められなかった。どうにか涙を止めるために歯を食いしばってみても、視界が滲んでいくのは止まらない。
二人が、何か悪いことをしたのだろうか。私のためを思ってしてくれていることなのに、私のせいで・・・私に関わった人たちが不幸になってしまう。いつも私自身が直接不幸になるだけじゃなくて、誰かを巻き込んでしまう。
本当はあの日、助けを求めてはいけなかった。助けを求めなければ、きっと私は今もあの生活をしていたのに。私一人が我慢さえしていれば、それで済むことだったのに。何度そう考えたって、私はいつも同じように道を踏み外す。そして誰かを・・・大切な人を、巻き込んでしまう。
「ごめん、なさい・・・」
ぽろぽろと涙が零れ落ちる。タオルケットに落ちた涙は、吸収されてその色を少し暗くした。
他の皆が空を飛ぶ鳥なのだとしたら、私は飛べない鳥・・・いいえ、きっと皆を羨みながら泳ぐだけの魚。水面を揺らがせないように静かに静かに泳いでいるのに、どうしても波紋が広がってしまう。そしてそれは私自身が疲れれば疲れるほど大きな波になる。飛ぶ鳥までもを飲み込んで傷つけてしまう。誰も傷つけたくはないのに・・・誰にも傷ついてほしくないのに。
「ごめ、なさいっ・・・私・・・どう、したら・・・っ」
いくらなんでもそんなことにはならないと、ずっとどこかで思っていた。失ってから気付くのは遅すぎると私は身をもって知っていたのに、どうして繰り返してしまったんだろう。あの人が離れていったのも、司くんがその後を追っていったのも、遡れば全部私のせい。今更どれだけ謝罪の言葉を述べたところで何も元に戻らないのに・・・そのこともよくわかっているはずなのに、私はいつだって泣きながら謝罪することしかできないんだ。今日だって、何も変わらない。私は変化を求めなかったのに、結局知らない間に変わってしまっていて、周りを巻き込んだ。
「もうやだよ・・・」
呟いて、涙を拭う。さっきは失敗したけれど、今度こそ涙をどうにか止めて息を大きく吐き出した。
もしも生きているというだけで周りの人たちを不幸にしてしまう人間がこの世界に一人いたとして、それが私だというのなら・・・私はきっと、いない方が良い。
「――私一人で全て終わるなら・・・」
「何馬鹿なこと言ってるんだ? そんなことしても、誰も喜ばないぞ」
いつの間に扉を開けたのだろう。部屋へと入ってきた彼・・・カイトは、私の傍まで来ると、優しい笑みを浮かべて私の頭を軽くぽんぽんと叩いた。
かっと顔が熱くなる。それはきっと自分に対する怒りだったのだろうけれど、私はあろうことかその矛先をカイトに向けてしまった。本当なら自分の中に留めておくはずのものだったのに。
ふらつくと思っていた足は、思いのほか力強く床を踏みしめる。真っ直ぐに睨みつけるカイトの目は、綺麗すぎるほど綺麗だった。
「あ・・・あなたに何がわかるの!? 私がいるだけであの人も司くんもいなくなったんです!」
自分の怒りが抑えきれないなんて、あまりなかったことだったけれど、止めようと思っても閉じようとした口から言葉が溢れてくる。何て醜いんだろう。こんな自分は吐き気がするほど嫌なのに、どうすることもできないなんて。お腹の底が妙に熱を帯びているのがわかる。
「これからだってきっと、私の周りにいる人は不幸になる・・・そんなの、もう嫌だよっ・・・!」
自分の声がいつになく大きい。これは、誰にも傷をつけないようにと気遣って、考えてから発している言葉じゃない。気持ちが悪くなるほど、自分のことしか考えていない言葉だ。
笑顔は消えているけれど、カイトが心配そうに「マスター」と声をかけてくる。けれど、私は止まれなかった。優しく伸びてきたその手をも叩き落して、私はずっと胸にしまっていた言葉を吐き出してしまった。
「も・・・っ、放っておいてっ・・・! 私は・・・私は、いらない人間なんだよっ!!」
ヒステリックに叫ぶ自分は、醜すぎてやっぱり吐き気がする。悲劇のヒロインを演じているつもりはないけれど、結局いつも私はそうなってしまっていて・・・いつだってそんな自分が嫌いだった。今まで消えてしまいたいと思っても留まっていられたのは、司くんがここに繋ぎとめてくれていたからだったのだと思う。繋ぎとめるものがなくなったら、私は完全にこの世界に必要のない人間だ。
この場所に『いる』だけでは、『存在している』ことにはならない。
再び心の内を吐露しようと口を開いた時、ぐっと強い力で手首を掴まれた。思わずぞっとするほどの強い力・・・それは、私の中の熱を急激に冷やして消し去る。
「マスター、いい加減にしないと俺だって怒るぞ」
カイトの口から出たその言葉はとても穏やかだったのに、その中には確かな厳しさが感じられた。思わず口を引き結んで視線を逸らす。俯いた視線の先には、小さく震える自分の手が見えた。視界の上の方にはカイトの足が見える。
どうしよう、怒らせてしまった。また私は・・・。
そう思った瞬間、カイトの手が触れてびくっと体が大きく揺れた・・・と思ったのも束の間、視界が暗くなる。
ぎゅっと、私が苦しくない程度に、それでも強く抱きしめる腕。抱きしめられたんだと気付いたのは半歩遅れてから。
「――お願いだから、自分のことをいらない人間だなんて言うな。
少なくとも俺にはマスターが必要だ」
泣くのを堪えて吐き出したような掠れた声は、確かに私の胸を締め付けていた。ようやく止まったと思っていた涙が、また視界をぼやけさせる。
「っ・・・必要と、してくれる、の・・・?」
「ああ」
「こんな私、をっ?」
「もちろんだ。マスターがいなくなったら俺はどうしたらいい?
俺のマスターはあなたしかいないんだ」
耳元で優しく響くカイトの声に、涙が零れ落ちて頬を濡らした。カイトの服を濡らしてしまうとわかっているけれど、零れてくる涙は止まってくれない。司くんがいなくて、あの人もいなくて・・・それは私のせいなのに。ぎゅっとカイトの服を握り締める。
ああ、どうしたらいいんだろう。こんなに、嬉しいなんて。初めて、だった。あの人と司くん以外に必要だと言われるのは。
「わ、私っ・・・生きていたいよぅ・・・っ」
どうしようもなく人を傷つけてしまうけれど、私はずっと、誰かに必要とされたかった。
私を抱くカイトの腕に力が加わる。言葉はなかったけれど、カイトは私の罪を許してくれているような気がした。けれど、悲しみは完全に消え去ってはくれない。どうやっても、もう取り返しがつかない。
鮮明に思い出されるのは、司くんとあの人が線路にいるところ。あの耳を劈く甲高いブレーキ音。
確かめるのは怖いけれど、私は確かめなければならない。そう思って涙を堪えた時だった・・・・・・ノック音が響いたのは。
「――お取り込み中のところ悪いが、入って大丈夫かい?」
開きっぱなしの扉ではなく、壁をノックしたらしいその人は強面の男の人。見覚えが、あった。
カイトが私を解放して、その人を中へと促す。
全身を襲う悪寒が、私の頭の中にある記憶は確かだと知らせる。あの日、司くんが呼んだ人だ。私を助けるために、司くんが連絡した警察・・・そして来たのが彼らだった。
震えだしそうな体を叱咤して、私は男性・・・刑事さんと向き合う。私のところへこの人が来たということは、きっと二人のことだ。もう、男の人だからといって怖がってなんていられなかった。
心拍数が上がる。彼の口が動き出すのが、恐怖を煽るほど遅く感じられた。
「律ちゃん、二人のことだが――」
妙な間。時計の秒針が進むたびに心臓が壊れてしまいそう。
カイトはもう知っているのかもしれない。だから私が駄目にならないようにと、私を慰めてくれたのかもしれない。考えれば考えるほど嫌な方へしか考えられない。
たっぷりと時間をとった後で彼は一つ息を吐き出した。怖くなってぎゅっと手を握り締めた時、男性の口が真実を伝えるために動き出す。
伝えられた言葉は・・・・・・私をその場にへたり込ませるには十分すぎる力を持っていた。
→ep.41
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