『おはようございます、マスター』

パソコンの中から聞こえる音声で目が覚める。

「……おはよう」
『昨日は作曲お疲れ様でした』
「もう少ししたらちゃんと形にして、君に歌ってもらうから」
『ありがとうございます』

目と目が合う。
ボーカロイド、それは歌を歌う機械。
恋なんて出来はしない。
けれどもこのアイコンタクトは唯一の愛の証だろう。

「ちょっと、そんな機械いじってないで片付け手伝って」
「機械じゃない、俺の恋人」
「…はいはい、わかったから早く片付けて」

普通の人には理解されない。
2人だけの世界。
これでいい。
あぁ、機械の中へ入れるのなら。

とあるutauを見つけた。
それは実在の人物の顔、実在の人物の声から作られた存在。
俺もこうなりたい、そう思った。
けれども所詮は機械。
記憶までは同じではない。
コピーはコピー。

『マスター、大丈夫ですか?』
「…なんとかね」

話しかけてくれるのは彼女だけ、心配してくれるのは彼女だけ。
もう彼女さえいればほかに何もいらない。
しかし残酷な現実というものはすぐにやって来る

「………ここにあったパソコンは?」
「あぁ、それ捨てた。古かったし、でかくて邪魔だったからね」
「…なんで捨てたんだよ」
「パソコンばかりしてちゃダメだよ、現実に向き合わなきゃ」

もう彼女はいない。
笑ってくれない。
歌ってくれない。
話しかけてくれない。
残ったのは現実。

「ちょ、泣くことないじゃん。しばらくちゃんと現実を見てから、また新しいの買ってあげるからさ」
「……それでも彼女は戻ってこない」
「…現実の彼女見つけなよ」

現実なんてものは残酷でくだらない。
人は何かに依存しなければ生きてはいけない。
俺は彼女を愛し依存していた。
けれども彼女がいない今……。


『マスター…』


ふと、彼女の声が聞こえた。

「ああ、そうだね…。大丈夫、ずっと一緒にいるから」

現実なんていらない。
体なんてもういらない。












ひとつの事例がある。
パソコンを抱えたまま事故で屋上から転落した少年。
なのに、死亡したはずの少年の声が聞こえた。
それは彼が抱きかかえていたパソコンから。

そう、人の精神がパソコンの中に入ってしまったのだ。









『マスター、こんなとこで眠っていると風邪をひきますよ』
「……現実だったら、そうだろうね」
『?』

小首を傾げる彼女の頭を撫でて、キスをした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

キカイイゾン

病んだ。
誤字報告などありましたらよろしくです。
できれば歌詞化イメージイラストもよろしくです。

閲覧数:701

投稿日:2013/03/11 14:16:23

文字数:1,041文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画0

  • 好音トワ

    好音トワ

    ご意見・ご感想

    ああ…、いいなぁ…
    わたしもパソコンの中へ…

    …ほわっ!?(゜Д゜)
    いやいや!私にはまだこの世界でやることが!

    …でもいいなぁ…w

    2013/03/11 21:32:52

    • 湯島結代

      湯島結代

      なんかトワさんだったら入りそう。

      感想どうもです。

      2013/03/12 07:57:51

  • 水鳴 倫紅

    水鳴 倫紅

    ご意見・ご感想

    どうやったら、奇跡は起こりますか?
    死ぬしか……無いのですか?
    UTAUはボディを得ることが出来ないから、自分がキャラクターになるしかない……。
    (病み踏襲w)

    2013/03/11 18:22:55

    • 湯島結代

      湯島結代

      奇跡は起こらないのならばそういうのも一種の手段かと。

      感想どうもです。

      2013/03/12 07:56:16

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