「ねぇリン、髪切らない？」

「切らないっ」

「どうして。」

「３年間伸ばし続けたんだよっ!?長いのいいじゃんっ」

リンは中２から髪を伸ばしてきた。

前は肩にかかるくらいだったのに今は腰まである。

──本当に厄介だ。

リンは綺麗になった。誰にも負けないくらい。

さらさらの長い金髪を靡かせ、白く滑らかな肌を晒し、長い睫毛がついた蒼い瞳が麗しく瞬く。

こんな美少女を誰もが放っておかないのだ。

つまり───

「リンさん、俺と付き合わない？」

──こういう連中が出てくるわけで。

「嫌だなぁ、冗談言わないのっ」

せめてその長い髪を切ってくれれば──

「レンっ」

「───え？あぁ、何？」

「手、離してよ。」

無意識のうちに髪を触っていたらしい。

「あ──ごめん。」

「そんなに長い髪嫌いなの？」

むしろ好きだ。

けど、あの髪が靡くとき、みんなリンの虜になるんだ。

「俺は──短い方が好き。」

「……そっか。」

悲しい顔をして俯くリン。

こんなときまでリンは綺麗だ。

いっそ、人の目につかないところへ────。

「じゃ、私髪切ろっかな。」

「──え？」

「私、確かにショートの方が似合うかも。」

こんなもにあっさりと承諾するのか。

「私だって、好きで伸ばした訳じゃないし。」

「………」

知ってる。

中２の時、いきなり髪を伸ばし始めたことを。

リンに何故かと聞くと

「私だって乙女だしっ」

と言われた。

その時気付いたんだ。

“好きな人のためだ”、と。

「……フラれたのか？」

リンは驚いたように目を見開き、そして目を細めた。

「うん、ずっと好きな、大切な人にね…っ」

笑っているのに、酷く悲しそうな表情をする。

「…………ごめん。」

「何で謝るの？」

リンの澄んだ瞳からひとつの雫が流れ、床に斑点をつくる。

逆光が邪魔をし、顔がよく見えない。

しかし斑点は大きくなっていく。

「だって俺…無神経なこと……」

「──っ長い髪も、ニーハイも何もかも全部！レンが好きだって言ったからそうしてるのに……!!」

思考回路が停止した。

──俺のため───？

「バカっ!!もう知らないっ……!!」

「え…リン!?」

教室中がざわつく。

それに構わず俺は教室を出た。

「追いかけてこないでよっ」

「無理!!」

走る間も、黄金の髪がさらさらと靡く。

「好きでもない相手追いかけたって何にもならないじゃんっ」

「好きだよ!!」

やっとのことでリンを捕まえた。

「じょっ、冗談止めてよ!!」

「冗談に聞こえる!?」

リンはしばし黙り、自らの制服の袖で涙を拭く。

「信じちゃうよ…？」

「信じてもらわなきゃ困る。」

先ほどの笑顔より綺麗に、麗しく笑う。

「で、でも長い髪嫌いって…」

「だってその…ほ、他のヤツがみんな惚れちゃうから…」

「え、惚れないよっ」

「惚れてる。ぜっっったい惚れてる。」

「じゃあひとつだけ聞いていい？いや、ふたつっ」

「どうぞ。」

「私の長い髪、嫌い？」

「……好き…だよ。」

「じゃあ私のこと、好き？」

「──っ!!す、好き……だよ…？」

「よし、ＯＫ。」

「お、俺のことはどうなの？」

「言わなくたってわかるじゃんっ」

「ぜんっぜんわかんない。」

自分だけなんてズルイ。

「───っもう！好き…だよっ」

ニカッと笑い、恥ずかしそうに俯く。

「合格。」

俺はリンを抱き締めた。



























◆翌日◆

「リン…？」

「サイドテールにしてみたの♪どう？」

「か、可愛いよ。」

「本当!?」

リンは俺を殺したいのだろうか。

確信犯じゃないっていうのも厄介だな…

「明日はポニーテールにしよっ」

「ポ、ポニッ!?」←ツボらしい(笑)

俺の苦悩は続くようだ。





fin.