カイル・フロートの日記/後編

投稿日:2021/01/20 17:33:10 | 文字数:4,385文字 | 閲覧数:115 | カテゴリ:小説

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肉屋カイル・フロート日記の後編。

基礎となる物語は、11月にコラボに提出した、
「ブラックペッパーナイト」になります。

リンク貼っておきます。
「ブラックペッパーナイト/短編
https://piapro.jp/t/IfEa

当短編前編のリンクはこちら
「カイル・フロートの日記/前編」
https://piapro.jp/t/Xuxn

出演、KAITO、ミクオ、MEIKO

この物語はフィクションです。

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TEXT
 

 9月9日。
 だいぶ日記の間が空いてしまった。そして、今年の祭は来月じゃないか。これは早く準備をしなければ。
 今年の肉は、ちゃんと用意してある。腐らせ初めて3日目。誰かに盗まれたりしないように、柵と土のある広い裏庭に置いてある。
 俺の仮宿は、時々腐敗臭を気にして、殺虫剤を撒きに行く。無駄な足搔きだが、防臭効果くらいはあるかも。
 この星には、地上の生き物と言うものは、ニンゲンの他に、家畜とペットくらいしかいない。
 しかし、その家畜とペットに寄生して来た、僅かの「虫」が、新しく地上に住み着いて悪さをしている。害虫と言うと、ダニやノミが主だ。
 他の星では、肉が腐ると「蝿」がたかり、その卵から生まれた「蛆」と言うものが肉に住み着いたらしいが、そう言う現象は起こらない。
 この星の地上には、他の星で言う、「分解者」がほとんどいないのだ。そもそも、千年くらい前までは、地上は熱に強い植物以外、住める場所じゃなかった。
 恒星の他に、星に熱を届ける小型の星があり、その星が近くを通る時、「熱波の季節」と呼ばれる現象が起きて、地上のほとんどの生命を根絶やしにしていたからだ。
 その小さな星が無くなってしばらくしてから、別の星から地上人が来た。自分達を守る存在を連れて。
 ミカはそのことに詳しい。あいつはこの星がまだ「混沌」の中にあった時にいた「親」の記憶を、丸ごと受け継いでるんだ。
 言葉で伝わったわけじゃない。「親」から分裂するとき、「両親」の情報が丸ごと転写されて、ミカと言う存在になった。
 あいつは、俺達の「親」の、正しい呼び方や、この星で起こった現象の表現の仕方を知ってる。そして、「親」と寸分たがわぬ意識構造を持ってる。
 だから、ニンゲンって言うもを、すごく「慈しんでる」。あいつ、しゃべり方の割には、中々、詩人なんだ。でも、「トリック」を仕掛ける時は、容赦しない。
 ミカとしてはそれなりの「主張」があるんだろう。
 自分がいくらニンゲンを慈しんでも、ニンゲンにとっては、自分達は「古き神」の子孫、つまり「魔物」でしかないんだって言うことへの反感かな。

 9月19日。
 10日しか経過してないのか。ああ、今年は上手く行くのかなーなんて、心配になってきた。
 何せ、俺の仮宿が、「寒くなってくるからって、毎年腐った肉を放っておくなんて!」って言う、意識改革をしてしまって、俺が全力で止めないと、折角腐らせた肉を処分しようとするんだ。
 意識の底に住んでいる俺の「全力」だと、腐った肉を見た途端「げんなり」させて、処分するやる気を失わせるか、捨てる骨を貯蔵しておく小屋に「一時的に隠す」くらいしかできない。
 視界から消えれば、「ああ、片づけたんだな」って思うらしく、俺はここの所、仮宿が眠った直後、「腐った牛の死骸」をせっせと移動させる作業をしている。
 骨を捨てる時期になったら、小屋から出して家の裏庭の隅にでも放置しておく。そうすると、隣の犬が腐肉のにおいにつられて夜中になっても鳴きやまない。
「なんだか今日はうるさいなぁ」なんてブツブツ言って、裏庭を観に行こうとするから、意識の底から「面倒くさいから明日にしろ」って囁いて、気をそらす。
 仮宿よ、お願いだから、お前はすっとぼけたままで居てくれ。11月が来れば、その腐った肉は消滅するから!

 9月29日。
 別の星の言葉で、こう言う時は、「ジーザス」って呟くもんなんだって。ニホンゴって言うものでは、「なんてこった」って意味らしい。
 ついに、仮宿が腐った肉の在りかを突き止めて、肉を火葬してしまった。
 気づかれた原因は、隣の犬だ。家から逃げ出してきて、腐肉のにおいがする場所でキャンキャン吠えたてたんだ。
 腐りきって、肉から腐敗液が出てる死骸を見つけ、仮宿は、家に帰って俺が祭の時につけてるガスマスクを取り出して装着し、広い土の上で臭いものに油をかけて、着火した。
 此処が、「野外焼却」が許されている田舎であることを、こんなに恨んだことはない。
 今から肉を腐らせるにしても、もう気温も下がってきてるし、いつもみたいに「緑色に熟成しきった腐肉」は用意出来なさそうだ。
 一時的に仮宿を離れ、「俺の持ちネタ返せー!」って、空に絶叫しちゃったよ。髪色のこと気づかれると危険だから、すぐ、この忌々しい仮宿に戻ったけどさ。

 10月1日。
 やばいやばいやばい。あと29日間で、今年の祭のネタを準備しなくちゃ。
 祭の当日は、仮宿には強制的に眠ってもらって、夜間の間、俺がこの体を支配する。ずっと1つの個体の意識の底に住んでると、そう言う無理も多少は利くようになる。
 だけど、今年はいつものようには行かなそうだ。
 どうするか小一時間考えた挙句、骨を取ってある小屋に向かった。そして、捨てる直前の骨の山を、裏庭の土の中に埋めた。
 此処が、土のある田舎であることを、俺は一昨日の事を忘れて感謝した。
 分解者のほとんどいない、暖かい土の中にあれば、骨の中の骨髄は、きっと「無事に」腐りきってくれるはず!
 そう祈っておいた。埋めた場所は、しっかり覚えておいた。

 11月2日。
 やりきった。もう、完全燃焼した。準備で。「旋風」の術が使えるかどうかも怪しいくらい、骨を割る仕事は大変だった。
 しかも、骨髄の形が少し残ってるくらい、「適度に腐敗した骨」しか選べないから、骨を割って粘着質な液体が出てきた時は、やっぱり「ジーザス」ってなった。
 辞典を引いてみたら、「ジーザス」って、「救世主よ…」って呟いてるのと同じことなんだ。
 その他の星から来た「唯一神」とか、「救世主」とかのせいで、俺達は「魔物」ってことになってるんだよなーって思うと、なんか俺が「ジーザス」って言うのは変な感じだ。
 流行言葉だからって、何でも良い意味だと思っちゃダメだな。
 なんであれ、ぶちまける物は少し変わったけど、今年もニンゲンに「適度な迷惑」をかけて、1日地下で休んでから帰って来た。
 一晩中重労働を強いた仮宿は、俺が離れた後も疲れ切って眠っていたようで、今年は髪色の変化に気づかれなかった。
 其処は安心すべきなんだろうけど、いつもの「あれ?」って言う台詞が聞けないとなんかつまらないな。
 流行言葉と言えば、千年前にこの星に来た最初の「他の星のニンゲン」が言った言葉で、「分かったか。これがニンゲンだ」って言う台詞が、この星の一部で流行語になっていた。
 ニンゲンの時間で言えば、千年前の言葉なんて、流行語って言うか、最早ことわざだな。
 ついこの間…俺達の時間で言えば、ついこの間、千年前の映画の復刻版が「建国ミレニアム記念上映」と言うものをされて、このことわざがまた流行り始めたんだ。
 この言葉は、色々置き換えられることがあって、「分かったか。それがニンゲンだ」になったり、「分からないか? これがニンゲンだ」に成ったりしている。
 割と皮肉とか、ブラックジョークにも使われる言葉になっているので、「流行言葉」であることは変わらない。

 12月14日。
 寒くなってきた。俺の仮宿も、仕事場の片隅に小さなストーブを置いて、時々冷え切った指を温めている。
 ゴム手袋をしていても、熱を失った生肉は冷たいようだ。
 あと10日すると、久しぶりに「ごちそう」が食べれるな、と思って、俺はワクワクしていた。
 夜中に、眠りこんだ後の仮宿の体を操って、ミカの知り合い、メガロンがくれた瓶詰を確認しに行く。
 この瓶詰は、床下の貯蔵室の中に隠してある。ニンゲンが見たら、シナモンスティックとシロップと空気が入ってるだけに見えるだろう。
 ところが、この「空気」は空気じゃない。生物の体から離れたエネルギーの塊。「魂」と呼ばれるものだ。
 仮宿の意識の底を住まいにしていても、普通の生命体からのエネルギー供給じゃ、足りないと言うか…「毎日味の無いパンを食ってる」のと同じ状態になる。
 そこで、たまには「ちょっと味付けをしたごちそう」が食べたくなる。そう言う時に、俺達はこのエネルギーの塊を食べる。
 祭の日は、どちらかと言うと「仲間同士ではしゃぐ日」だから、達成感はあれど消耗する。他の連中から魔力の供給があるので、腹が減ったのも忘れるほどハイに成れる日だが、その後のローがきつい。
 それこそ、次の日は地下でボーッとしてるくらいしかできない。
 そこで、クリスマスは「ごちそうを食べてゆっくりくつろぐ日」になっているのだ。
 よっぽどの事情が無きゃ、働こうって気にはならないね。

 1月13日。
 今年はこの日が金曜日だ。地上人の古い文化だが、何でも「唯一神」を信じている連中は、13と言う日付と金曜日が被るこの日を「不吉な日」としているらしい。
 何が不吉なのかは分からない。地上人の一部の歴史の中で、「悪い事」が起こった日だから、と言う理由らしい。
 じゃぁ、もし、歴史的に、13日の金曜日にトーストにジャムを付けて食べたら、毎年13日の金曜日には必ずトーストにジャムを付けて食べると言う現象が起こるのだろうか。
 そう言うのをニンゲン達が「習慣」にしてれば、そうなるか。
 俺達にとっては、これを機会に、「唯一神」を信じてる連中に、ちょっとした悪戯を仕掛けても良いかもしれない。
 でも、ニンゲンの中の誰がどの「神様」を信じてるかなんてわからない。今年の「司祭」に提案してみようかと思ったが、やめておこう。事前調査が必要な「トリック」なんて、面白くもない。

 2月17日。
 ああ、俺の誕生日が…って言って、仮宿がまたショック受けてた。今年も、ひとしきり肉の解体をして一日を過ごした。
 途中で、メギコルが遊びに来ていたが、仮宿は気づかなかった。
 メギコルがニンゲンの女だったら、嫁さんとして紹介してやっても良いんだが、種族が違うからなぁ。
 メギコルは、ニンゲンには憑依しない。固有の形が他の同族よりはっきりしていて、その形に愛着を持っているからだ。
 上半身はニンゲンに近いと言えなくない。耳がとがってて、珊瑚みたいな複雑な形の角が4本生えてるけど。
 顔だけ観たら、ニンゲンの醜美の判断からすると「イイ女」ではあるだろう。下半身は細長い深海魚だ。ニンゲンの醜美の判断からすると…どうなんだろう?
 もちろん、ニンゲンに憑依しない連中は、実体がない。空気みたいなものを嫁さんにもらっても、仮宿も嬉しくないだろう。
 こんなすっとぼけた奴もいつかはニンゲンの嫁さんと家族ができるかも知れない。それまで、俺が面倒見てやるから安心しろ。
 だけど、祭の準備は邪魔するなよ。

主に作詞作曲を行なっています。
曲調はパンクロック?
動画をたくさん作ろうと言う活動を始めたうえで、
みなさんの美麗なイラストを借りれたら良いな…。
と思ってのこのこと参りました。
使用ボカロは、初音ミク、鏡音リンレン、GUMI、IA、Mew。

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