禁じられた遊びに手を染めた少女たち。
それはいつしか、消えない傷と悲劇を生む。





「鬼ごっこは、終わりが来るまで永遠に続くのですよ…お兄様」






























----- 禁じられた遊び【original】-----


































ここは、ある学校。
その学校の演劇部は、かなりの実力を持っていた。

その中でも特に演技力が高いのは、ある少女。



「未来ちゃん、おはよう!」
「うん、おはよう」



緑髪のツインテール・未来だ。


この少女は、あたえられた役を完璧に演じる。
まるで、本当にその人のように。




「あ、お兄様」
「未来、おはよう」



その未来には、兄がいる。
名は、楽歩。

彼もまた、演劇部だ。


その兄弟は、周りから見てもとても仲が良かった。




***



ある日、演劇部の一人である蓮が言った。


「なぁ皆、今夜ちょっとしたゲームをしないか?」
「ゲーム?」


蓮は最近、身の回りに変わったことが起きてほしいと思っていた。
だから、皆にゲームをふっかけたのだろう。


「蓮、ゲームって?」


鈴が尋ねる。


「鬼ごっこだ」
「鬼ごっこ…?」


流歌が少し落胆した表情で蓮を見る。
蓮は指を振りながら言う。


「ただの鬼ごっこじゃない。演劇部の特性を生かすんだ」
「演劇部の特性…演技力が高いことね」


鈴が納得した表情で言う。


「まず一人、演技力が特に優れた者が鬼になる」
「それで?」
「その人は、参加しているすべての子(逃げる人)を捕まえるまで、ずっと鬼をやる」
「全員捕まえたら終わり…ってわけね」
「そう。」


この部で演技力が特に優れた者といえば、未来だ。


「ていうか、それじゃただの鬼ごっこじゃん」


鈴がつまらなさそうに言う。


「だから鬼には特別ルール。どんな手を使ってもいい」
「落とし穴を仕掛けてもいいの?」
「そう。何してもいい」
「殺して…でも?」


場が、一瞬で静かになる。


「なんでもありのルールでも、ちょっとそれはキツイんじゃないか?」
「そうだね。じゃ、頼んだよ、未来」
「わかりました…

 何をしても…いいんですね?」
















その日の夜、みんなは学校に集まった。
集まったメンバーは、全員が演劇部。

楽歩、海人、鈴、蓮、流歌、芽衣子、恵。
そして鬼役の、未来。



「ねぇ…ここでやるの?ちょっと狭いんじゃない?」


鈴が蓮に言う。


「そうだね…かといって、他にどんなところがあるか…」
「廃病院とかは?」


蓮がうんぬん言っていると、海人がそう言った。


「…ちょっと怖いような気もするけど…近くにそんなとこある?」
「あるわ」


流歌の質問に、芽衣子が答えた。
芽衣子に、全員の視線が集まる。


「廃病院ではないけど…今は使われてない屋敷があるよ。ほら、あそこに」


芽衣子が、学校の近くの、古くて大きい建物を指差した。














目的の場所までメンバーが歩く。
歩きながら、恵は未来に尋ねた。


「未来…その荷物は一体…?」


未来が持っている、スーツケースを指差して。


「今日の鬼ごっこで使う道具を持ってきたんです」
「道具?確かになんでもありのルールだけど」
「はい」


未来は、演劇の為なら準備も惜しまない。
たいしたものだ。


「ところで…その道具には何があるの?」
「落とし穴を設置する為の仕掛けとかです」
「落とし穴…地味に怖いわw」
「まぁ、頑張りますからw」







そんなこんなで。



「着きましたね」


目的地の屋敷は、かなり大きかった。
学校と同じ、いやそれ以上の面積かもしれない。

扉を開けると、ギイィと嫌な音がする。
古いからどうしようもないが。



入ってすぐのところにあったのは、大きなロビー。
一つしかない窓から、月の光がかすかに差し込む。



「それじゃぁ始めるぞ。未来、1分数えてからな」
「了解しました」
「よし。じゃ…スタート!」



蓮の言葉を合図に、未来以外の全員が散った。
そして、メンバーを見る未来の目も変わった。













芽衣子が逃げた先は、応接室。
ロビーから近い場所だ。


「未来の足は私より遅いからそう簡単には…」


芽衣子が後ろを振り向くと、そこには
未来が居た。


「油断は禁物ですよ、芽衣子さん…」


未来の右手が、芽衣子の肩に触れた。
左手には…



「ちょ…未来…なにを…!?」
「一人目…確保」



















海人が逃げた先は、食堂。
大きな、しかし壊れやすそうなテーブルが置かれている。

この食堂は、ロビーから走って5分くらいの場所にある。
基本的に参加しているメンバーは、ほぼ全員が足が速い。
未来は演劇部で一番足が遅い。
海人は演劇部で2番目に足が速かった。

だからこそ、海人は自分が逃げ切れると思っていた。


「そう簡単には…」


急に海人の視界が暗くなった。
海人が落ちた場所は、未来が作った落とし穴だった。


「な、なんで…」
「海人さん。油断大敵ですよ…」
「み、未来!?」


(まだ2分くらいしか経ってないぞ!?なのに、どうして足が遅い未来が…)


海人の思考はそれにばかり気をとられていて、未来の行動に気づかなかった。


「二人目、確保」
「み…未来…」


海人が気づいたときには、未来の右手は海人の腕を掴み、未来の左手は




何かを握っていて、それを海人に振り下ろした。















「…!何、今の…」


鈴が書斎に着いたとき、鈴の耳には‘声’が聞こえた。


(今の声は…海人さん…?
 何、今の…
 まさか、もう捕まったの?)


鈴が場所を変えようと、立ち上がったときだった。


ガッ


「え…?」


鈴の真横をかすって壁に突き刺さったものは。


「な、なにこれ…ナイフ…?」


そして、もう一本飛んできた。


「ひゃっ…!」


寸前でかわす。



「鈴さん…そう簡単に、逃げれると思ってませんか?」
「み、未来!?」


鈴は未来の姿を見て、かすかに怯えた。
未来の目が、いつもの目でも演技の目でもなかったのだ。


「未来…これは、やりすぎじゃあ…」


じりじりと後ろに下がる。
そして、壁に追い詰められた。


「…なんでもありのルールよ、鈴さん」
「で、でも…」


怯える鈴の目には、ただ冷たい表情をした未来の顔が映っていた。


「さ、鈴さん」
「…い、嫌よ、いやだ」


未来の右手が、鈴の肩に触れる。
鈴は、ただ涙目で固まっていることしかできなかった。


「三人目…確保」
「い…いやよ、未来、なんでこんなこと…」


未来の右手はおもいっきり鈴の肩を掴んだ。
そして左手で握っていたナイフを鈴に振り下ろした時、鈴の絶叫が響き渡った。

















「さ、さっきの叫び声は…鈴ちゃん…」
「鈴ちゃんは捕まったのかしら…」


恵と流歌は、鈴の叫び声に反応して、走る足を止めた。


「なんで叫んでるの…?」
「そんなに怖いのかな…って恵ちゃん、うしろうしろ!」
「え?…ってうわああぁ!」


うしろから未来が来た。
二人は全速力ダッシュ。


「ちょっと流歌…なんで未来が、あんなに足速いの?」
「え…?た、たしかに…ってうおおおおおおっ!」


未来は走りながら、手に持っていた銃をチラつかせる。


「み、未来…それはやりすぎよ…」
「ていうかなんでそんなもの持ってるのよ…」
「…なんでもありのルールですから」


いつのまにか未来は二人に追いつき、二人の肩に触れてから突き飛ばした。


「きゃあッ!…な、なんでこんなことするのよ、未来…」
「そうよ…い、いつもの未来じゃない…なんで…」
「黙っててください…四、五人目確保」


未来は銃の引き金を引く。




「い…いやあああああぁッ!!!」











「な…なんだ?今、流歌と恵の声が…」
「…言いだしっぺ、発見」
「え?み、未来何す…うわああああああああああぁッ!!」
「六人目確保…残り一人」



















「なんで…誰もいない…?」


楽歩は、地下に迷い込んだ。
屋敷の地下は、窓も電気もなくてほとんど真っ暗だった。


「…誰か来る…?」


足音を感じ取った楽歩は、物陰に身を隠す。



「…未来。みんなは?」
「…残り一人、発見」
「え?ってうわッ!」


銃を握る未来の姿を確認した楽歩は、逃げ出した。
未来は、それを追いかける。
銃をもって。


「未来…皆は?っていうかなんでそんなもの…」
「皆さんは私が確保し、処理しました…残るはあなただけです、お兄様」
「処理って…まさか、お前…」


楽歩は、恐怖を感じた。


「未来…何が目的だ」
「お兄様には関係ありません…」


未来が楽歩に発砲した。
楽歩はギリギリで避けたが、その瞬間を狙って未来はナイフを投げた。

そのナイフはかわしきれず、楽歩の腕をかすった。


「…ッ!」

「お兄様、いいかげん捕まってください」
「や、やめ…ッ」


次々と未来は攻撃してくる。
だがそれらを全てかわせるはずもなく、気づけば楽歩の体はボロボロになっていた。


「ていうか未来…お前いつからそんなに足が速く…」
「…演技とは不思議ですね、本気で演じるつもりになれば、本当にそれになるのですから」
「何を…」
「まぁどちらにせよ、お兄様には本当に関係がありませんから」
「くっ…」
「油断は禁物ですよ…」




月が見えない闇の中、銃声と足音だけが鳴り響く。
そして広がるのは…赤い赤い‘鉄’の匂い。

そして、その闇をさまようのは、一人の少年。



「うっ…だ、誰か…たすけ…」



そこへ近づく、静かな足音。



「逃がさないわ…」
「!! やめ、ろ…正気に、戻るんだ…」
「無駄よお兄様…絶対に逃げれないわ」
「やめろ…キミは、正気に戻るべきだ…!」



ある少女に怯える少年。
少年の声は酷く弱弱しいが、少女の声は人とは思えないほど冷たかった。

その少女…未来の美しく長かった髪はいつのまにか短く切られていて、かすかに赤黒く染まっていた。



「さぁお兄様…」
「ひっ…来るな!」



その少年、楽歩は必死で逃げる。

暗闇の中を。


その暗闇の中で、銃声と悲鳴と足音だけが聞こえていた。




そしてしばらくすると、悲鳴と足音は止む。
楽歩は、歩けなくなって壁にもたれかけていた。
未来は、倒れている楽歩の左胸に銃を突きつける。


「勝負はつきましたね」
「やめてくれ…未来…」
「無駄です。『禁じられた遊び』を始めたら、果てにある終わりが来るまで、永遠に続くのですよ…」
「だったら、早く終わらせよう!こん、なことは、しては、いけない」
「そうですか。でしたらお兄様…



 またあの世で会いましょう?」
「や…やめろおおおおおおおおおおおおおおおおぉッ!!」





静かに銃声が鳴り響いた。





「全員確保。さぁ、私も行きましょう…」








最後の銃声は、残された少女一人に向けて発せられた。


























ある日、ある学校の少女たちが行方不明になった。
その少女たちは、ある古ぼけた屋敷で、決して動くことのない体となって発見された。









*=*=*=*=*=*











少女たちはある少年の提案で、鬼ごっこを始めました。

しかし、それはある少女・未来の行動により『禁断の遊び』の領域に入ってしまいます。

そして肉体が死んでも、精神はあの世には辿り着けませんでした。

彼女たちの精神は、閉じ込められた暗闇の中で、永遠に終わらない鬼ごっこを、今も続けているのです。

そう、永遠に…。




皆さん、身のまわりに変わった遊びはありませんか?

それは、もしかすると『禁断の遊び』への入り口かもしれませんよ。

お気をつけくださいね…

…え?私が誰だって?

どこにでもある、ちっぽけな話の語り手でしかありませんよ。

ただそれだけです。




それでは皆さん、ごきげんよう。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

禁じられた遊び【original】

「アクマになった、狂った少女」


いつもより暗めに書きました。
ギャグ要素はゼロです。


名前の表記ですが、勘で察してください。

閲覧数:1,354

投稿日:2011/11/11 20:54:36

文字数:5,175文字

カテゴリ:小説

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  • 姉音香凛

    姉音香凛

    ご意見・ご感想

    おぉおおおおおお←

    ・・・なにこれ怖い((((;´゜Д゜)))
    未来は何の役を...恐ろしい...
    そしてまさかの漢字表記((どうでもいい←

    はっ!よく読むとGUMIがいたっ!!わーい!
    そしてころさr・・・やめぇえええーい!!(黙ろうか。

    なんていうか怖かった!一言で言うと怖かった!!

    2011/11/12 13:56:17

    • ゆるりー

      ゆるりー

      香凛さん、メッセありがとうございます。

      怖いですか。そうなるように頑張ったので嬉しいです!

      未来は…よくわからないですが、とりあえずは「鬼」です。
      そう、まさかの漢字表k((

      GUMIちゃんに「出せ」と脅されまして((
      結局は全員がバットエンドです。

      そ…そんなに怖かったですか!?
      メッセありがとうございました!

      2011/11/12 17:46:29

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