7.突然の別れ

 月のせいではなく少年の体はわずかに発光しているようだった。
少年は私の方をゆっくり向いた。
私は先の光景を思い出し、恐怖を感じ、立ちすくんでいた。

「ありがとう……」
意外な少年の一言に私は戸惑った。

言葉の出ない私に少年は続けた。
「俺は大丈夫だから…… 姉ちゃんのこと 頼みます」
私はやっと言葉をきりだした。
「そんな、大丈夫なわけは……」
少年の体に目をやる。

少年の体にはなぜか火傷の跡は残っていない。
胸に大きな傷跡だけ残っているが、傷そのものは完治している。
「どうして? 君の傷は……」

「俺のは、自分でつけた傷だから……胸の傷は俺のじゃないけど」
少年は理由を答えたが、私にはその意味が理解できなかった。
「君はお姉さんが起きるまで一緒にいないのか?」
少年に対する恐怖がやや薄まった私は、質問を投げかけてみた。

少年は一瞬、何かを言おうとして言葉を詰まらせた後、
私から目線を外し、月を見上げながら答えた。
「俺は戦争を終わらせに行きます。この力はやっぱりそのための力だと思うから。
それに……もう大切な人を失いたくないから」

少年の背中は決意に満ちていた。
私がどのような声をかけてやればいいのか迷っていると、少年は言葉を続けた。
「できれば、姉ちゃんにはこのまま目を覚ましてほしくない。
もし目が覚めても、俺のこと追わないように言ってくれますか?」

再びこちらを見つめなおした少年の悲しい決意に満ちた目を見ると、
私はただただうなずくことしかできなかった。

少しばかりの笑顔を見せた後、
少年はすーっと重力から解き放たれ、私たちの居る小屋を後にした。

 全ての話を聞き終えたシンデレラは茫然としている。
「う、うそだ……うそだって言って……」
少女は隣に座っている青年に懇願した。

「すまないが、全て事実だ」
トラボルタはうつむきながら、少女の懇願に対し答えた。

少女の目は明らかに動揺を示している。
「わ 私 行かなくちゃ。ロミオが待ってるよ」
手をつき、ベットから降りようと試みるが、少女の体は力なくベットから滑り落ちてしまった。

「まだ、無理だよ。追いかけたくてもそんな体じゃ。今は体をなおすのが先決だ。
ゆっくり休んで、落ちついて考えればいい。これからどうするのか。どうしたいのか」
トラボルタは少女の体をひょいっと抱えあげて、ベットへと戻した。

「うん……」
素直な反応に少し戸惑ったトラボルタだったが、
少女に優しく毛布をかけて部屋から出て行った。
ドアを背にして少し立ち止まる。部屋の中からは少女のすすり泣く悲しい音が聞こえていた。

ライセンス

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  • この作品を改変しないで下さい
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紅のいかずち Ep0 ~シンデレラストーリ~ 第7話 突然の別れ

紅のいかずちの前章にあたる、エピソード0です。
この話を読む前に、別テキストの、まずはじめに・・・を読んでくれると
より楽しめると思います。
タグの紅のいかずちをクリックするとでると思います

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閲覧数:121

投稿日:2009/11/21 22:37:46

文字数:1,109文字

カテゴリ:小説

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